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ディクスン・カー試論 ネタ蔵 その3

2022年09月12日 | JDカー
『探偵小説の謎』の謎
『探偵小説の謎』は、いまはなき教養文庫の一冊(著者はもちろん江戸川乱歩)ですが、
当時(奥付には昭和33年9刷)の版元名は、社会思想研究会出版部、という厳めしい名だったのですね。
この中に「魔術と探偵小説」という項があり、子どものころに読んだ自分は翌日に本屋へ走っていってカーを買いました。

ところが、この「魔術と探偵小説」の中に、「『黄泉帰り』には死者再現の神秘が……」とカーの本が紹介されています。
ほとんどが翻訳される前のことで邦題はともかく、カーにはそんな内容の本はありません。
「魔術と~」は乱歩『随筆探偵小説』に入っていたもので、
今は光文社文庫江戸川乱歩全集第25巻『鬼の言葉』で読むことができます。
「魔術と探偵小説」は昭和21年10月に新青年に発表されたものですが、
その項のすぐ前にある「グルーサムとセンジュアリティ」の中で、
「『黄泉かえり』(「ツウ・ウェーク・ザ・デッド」)には大トランクの~」という一文があり、
「黄泉帰り(がえり)」=「死者はよみがえる」であることがはっきりします。
ふたたび、しかし、この「グルーサムとセンジュアリティ」は昭和21年9月に「赤と黒」という雑誌に発表されており、
『死者はよみがえる』を乱歩はいつ読んだのか、気になってしまいます。
少なくとも「魔術と探偵小説」の原稿を書いた時点で
乱歩は「死者はよみがえる」(「To Wake The Dead」)を読んでいなかった、としか考えられません。
「続・幻影城』所収の有名な「カー問答」にも、やっぱり「ツウ・ウェーク・ザ・デッド」には死者再現の神秘が……、と書かれていて、
ここまで書かれると、本当にそういう場面があったかと信じそうになります(「カー問答」は昭和25年発表)。
というか、乱歩はそういう場面があると信じていたのかもしれません。
「カー問答」では、乱歩は「死者はよみがえる」は二回読んだ、読んだがよくわからない、と言い、
「死時計」もなんだかよくわからない、と書いています。
その分からなさを「チェスタトン風」ということにして、自分を納得させていますが、
つまりはカーの書き方『書きたくないけれど、書かないとアンフェアになる』という踏ん切りの悪さが、
そう思わせているように感じられます。
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