検証・電力システムに関する改革方針

「自然エネルギーですべての電力をまかなう町」の第2部です。

学習会の提案 連載小説292

2013年05月20日 | 第2部-小説
「冨田さん」と京香が言った。
「はい!」
 将太は明るい返事をした。それは自分でも分かった。感情は言葉にも表れる。不機嫌な時の言葉は相手にも「こいつは不機嫌だ」と分かる。反対に機嫌の良いときは、相手にも分かる。京香はリラックスして言葉を続けた。
「学習会を考えていただけません?」
「いいですね。ぜひしましょう。どういう方を対象にした、どういう内容の学習会でしょうか」

「それはこれからみんなとも相談しなければいけないと思いますが私たちを対象とした学習会が必要じゃないかと思うのよ。これから太陽光発電普及のための基礎的データー作りの仕事を私たちするわけでしょ。言われたことを収集、記録するだけじゃやる者として得る充実感が少ないんじゃないでしょうか。なぜ自然エネルギーなのか。私たち自身がしっかり理解することが大切だと思うわけですよ」
「それはちょうどいい、実はオーストリア、ドイツに大平町長さんやここにおられる竹下さん、それと占部林業の貝田さんたちと行ったでしょ。日本はあの視察から学ぶものは沢山あると思いました。それで私なりに整理してまとめたものがあります。それをまずみなさんにご説明させていただく。これならいつでも、すぐにできます」

「時間としてはどれぐらい?」
「1時間半ほど」
「タイトルは?」
「オーストリア、ドイツから学ぶ、脱原発社会の展望です」
「脱原発社会ですか」
「そうですね。あの福島第一原子力発電事故を考えると安心・安全な社会は原子力発電に依存しない社会だと思うのです。問題は多くの人は原子力発電をやめて必要な電力をまかなうことができるのか。無理じゃないかと思っている方が多いと思います。ですから原子力発電に依存しなくても大丈夫だという展望をしっかり持つことが必要だと思います。その問題意識から考えたテーマです。でもこれは少し固いかな?」

「確かに、固いと思います。もう少し柔らかく・・・・、でも、それをお願いすると冨田さんに時間を取らせることになると思います。いまお持ちの原稿と資料で、これは仲間内の学習ですからまずやっていただく。そういうこと冨田さんにお願いする。そういうことでみなさん、いかがですか」と京香は一同に賛意を求めた。


行政単独から住民参加の取り組みへ 連載小説291

2013年05月18日 | 第2部-小説
  竹下の提案に、将太はぜひそうして欲しい。そうでないと委託事業にすることができない。どれだけの報酬が出せるか競争入札でなく随意契約で発注できるようにしたい。その場合、金額は30万円から50万円ほどにしかならない。今、返事はいらないが紺結末には返事が欲しいと言った。

「えっ、50万円ももらえるの?」
「いや、これをなんとか研究所に委託すると数百万円の見積もりになると思いますよ。いろいろな「答申」があるでしょ。あれはほとんど大学教授や研究機関に以来して委員会を立ち上げ、まとめてもらうのが普通です。占部町はお金がないからそういうことはしていませんが今回の自然エネルギーで電力自給をはかる。町おこしを図りたいと考えています。その基礎データーを作る必要があるので、ぜひ、みなさんのご協力をいただきたいと思います」

 将太はまたまたみんなに頭を下げた。
「みなさん、冨田さんのお話しはこの占部町まちおこしたいとして引き受けて欲しいというご要請のようです。私は受けたいと思いますがみなさんどうですか。町おこしたいとしてやりませんかこれ」

「さきほどの冨田さんの説明程度の調査であれば難しくなさそうね」
「そうです。難しくはないが訪問して資料を集める、聞き取りをする。その人手が必要なのです」
 将太の声は弾んでいた。自分だけ、行政だけの取り組みから、住民参加の取り組みに広がったと思うと、無性にうれしかった。20代の頃、初めて商談をまとめることができた時と喜びを思い出した。

高いハードル 連載小説290

2013年05月17日 | 第2部-小説
 将太はパソコンに向かって、自然エネルギーですべての電力をまかなう工程表をみていた。町長が議会に4年後に100%自給を達成させると提案した時の工程表だった。
 占部町全体の消費電力は年間576万kwhだった。マイクロ水力発電と太陽光発電でまかなう計画だ。試算は出力100kwの流れ込み式水力発電4基を町が水利権を持っている2級河川に設置。太陽光発電パネルは町所有地7カ所に合計出力1000kW、民間で1500kWを普及する。この水力400kWと太陽光発電2500kWで年間600万kwの電力量を生産できる。

 地方債起債については県と相談してほぼ認可されるめどはある。問題は民間で設置して欲しい1500kWの太陽光発電だ。試算では売電が有利な出力10kW以上を考えた。都市の一般住宅で10kWの太陽光発電パネルの設置は無理だが占部町ではそのスペースを持つ家は多い。大平町長が個別訪問をした効果で400kWの太陽光発電ができた。これ自体、驚異的な普及だと思う。

 しかしあと1100kWはめどがない。1軒10kWとして110軒の家に設置してもらう必要がある。1400軒あまりが町の全戸数だ。その中で110軒はかなりハードルが高い。なにはともあれと、将太は意識調査をかねて町民訪問をしたのだ。
 その結果は、考えに甘さと実情無視があることが浮き彫りになった。大平町長はその問題を乗り越えて太陽光発電パネル普及を「町民運動まで高めよう」と言った。その方策を考えるのは将太以外にいない。「分かりました」と答えた。

 パソコンに向かい、書いては削除し、書いては削除する。目が疲れしょぼしょぼした。こりはじめた肩をもみながら、こんな時はあの人たちに意見を聞くのが良いと思った。
「相談したいことがあります」
電話をかけた相手は京香だった。

なんとしても推進する、町長の強い決意 連載小説289

2013年05月16日 | 第2部-小説
「設置できそうな屋根はいっぱいあるように見えますが・・・・」
町長室で将太は大平町長と松本副町長に太陽光発電パネルの設置状況と町民訪問で得た意識調査の報告をしていた。印字した報告内容を2人は目で追っている。
大平町長はときどき文書にアンダラインを引く。
「多くの家は設置が難しいと思われます」

 将太がそう報告したとき、町長の線を引く力が強くなったのを見た。
報告が終わるのを待ちかねたように「設置が難しいというのは高齢者の家ですか」と聞いた。
「いや、そうとは限りません。高齢者でない家でも、設置は話し合ったことはないという家が大半でした。その中で65歳以上の家は3軒あったのですが3軒とも、設置には消極的でした」
「太陽光発電についての認知度はどうですか?」
 松本が聞いた。

「関心は高いと思います。矢張り福島原発事故の影響があります。自然エネルギーで電力をまかなうことができればそれにこしたことはないと話す人は多い。これは確かです。その方々に太陽光発電はどう思うかと質問すると、全員、いいといいます」
「なるほど」と、大平町長。
「ただ固定価格買取制度が実施されていることを知っていた人は1人だけでした」
「1人だけですか」と、大平町長。
「1人でもいたというのはすごいことかも」と、松本副町長
「ただその方もニュースでそういうものが出来ているのは知っているということで設置するため資料を持っているかといえばそうではない・・・・。だがこれは予想していたことです」

「いかに普及するかですね」と、町長。
「町を上げた取り組みにしなければ我々の目標は達成できないと思います」と、将太。
「じゃ、それを考えましょう」と、大平がいった。
 なんとしても推進する。町長の強い決意がこもっていた。


事業推進の壁 連載小説288

2013年05月15日 | 第2部-小説
 将太は以前に増して、町民訪問に精を出すようにした。1度の訪問は挨拶程度。顔を名前を知ってもらえばいいという気持ちで訪問した。お茶が出され、話ができる時は10分でも20分でも時間をとる。2度、3度と回を重ねると暮らしの様子。町に対する思いを聞くことができた。

 もちろん、議員訪問も丁寧にした。多くの人がここはいいところだが若者に住めとは言うのは酷だといった。異性を知り合う機会がない、何をしているかすけすけに見えてしまう。それに比べると都会は隣は何をする人ぞ。何も知らない。その無関心、無関係は住む環境として素晴らしい場合がある。だが子育てが終わったとき占部町はよいところだという人が多くいた。
 そうした中、訪問先で老婦人が「あなたはなぜ奥さんと一緒に住まないの?」と質問した。

「妻と自分、それぞれの世界を持っているからでしょうか?」と答えると「一緒に暮らすようにしなさい。もう長くはないのだから」と息子に話すように言った。
そしてその老女は将太の太陽光発電を付ける話になると「ホッホ、ホ」と笑いながら手を口元で振り「私はこの先、10年も生きてませんよ。今で十分!」と言った。
「一緒に暮らしなさい」という言葉もきつかったが「10年も生きていない」という言葉はもっと鋭くきつかった。

 占部町は人口の40%が60歳以上の人が占めている。住宅用太陽光発電の買取期間、要するに元を取る期間は10年だ。出力が10kW以上の場合は20年になる。木質バイオマス発電の場合も20年だ。将太は長期の買取期間は「有利」と考えていたが町民訪問で得たのは、事業推進の「壁」だった。


酔いが一瞬にして消える 連載小説287

2013年05月14日 | 第2部-小説
「お前、泣き上戸だったか?」
町長になった公平は悪がき仲間に言うように松本に言った。
「お前の話に職員はみんな喜んでいたんだぞ。この数年、俺たちどれほどがまんしてきたか。職員が定年退職すると補充もなくそのまま。残った者の仕事量は増え、給料は下がる。だがそれは我慢できる。しかし町のために何もできない。寂れていく町をただ見ているだけ。これほど辛いことはない。公平!分かるかこの気持ち」
「分かる!」
「本当か!」
「ああ」

 2人のやりとりから町長と副町長の主従は消えていた。松本は酔っ払いのようにはずんでいた。酒はまだ猪口に2杯ほどしか飲んでいない。酒の勢いでないことは確かだ。
 3月議会が無事に終わったのは良かった。将太の思いはその程度だった。むしろ議員から質問が出なかったことが田舎の議会はこんな感じかと思っていた。自分のそうした気持ちに将太は、自分は第三者だと思った。松本は当事者の感情で3月議会に対応してきたからその成果を手放しで喜んでいる。議員に感謝している。それに対して将太は、自分は仕事としてがんばったに過ぎない。

 そうだとすると、質問をしなかった議員に対する評価は完全に的外れをしているのではないかと思った。酔いが一瞬にして消えるのを感じた

町長の提案は最高 連載小説286

2013年05月13日 | 第2部-小説
3月議会は波乱なく、穏やかに終わった。その夜、大平町長は将太と松本を自宅に呼んでご苦労さん会をしたいと誘った。
酒と料理が用意されていたが大平の妻・京香は居なかった。
 台所から公平が出来上がったばかりのトックリを2つ盆に乗せて持ってくると「無事、終わりました。ご苦労様でした」と言って銚子に注ぐと、だれからともなくご苦労様といいあって乾杯した。

  終わったという安堵が体の内から湧き出す。その中から水蒸気のように湧き上がるものがあった。理事者側の席から見た議場だった。
町長の報告と提案に「よし」「よし」と賛意の声を出す。最後は「異議なし」の一声で3月議会は終わった。
「何事もなく終わりましたが大体あんな感じですか?」
 将太は感想を率直に言った。
「いつもはもう少し、質問はありますが今回は静かでしたね。でも提案がすべて原案通り可決されたのはすごいですよ」
 松本は真顔で言った。
「しかしこれからが大変ですよ。みなさん、しっかりやってください。頼みますよ」 と大平が応えて言った。

確かにその通りだと将太は思った。
3月議会に総出力100kWの太陽光発電パネルを町有地に設置することを提案した。世の中メガワットと騒いでいる中で100kWは10分の1という規模だが財政が乏しい占部町としては7年ぶりに取り組む町単独事業だった。事業資金は結局、地方債を起債してまかなうことにした。借金を減らし、基金を積み増しする国の地方財政健全化方針の指導を受け、占部町は職員の定数削減と俸給の減額をはじめ、さまざまな経費削減、そして使用料・利用料の引き上げをしてきた。しかしそれで町が活気を取り戻したかといえば逆だった。庁舎のトイレが破れたまま、ガムテープでふさいでいるのはなんとも格好が悪い。

「今回、借金をすることになるがこの事業は確実に収益がある。占部町再生のチャンスです。このチャンスを生かして収益を上げる。その収益で町財政を強化して、町独自の事業ができるようにしたい。今回の事業はそのスタートですと言った町長のあの最後の言葉、あれは良かったなあ」

 松本は3月議会で町長がした言葉を生き生きと蘇らせた。将太がその横顔を見ると目が光っていた。
「町長の話は良かったですか」
 将太の質問に松本は「最高!」と言うと、手のひらで涙をぬぐった。

役所勤め、見習い中 連載小説285

2013年05月11日 | 第2部-小説
 いきさつを聞いた大平町長は「ご苦労をかけます。そういうことは少しも知らなかったもので、でもこれからはそういうこともざっくばらんに言ってよ。この部屋では仲間として話をしましょうよ」
「町長、それは違います。ここは公の場です。けじめをつけないと噂が立ちます」
「うわさ?」
「そうです。一番こわいのは噂です。奥の院の仲良しグループと言われます」

「分かりました。私も注意します。ところで先ほどの件ですが3月議会への提案は副町長の方で案を作っていただけるのですか」「はい、その手配は冨田室長にお願いして、考えてもらっています。冨田さん、いつまでにできますか?」
「設置場所として町所有の遊休地にすることで提案し、議会の承認を得てから場所設定の調査になろうかと思います。従いまして、現段階では、場所は未定ということになると思います」
「いや、それは困ります」

 大平町長は将太の説明をさえぎるように言った。将太は説明が止まった。
「議会には今後、変更はあるかも分からないとして、現段階の予定地は可能な限り、出してほしいです」
「分かりました」
 松本が答えた。将太は役所の仕事は初めてだ。松本という人間がいなかったら自分も公平もとても勤まらないと思った。始まったばかりの役所仕事、今日は冷や汗のかき通しだった。

「以上の通りであります」
 3月議会の施政方針、大平町長は太陽光発電パネルの設置について、将太が起案した通りの内容を提案した。将太は「想定問答メモ」を作って議員質問に備えていた。しかし、質問はだれからも出なかった。将太は気落ちしてしまった。

屋上に代わる場所 連載小説284

2013年05月10日 | 第2部-小説
 大平町長に報告する前、副町長室で松本と将太は報告書の取り扱いを協議していた。太陽光発電パネルを設置できるのは給食センターのわずか1か所しかないというのは2人にとってショックだった。この結果を町長に報告するだけでは子どもの使いになってしまう。それでは町長も納得しないだろうし我々の計画も出鼻をくじかれた感じになる。
「なにかよい知恵はないでしょうか」

 語る松本はすっかり弱気になっていると将太は思った。2人は報告書を前にしてしばし沈黙した。
「大丈夫です。副町長」
と将太が静寂をやぶった。
「何か考えが浮かんだ!」
「ええ、屋上や屋根でなくてもいいんですよ副町長」
将太は可笑しさをこらえながら言う。松本はよく理解できない。
「屋上以外、太陽光発電パネルはどこに乗せることができる・・・・」と言った松本もはたと気づいて言った。

「そうか、空き地や山の斜面があるか」
「そうです。農地はたとえ耕作放棄地であっても太陽光発電パネルの設置は目的外使用になるから難しいが農地指定を受けていない空き地、山林は設置できます。太陽が照る場所であればガケ地も大丈夫です。しかもです。そこは建物の屋根じゃないから面積が広い。40kW、50kWを設置できる場所は結構あります。ほら役所の裏山の斜面。川に面して道はないがなだらかな南向き斜面があるじゃないですか。昔、農家がつり橋をかけて果樹栽培で切り開いた、今は相続放棄で町有財産になっているとあなたが以前、私に説明したことがある斜面」

 将太の喜々とした話に松本は大きくうなずいた。
頭に思い出しただけで設置可能な町所有地は他にもあった。屋上以外に設置可能な場所があることを確認すると、届いたばかりの調査報告書を取り急ぎ大平町長に報告することにしたのだ。


町長の反省 連載小説283

2013年05月09日 | 第2部-小説
 松本が口を開いた。
「この報告は先ほど届いたばかりです。どうするかという問題は考えなければいけないと冨田室長とも話し合いましたが冨田室長が結果をありのままご報告することが大切。その上で町長のご意見、ご指示を受けて対応を考える・・・」と話した。
「分かりました。いや」と大平町長は松本の説明をさえぎって言った。
「お願いしたことがすぐやっていただいた。これだけ調査、大変なご苦労があったと思います。それに気づかなかったのは申し訳ありません」

 町長は前言を明らかに意識していた。いいすぎだと反省したようだ。
「はい、ありのままを申しますと、この調査と報告をまとめた職員はこの1週間、夜遅くまで残業してまとめてくれました。今の町長のお言葉、職員に伝えると報われると思います。職員への暖かいお言葉、ありがとうございます。わたくしからもお礼申し上げます」

 将太は松本の対応をなかなかの人物だと感心して見ていた。
なめらかに話しをする松本はさらに言葉を続けた。
「ついては対策、室長と考えたことがあります。それをまずご説明申し上げて、町長のご意見をいただく。そういうことでお願いできますか」
「そうしてください。ここはざっくばらんに相談させてください。お願いします」

 町長は両膝に手をつけ、頭を下げていった。町長は一生懸命だと将太は思った。
「魁より始めよ」という言葉がある。
住民との関係では役所が懸命に取り組んでいる姿を示す必要がある。