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チラシの裏

甘粕と里見甫

2007年01月03日 | ノンフィクション
「阿片王 佐野眞一著 新潮社」
満州という国は戦後日本の高度成長のたたき台となった。特急あじあ号の最高速度は新幹線開通当時のこだまと同じだ。水洗便所、セントラルヒーティングなど、戦後日本のモデルがそこにあった。それは満州国での若手官僚、実業家たちが戦後の第一線にたったということを意味し、戦後日本の繁栄は満州と地続きだったともいえる。その満州と関東軍を金で支えたのが阿片王と呼ばれた里見甫という人物だった。民間戦犯第一号として収監されたことからも連合国側はこの人物をマークしていた。中国の阿片を上海で売りさばいて、ゆうに国家予算規模の金を動かし、そのあがりを満州関東軍にわたしていたのだが、私欲はなく受け取った報酬も誰くれとなく渡していた。そんな恬淡さがまた軍からも阿片関係者、中国要人からも一目置かれる存在となる。巣鴨から釈放されたあとの戦後は一転して薔薇と女と宗教に身をささげる。
この里見という人物の中身は謎に包まれ、著者はその一端を握ると思われる秘書(愛人?)の男装の麗人を探して日本を調べてまわる。しかしこの男装の麗人も出生から謎につつまれ、迷宮に迷い込んだような人間関係の中でさすがの佐野眞一も呆然と謎を謎のままにするしかなくなる。

「『甘粕大尉』増補改訂 角田房子著 ちくま文庫」
前の里見甫に比べると理解しやすい。性格的には東條英樹と近いタイプのような気がする。絶対的天皇制のもとで自己実現イコール天皇の意思という生き方しかできない人間であった。それが一方では陸軍をもねじふせて満州の規律を通させる有能な男であり、一方では絶対天皇制で他民族を支配することも厭わない男でもあった。ただ、満州が崩壊したとき、自分は殉ずると決め、他の人間たちへの配慮を忘れなかったのは、軍人とは違うなにかがあったからだろう。
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