葛山二郎「股から覗く」国書刊行会 (探偵クラブ 1992/7).
著者 葛山二郎 1902-1994 の名前は.権田 萬治「日本探偵作家論」などで知っていた.
この,だれも開いたことがないようなきれいな本が古書で 700 円だった.
昭和2年から 10 年にかけて,探偵小説誌「新青年」に発表された短編 11.解説 山前譲.戦前の探偵小説の短編を,どうせつまらないだろうと読むと,果たしてつまらなかった ということが多い.今回もその傾向はなきにしもあらず.ストーリーはかなりご都合主義的.とは言えトリックなど楽しい部分は楽しく読了することができた.
「赤いペンキを買った女」が著者の代表作であちこちのアンソロジーに載っているそうだが,赤いペンキを買った女は最後の1ページに初めて登場する.このように最後の1ページで突如解決することが多く,狐につままれた感を持つ.
この「赤いペンキ...」以下の7篇に弁護士探偵花堂が登場する.彼は作品によって名探偵だったり迷探偵だったりする.「蝕春鬼」では最後の1ページで姿を現す.
「杭を打つ音」は音速と光速の違いを扱っている.また「闇に聴く瞳」はテレビやデジタルカメラを思わせる場面がある.SF ミステリと言えそうだ.ただし,著者の関心は視覚と聴覚に集中している.
権田萬治は「氏のトリックの大半が自分の生活体験に着想を得たものである」と指摘している.たとえば表題作「股から覗く」は,股から覗くと視点が下がること,180 度回転して見えることがキーになっている.たしかに,誰もが体験したことがありそうな現象からの発想である.