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チラシの裏

爬虫類館の殺人

2012年11月15日 | JDカー
前にも書きましたが、糊つきテープで目張りされた密室トリックと、
そのミスディレクションについてひとこと。以下ネタばれあります。

ネタばれ
HM卿と主人公の2人が現場に着き、「爆撃機の音」と言ったのはHM卿と作者による地の文です。
やっぱり探偵(と作者)がミスディレクションに一役かんでます。

この作品のキモは、マイク・パースンズ(爬虫類館管理係)というキャラクターを設定した点にあるでしょう。
ですから作品の冒頭はパースンズの視点から語られるところから始まります。
この人物のやや(ずいぶん?)偏った性格を、カーはまず提示してみせます。
自己中心的で狭隘な性格を描くことがフェアプレイだと思ったのでしょうか。

真空掃除機の音を爆撃機の音にように思わせるというプロットは(犯人のトリックではない点に留意)、
「灯火」というマイク・パースンズの声が聞こえてきてはじめて成り立ちます。
偶然とはいえこのタイミングで「灯火」とパースンズに嘘を言わせるためには、
パースンズを都合が悪くなると嘘を言うという性格に描く必要があります。

しかもフェアでないといけない。

謎解きのパートになって初めて探偵がこの男は嘘つきだった、と指摘するのは、アンフェアですからね。
だからしきりと文中で「嘘つき」と書かれていますし、
HM卿がトカゲに追われるパートで、自分の壊したケースの弁償をケアリ・クイントになすりつけようとしたのは、
パースンズの性格を読者に知らせる場面であると言えます。
つまりHM卿がトカゲに追われる場面は、
パースンズの性格を読者に知らせる伏線のために設定されたと考えられます。

ところで「爬虫類館の殺人」における犯人は、微妙な立ち位置にいました。
もし、夫(密室トリックを考案した人物)が物語に登場していたら、読者はすぐ犯人に気づいてしまうかもしれません。
だから、夫は物語にはほとんど姿を見せません(ほんの一箇所だけちらっと顔を見せますが)。

先日改訳された「黒死荘の殺人」でも、犯人が本来の姿で物語に登場している場面はありません。
最後の部分でも会話の中で様子が語られるだけでした。

このあたり「五つの箱の死」と共通するような気がします。
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