─光る波の間─

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『バレエ・リュス 踊る歓び、生きる歓び』

2008-03-10 21:43:14 | 音楽・映像・アート
ようやく仙台でも上映が始まった。
でもきっとあっという間に終わってしまうだろうから、
絶対に今日観に行こうと決めていた。

バレエだけでなく、音楽や美術、
今では当たり前となっている表現の数々の
基礎を築き上げたバレエ・リュス。
ディアギレフ亡き後、様々な思惑を秘めた人々が
交錯していく。
初めは純粋な気持ちから行動していた人間も、
金や名声、権力に溺れて堕ちていく。
上演権をめぐる裁判や、興行主に嫌われ放浪したり‥。
光が強ければ強いほど、影も濃く大きい。

それでも、ダンサーたちは踊る歓びに溢れていた。
同窓会に集まったかつてのプリマたち。
みんな80~90歳になって、しわしわのお爺ちゃんおばあちゃん。
でもそれは楽しそうに昔を語り、きらきらと輝き、
「あなた、昔私にプロポーズしたわよね?」
「ああしたな!でも君はバイオリニストと結婚した」
「結婚式も舞台を休ませてもらえなくって、6週間後に離婚したわ。うふふっ」




分裂したバレエ・リュスの一方は北米で興行できなくなり、
“仕方なく”中南米へ興行に行った。

バレエなんて知らない田舎での公演。
毎日寝るのは移動の列車の中。
報酬もろくになくて、衣装も舞台装置もぼろぼろ・・・。
それでも、見た人々の心にたしかに種を蒔いた。
その種が育って、その土地にバレエが根付いていった。
不本意な興行であったかもしれないけれど、
ちゃんと意味が生まれるっていうのが、なんというか感激したし、
どんなひどい状況になっても、ダンサーたちの、
踊るということそのものへの献身に涙が出た。

「報酬なんてほんのわずかよ。
 でも、“これが踊れるなら”、“あのデザイナーと仕事ができるなら”・・・
 私の人生は、なんてリッチなのかしら!」

ああ本当にそうだ。
なんて素晴らしい。羨ましい!!
なににも替えがたい経験をすることができる幸せ。
もし私に、尊敬する人物と一緒に仕事をさせてもらえるチャンスが来たら、
近くにいてその人が何をするのか見ていることができるのなら、
あとのことなどどうにでもなるもの。
すぐにでも飛び込む!

思い出せてもらった。
輝く瞳をして、背中は丸くてもたちまち恋するジゼルになる彼女らに。
車椅子に座っていても、しなやかにポール・ド・ブラする彼女らに・・。

*****

昔の映像は荒いのが常で、実際どんなふうに彼らが踊っていたのか、
想像の域を出なかったものだけど、この映画ではかなり最近の映像もあり、
本当に素晴らしいテクニシャンだったり、優雅で繊細な表現だったりするのを
しっかり見れて収穫でした。
そしてあらためて、バレエ公演を通して様々な才能が花開いていったことを認識。
ストラビンスキー、バクスト、ラヴェル、マティス、ダリ、ピカソ・・・
もしこの時代にタイムスリップしてステージを見たとしたら、
わたしゃ腰が抜けますね。 間違いなく。笑




ところで、この映画中証言するダンサーの一人に、
マリア・トールチーフ氏がいたんですが、
この方をモチーフにして山岸凉子さんが
『黒鳥』という漫画を描いています。

山岸さんといえば、『アラベスク』や、
現在連載中の『テレプシコーラ』、
短編で『ニジンスキー』も描いているという、
バレエに造詣の深い漫画家。
しかしこの方、独特のオカルティックだったり、
人間の深層心理に迫る描き方をするもんで、
この『黒鳥』もちょっとコワイのであります。。。

実在の人物を実名で描いていただけに、
本物のトールチーフ氏がスクリーンで喋っているのを見ていて、
なんだかフシギな気分がしてしまいました。笑

*