新潮文庫(2021/8).単行本は新潮社(2018/10).
Amazon の紹介*****
娘の顔も忘れてしまった彼女は
記憶の中の最も輝かしい時代に舞い戻る。
戦後、命からがら娘と日本に引き揚げた初音さんは今年 97 歳になる。もう今では長女の顔もわからない。病が魂を次々と剥いでゆくとき、現れたのは天津租界でのまばゆい記憶だ。ドレスに宝石、ミンクを纏い、ある日はイギリス租界の競馬場へ、またある日はフランス租界のパーマネントに出かけ、女性たちは自由だった――時空を行き来しながら人生の終焉を迎える人々を、あたたかく照らす物語。*****
この著者は たぶん 1987 年の芥川賞受賞作「鍋の中」以来.鍋の中とはボケかかった老女の頭の中のことと記憶している.この「エリザベス...」も 97 歳初音さんの鍋の中を描いている.著者一生のテーマ ?
舞台は老人ホームで,認知症の入居者が続々登場.
入所者のひとり,土倉牛枝さん.戦時,馬は徴用されるが牛にはそれがない,というのでこの名をつけられた.牛枝さんのところには可愛がっていた馬3頭が「お迎え」に来る.牛枝さんは馬に乗ってあの世へ と言うのは牛枝さんの夢らしいが,あの世行きは現実.
地元のコーラスグループ「みみそらコーラス」が歌う「満洲娘」「戦友 (ここはお国を何百里)」「アリラン」などに恍惚老人たちがエキサイトする場面がすごい.「トランペットを壊しちゃった」の元歌,フランスの古い軍歌「玉葱の歌」をぼけた元教授が執拗に繰り返したり...
最後には人生でいちばん幸福だった時代の思い出に浸って終わる,それが初音さんの場合は天津租界の新婚時代であった.
では,自分にとっていちばん幸福だった時代って,そもそもあったんだろうか.この小説の老人たちは戦争という劇的な経験があるのだが,16トンは当時は幼児だったから,あまり覚えていないし,そのあとの人生は のんべんだらり.青春時代の真ん中は,胸に棘刺すことばかりであった... 認知症になってもつまんなそう.
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娘の顔も忘れてしまった彼女は
記憶の中の最も輝かしい時代に舞い戻る。
戦後、命からがら娘と日本に引き揚げた初音さんは今年 97 歳になる。もう今では長女の顔もわからない。病が魂を次々と剥いでゆくとき、現れたのは天津租界でのまばゆい記憶だ。ドレスに宝石、ミンクを纏い、ある日はイギリス租界の競馬場へ、またある日はフランス租界のパーマネントに出かけ、女性たちは自由だった――時空を行き来しながら人生の終焉を迎える人々を、あたたかく照らす物語。*****
この著者は たぶん 1987 年の芥川賞受賞作「鍋の中」以来.鍋の中とはボケかかった老女の頭の中のことと記憶している.この「エリザベス...」も 97 歳初音さんの鍋の中を描いている.著者一生のテーマ ?
舞台は老人ホームで,認知症の入居者が続々登場.
入所者のひとり,土倉牛枝さん.戦時,馬は徴用されるが牛にはそれがない,というのでこの名をつけられた.牛枝さんのところには可愛がっていた馬3頭が「お迎え」に来る.牛枝さんは馬に乗ってあの世へ と言うのは牛枝さんの夢らしいが,あの世行きは現実.
地元のコーラスグループ「みみそらコーラス」が歌う「満洲娘」「戦友 (ここはお国を何百里)」「アリラン」などに恍惚老人たちがエキサイトする場面がすごい.「トランペットを壊しちゃった」の元歌,フランスの古い軍歌「玉葱の歌」をぼけた元教授が執拗に繰り返したり...
最後には人生でいちばん幸福だった時代の思い出に浸って終わる,それが初音さんの場合は天津租界の新婚時代であった.
では,自分にとっていちばん幸福だった時代って,そもそもあったんだろうか.この小説の老人たちは戦争という劇的な経験があるのだが,16トンは当時は幼児だったから,あまり覚えていないし,そのあとの人生は のんべんだらり.青春時代の真ん中は,胸に棘刺すことばかりであった... 認知症になってもつまんなそう.