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チラシの裏

白い僧院の殺人

2017年09月08日 | JDカー
高校生のころに買った初版を再読してみたのですが、おっとビックリ、なんだこれ。
重要な場面の十数ページが落丁しているじゃないですか。
昔読んだときに気付かなかったのか、自分。

で、またもあわてて精文館へ行って現行本を購入、

読み終えてみると、H・M卿もののフォーマットがここあたりで形になっている気がします。

前半はマスターズ主任警部が捜査を担当しながら不可能犯罪に直面、
後半がH・M卿の出番となって捜査の指揮をとる。
最後はロンドンの街並みを見下ろしながら、一言しゃべって幕、みたいな感じ。
ラジオの「人生相談」で加藤諦三が最後に箴言を引用して番組を締めるところとよく似ています。

そのフォーマットも次作の「赤後家の殺人」であっさり反故になり、
次第にH・M卿の出番が多くなってくるのは、キャラクターとして利用価値が大きいからでしょうね。

作中でH・M卿がミニ密室講義みたいなことをしゃべっていますが、
これは翌年に書かれる「三つの棺」の先ぶれみたいなものですね。
H・M卿の講義はすべて「殺人者が密室を構成する」という視点で話しており、
あきらかに「殺人者と密室構成者は別」という筋を読ませないようにするミスディレクション。

有名な密室トリックは乱歩が「カーの発明したトリックの最もすぐれたものの一つ云々」と激賞したそうですが、
じつはカーはこのトリックを「バッフルブック」という探偵クイズ本の中から拝借しています。
※「奇蹟を解く男」134ページ
「The baffle book」(Garden City, N.Y. Published for the Crime Club by Doubleday Doran & Co., 1928)
「The Sandy Peninsula footprint mystery」
トリックメーカーではなく、既成のトリックを複雑なプロットにアダプトさせることに長けていた、
ということの方が正確かと思います。
もういいかげん、江戸川乱歩の書いていることを鵜呑みにしないで、
せっかくの資料があるんだからもっと利用してもいいんじゃないか。
前にも書きましたが、林不忘が藤吉捕物覚書「三つの足跡」で、
この足跡トリックをそのまま使っているところを見ると(「白い僧院の殺人」より9年も前に)、
この「バッフルブック」はけっこう売れた本だったのではないでしょうか。

藤吉捕物覚書「三つの足跡」
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