検証・電力システムに関する改革方針

「自然エネルギーですべての電力をまかなう町」の第2部です。

事業推進の壁 連載小説288

2013年05月15日 | 第2部-小説
 将太は以前に増して、町民訪問に精を出すようにした。1度の訪問は挨拶程度。顔を名前を知ってもらえばいいという気持ちで訪問した。お茶が出され、話ができる時は10分でも20分でも時間をとる。2度、3度と回を重ねると暮らしの様子。町に対する思いを聞くことができた。

 もちろん、議員訪問も丁寧にした。多くの人がここはいいところだが若者に住めとは言うのは酷だといった。異性を知り合う機会がない、何をしているかすけすけに見えてしまう。それに比べると都会は隣は何をする人ぞ。何も知らない。その無関心、無関係は住む環境として素晴らしい場合がある。だが子育てが終わったとき占部町はよいところだという人が多くいた。
 そうした中、訪問先で老婦人が「あなたはなぜ奥さんと一緒に住まないの?」と質問した。

「妻と自分、それぞれの世界を持っているからでしょうか?」と答えると「一緒に暮らすようにしなさい。もう長くはないのだから」と息子に話すように言った。
そしてその老女は将太の太陽光発電を付ける話になると「ホッホ、ホ」と笑いながら手を口元で振り「私はこの先、10年も生きてませんよ。今で十分!」と言った。
「一緒に暮らしなさい」という言葉もきつかったが「10年も生きていない」という言葉はもっと鋭くきつかった。

 占部町は人口の40%が60歳以上の人が占めている。住宅用太陽光発電の買取期間、要するに元を取る期間は10年だ。出力が10kW以上の場合は20年になる。木質バイオマス発電の場合も20年だ。将太は長期の買取期間は「有利」と考えていたが町民訪問で得たのは、事業推進の「壁」だった。