小島英夫「『常温核融合』を科学する- 現象の実像と機構の解明」工学社(2005/8).
前世紀末話題になったが,打ち上げ花火のように消えた印象がある常温核融合について,やや年月をおいて書かれた本.最初のフライシュマン/ポンズ組とジョーンズの実験には十分批判的.また著者が提唱する TNCF モデル (Trapped Neutron Catalized Fusion Model 捕獲中性子触媒モデル) には本書の 1/3 を割いているが,その記述に我田引水という印象はない.
この現象について,本書刊行年までに得られた実験結果が要領よくまとめられていたので,文末に引用させていただく.興味は惹かれるが,この引用ではさっぱり分からないという方は,本書を買うなり (ぼくのように図書館で) 借りるなりしてお読みください.
TNCN モデルはこれらの実験結果を系統的に説明しようという努力のひとつと思う.現在,他にどのような理論があるのか,またそれらが本書刊行以来どのように発展しているのか,知りたいところ.本書自体がいわゆるポピュラーサイエンス本の体裁をとっていて,食い足りないのも事実.
そもそもこうした実験結果を受け入れないという方もおられるであろう.また,「権威ある」既存の学会は常温核融合に冷たい.応用物理学会欧文誌についてはこのブログでも書いたことがある.
常温核融合あるいは cold fusion という語句がこの,凝縮系核反応あるいは固体核反応とでもいうべき分野の正常な発展を妨げている感もある.一攫千金を企まずに,物理を極めることが先決ではないか.
...とか言ったけれど「核融合熱によるボイラーが実用化へ : 三浦工業とクリーンプラネットが共同開発、2023年に製品化」というニュースもあった.大学教養学部から工学部に進学したとき,「工学に物理はなくてもいい.原始人は流体力学を知らなくてもみごとな丸木舟を作ったではないか」と のたまった先生を思い出した.
ネットを漁って,CF研究会 略称:JCF 英名 : Japan CF-research Society の存在を知った.学会としての急務は,凝縮系核反応をまとめてまともな価格でまともな出版社から刊行することだろう.
入会しようかな...でも入会金1万円は高いな.