「宇宙人」こと鳩山由紀夫元首相のウクライナ訪問(3月10~12日)と現地での発言が大きな話題となった。話題といっても、どれもこれも否定的なものばかりだった。
週刊誌報道は「クリミア訪問『鳩山由紀夫元総理』への大ブーイング」(週刊新潮)、「鳩山由紀夫よ、宇宙に帰れ!」(週刊文春)といった具合だ。
古巣である民主党の枝野幸男幹事長は「あの方は離党して2年、私どもとは一切関わりがありません」と突き放した。
ましてや政府のスポークスマンである菅義偉官房長官は、ロシアによるクリミア編入が民主的手続きにのっとったものとした鳩山発言について、「コメントする気にもならない」と憤激している。
そもそもは、イラクやシリアの部族長に独自のパイプを有し、自らもクリミアを訪れたことがある新右翼「一水会」の木村三浩代表が鳩山氏側に持ちかけた話である。
これは、ご本人も認めていることだ。ところが、事を複雑にしているのは、どうも他の要因が絡んでいることである。
まず、木村氏の知己であるサプリン前ロシア札幌総領事の存在がある。
鳩山元首相が帰途立ち寄ったモスクワで、プーチン大統領の側近、ナルイシキン下院議長と会談した際の通訳を、前総領事の息子が務めたのだ。
そして、その息子はロシア外務省の通訳官で、実は、昨年11月の北京での安倍晋三首相とプーチン大統領のトップ会談の通訳でもあったというのである。
ロシアは国を挙げて鳩山訪問を歓待したことになる。
当然だ。世界的に非難ごうごうのクリミア編入を、G7サミット構成メンバーの日本の元首相が「正しかった」と認定したのだから。
だが、たとえ「宇宙人」とはいえ、鳩山元首相が今回の訪問・発言への否定的反応を想定していなかったはずがない。
どうやらロシア側に“貸し”を作って、その見返りを求めていた(る)フシが濃厚なのだ。それがことを複雑にしているのではないか。
では、何を求めた(る)のか。ズバリ、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)体制中枢へのアクセスと思われる。
これまでの日朝政府間交渉では拉致問題などで進展が見られない。であれば、自分が乗り出して動かしたいと考えているというのだ。
荒唐無稽と言ってしまえばそれまでだ。が、ご本人はいたって真面目のようだ。ちなみに木村氏は「実に面白い話ですね」と、筆者に答えた。 (ジャーナリスト・歳川隆雄)