Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

グラスハープの倍音

2015-04-11 07:47:35 | 新音律


前回の続き.
上の図 左上はグラスハープをこすったときのスペクトル.その右はそのグラムで,整数倍音が 20 本近く見える.ただし基音の振幅が圧倒的に大きく,純音といってもいいくらいだ.その下は箸で叩いたときで,基音の周波数はこすったときと同じだが,あとは全く異なる.右のソノグラムからわかるように,高次音は速やかに減衰する.



この図は弦楽器・管楽器における振動.管楽器・弦楽器のような一次元の音源が整数倍音を持つのは理解出来る.
グラスハープの場合はどこにも一次元の音源が見当たらないにも関わらず,こすったときに整数倍音が見られる (聞かれる かな?) のはなぜだろう,以前スイカをたたいたときの音のスペクトルを紹介したが,グラスの上の部分もスイカのような球体で近似したくなる.しかしそれでは事実を説明できない.

ネットを漁ったら,有限要素法でグラスハープの振動を解析した論文に行き着いた.K.Uchida and K.Kishi "Vibrational analysis of glass harp and its tone control" Acoust. Sci. and Tech. 28 (2007) 424 である.この論文から,グラスを斜めに見た図を下に引用させていただく.この図は計算機出力だが,実際のホログラムがhttps://acoustics.org/pressroom/httpdocs/147th/Rossing_Harmonicas1.htm にあり,ほとんど同じと言える.後者は 2004 年の 75th Anniversary Meeting (147th Meeting) of the Acoustical Society of America で発表されたとのことである.



ワイングラスの上縁の変形をわかりやすく書き直したのが下の図である.
一本の弦あるいは菅を曲げて両端をくっつけると輪になる.このとき弦あるいは菅の振動はこの図のようになるだろう.この変形はグラスの半径の角度依存性として,式 r = r0 + Δr cos(iθ), i=0,1,2,3... によって表すことができる.i=1 が基音,i=2,3... が倍音に相当する.ちなみに,このような振動は加速器のビームや核融合実験装置のプラズマで観測される.



薄いガラス製のワイングラスでは上縁付近は振動できるが,下部は重くて振動できない.モードは縁だけで決まる.すなわち,一次元の振動と変わらないので,整数倍音を生じる.ヒトは (多分,鳥もカエルも虫も) 整数倍音が好きで,グラスハープの倍音が豊富な音色は「天使のオルガン」と言われるらしい.

グラス「ハープ」では一杯一音である.ハープでは長い弦が低い音を出す.形状が同じワイングラスを並べて音高を変える手段はなにか? バイオリンには4本,ギターには6本の弦があり,どれも駒からネックまでの長さは同じだが,太い弦すなわち重い弦の音は低い.ワイングラスでは水を入れて重くして振動しにくくさせ,低音を出すことになった.

高次倍音を連続して発生できるのはこすったときだけであるのは理解できるが,叩いたときなぜ過渡的倍音とは異なるスペクトルが得られるのかは謎である.

毎年春に行われる日本物理学会年会のジュニアセッションでは,北海道立北海道札幌北高等学校の生徒さんたちが数年にわたってグラスハープに関する研究発表をされたことがある.
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