Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

楽器としての円板

2014-12-16 06:26:30 | 新音律


12 月 6 日,下北沢の Lady Jane で灰野敬二 (guit, etc) ・太田惠資 (vln) のライブで,灰野氏により円板が楽器として披露されたとのこと.この円板楽器は櫻井直樹氏が発明されたもの.以下理工系大学の数学を用いて,その物理的な原理を紹介したい.

現在の楽器の主流は弦楽器と管楽器だが,どちらも1次元の弦あるいは気柱が振動源である.弦長あるいは気柱長,及びその 1/2, 1/3, 1/4, 1/5... を波長とする音波が発生し,音の高さと音色を決める.
円板を叩いた時の振動は クラドニ図形として可視化される.弦・菅の振動計算には三角関数が登場するが,円板の場合はベッセル関数が登場する.どこも固定されていないので自由に振動できる場合は,こんな式 - これだけである.

ν はポアソン比.最初の方程式で λ を求めると第3式から角周波数 ω が定まる.E はヤング率,h と a は円板の厚みと半径,ρ は材質の面積密度である.
第1式の n=0,1,2,... に応じてそれぞれ方程式があり,各 n に対する方程式を満たす λ は無数に存在する.これらを小さい方から m=0,1,2,...と番号付ける.すなわち,方程式の解を (m,n) という非負整数のペアで呼ぶ.

振動には2種類ある.それぞれを櫻井氏に従ってピザモード,ドーナツモードという.ピザモードでは円周方向に凹凸ができる.下の概念図のように,出っ張った部分が次の瞬間に凹むことが繰り返し振動が生ずる.いちばん単純なピザモードは半円に分割したときだが,図は3本の直系で分割したときである.

これに対してドーナツモードは同心円で分割する.その結果,半径方向に凹凸ができる.

どちらのモードにも,振動しない部分があり,それがピザモードでは直線,ドーナツモードでは円となる.これらの線 (直線または円周) を節線という.先ほどの m, n は,実はピザモード,ドーナツモードにおけるそれぞれの節線の数を表している.

下の図の横軸は n,縦軸の f は f=ω/2π すなわち周波数である.ただし ν=0.33 とした.それぞれの円には節線によりピザモード,ドーナツモードが示してある. 図の円の位置でとびとびに振動が生じる.青い部分と白い部分が交互に出入りする.この振動位置をつなぐと m 値毎に線上に並ぶ.n,m のどちらか一方がゼロでなければ,ピザモードとドーナツモードは重なり複雑な振動を生じる.



円板を叩いたり擦ったりすると,グラフで円で示したモードは全て,それどころか m,n が図の範囲を超えた高次の振動モードも生じうる.弦や管で高調波が生じるのとおなじである.しかし実際に生じるのは n,m が比較的小さいモードである.

個々のモードの振幅は残念ながら計算できない.
円板は宙に浮かすことはできないので,なんらかの方法で支持しなければならない.この支持方法がモードを支配する.
また楽器としてマレットやスティックで叩いて演奏するとき,叩く位置によってどのモードを起こすかをコントロールできる.冒頭に紹介した灰野氏の演奏は楽器のこの特質を最大限に利用したとのことである.

はじめに式で示したように, λ と a (円板の半径) は比例する.大きさの異なる円板を並べれば旋律楽器が出来るのだが,その詳細はまた...

計算の詳細は,
A.W. Leissa "Vibration of Plates" NASA SP-160 (1969) http://ntrs.nasa.gov/search.jsp?R=19700009156
この文献は無料でダウンロードできる.

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