
ジェイムズ・M. ケイン, 池田 真紀子 訳 光文社古典新訳文庫 (2014/07).
あとがきによれば,過去の翻訳は 6 回だがすべて絶版とのこと.古典新訳文庫と銘打っているのだから,過去の翻訳 (田中西二郎,小鷹信光,中田耕治など) についても言及してもらいたかったところ.なお映画化も 4 回されている.映画は見ていないのにジャック・ニコルソンとジェシカ・ラングのこのポスターは覚えている.
「BOOK」データベースより*****
街道沿いのレストランで働き始めた俺は、ギリシャ人店主の美しい妻コーラにすっかり心を奪われてしまった。やがて、いい仲になった彼女と共謀して店主殺害を計画するが…。緻密な小説構成の中に、非情な運命に搦めとられる男女の心情を描きこんだ名作。*****
上の文章の「描きこんだ」というのは違う.記述はそっけなく,訳者あとがきにある「たくさんの言葉を費やして説明する代わりに,行間を埋める役割を読者に一任する著者の潔さ,巧みさが凝縮されたような作品」が正しい.刊行時は大胆な暴力描写・性描写に批判が集中したと言うが,いまの感覚では過激と言う印象は皆無.ある特殊な情況下での恋愛小説というところだろう.
小説には郵便配達は登場しない.題名 (原題は The postman always rings twice) についても訳者が説明している.しかし,always はなぜ題名から省略したのかな?
諏訪部浩一(東大准教授)という方の解説もあって,三人の登場人物の配置を「エディプス・コンプレックス」的三角形と言っている.そういう見方もできるかもしれないが,ぼく的には,こじつけかと思う.