竹崎の万葉集耕読

日本人のこころの拠り所である「万葉集」を味わい、閉塞感の漂う現代日本人のこころを耕したい。

『世に面白き本などの話』(2)     軍国・日本の蹉跌ー『孫子』の曲解

2015-06-23 09:13:14 | 日記
  『世に面白き本などの話』(2)
        軍国・日本の蹉跌―『孫子』の曲解

 前回の予告のとおり、今回は戦後70年の節目にあたり、出版された湯浅邦弘著「軍国日本と『孫子』」(ちくま新書)のあらましを紹介したい。周知の通り、兵法書『孫子』は、あの武田信玄が「風林火山」の旗印に掲げたように、日本のマニアックな戦国武将たちに珍重されていた。
 明治維新の動騒の中で、西欧列強の圧倒的な軍事力に度肝を抜かれた新政府は、それ以降は、さすがに軍事についても、西洋兵学を模範として整備を進めていった。しかし、明治の中期を過ぎると、その反動として、日本人精神の根底にある「漢学」についての再評価の気運が高まり、再び兵学の書『孫子』が甦った。そして、「日清」、「日露」、「日中」、などの数次の実戦体験と幸運な結末によって、古典的な兵法書でありながら、徹底した合理主義に貫かれ、物質的経済的基盤を重視する『孫子』の思想は意図的に曲解されて、次第にわが国固有の「精神主義の高揚」に利用されていった。

 昭和16年12月8日、日本海軍は、ハワイの真珠湾を奇襲して、アメリカ戦艦4隻、航空機300機等を撃破し、大打撃を与えた。(この時日本の外務省と駐米大使館の不手際により宣戦布告が遅れ、結果的に国際ルールを逸脱した「だまし討ち」とされてしまった。)これを機に、アメリカ国内は、「リメンバー・パールハーバー」の合言葉で世論がまとまり、反撃の気運が一気に高まった。そして、早くも翌年4月18日には、16機のB25爆撃機が東京を空襲した。これに対抗して、日本の連合艦隊は、同年6月、連合艦隊司令官・山本五十六大将の立案により、ミッドウェイ島において総力戦を展開したが、あえなく敗北し、日本海軍の軍事バランスは一気にくずれた。
 そして、開戦後わずか1年にして、もはや修正できないところまで戦局は悪化してしまったのである。

 本書は、やや荒っぽい論考であるが、これまであまり考察されなかった明治から昭和にかけて日本軍が刻んだ戦歴と『孫子』との関係を考察しようとした、大胆で挑戦的な書である。

 折しも、いま日本では、総理が早々と米国議会で「安保関連法」による改革の断行を言あげしてしまい、国会会期を延長して、拙速な議論がなされている。
 やがては、「憲法九条」改変の大命題に辿り着くはずである。今や、日本人はすべて、この問題を避けては通れないと思っている。