波乱の海をぶじ目的地へ

現世は激しく変動しています。何があるか判りませんが、どうあろうと、そんな日々を貧しい言葉でなりと綴っていけたらと思います

寒紅梅 3 完

2018-12-22 16:58:19 | デザイン



「それはないわ。そんな思いは、絶対にないわ」
 そう言う彼女は青ざめていた。
「それなら、今日出席する他の二人とか。男性の出席は三人いるのに、水嶋のことばっかり出して、その二人に気付かなかったのなら謝るよ。みな同じゼミで俳句同好会に参加していたのだから、その中に意中の人がいたって不思議はないさ。それを言いなよ。そうすれば水嶋に対するぼくの疑惑も晴れるというものさ……」
「あなた、翔太郎さん、三人の男性のことを並べておきながら、あなた自身が抜けているわね」
 真山栗子はそこまで口ごもりながら言って、その顔が真っ赤になった。少し前の青ざめた顔が、にわかに急変して燃えてきた。
 そのとき彼は気がついた。寒紅梅が今朝花開いた理由が、ここにも隠されていたことが。
「悪かった、君をいじめてしまって。余りにもタイミングが良すぎたんだよ。今朝赤い梅が咲くなんてね。新年会の雑談のあと、例によって句会になると思ったから、さっき調べてみたのさ。すると久保田万太郎の名句に、こんなのがあるんだよ。
  わが胸にすむ人ひとり冬の梅
 まさに水島先男そのものじゃないか。今日の彼のためにお膳立てされているみたいだよ。ぼくがそう感じ入っているそのとき、玄関のブザーが鳴って……」
「なんか熱いみたい、このお部屋。暖房のきき過ぎじゃない。私、赤い顔していないかしら」
 真山栗子は言ってシンクに立って行った。
「新年会なんて言っても、何も準備されていないじゃない」
「店屋物で済まそうと思っていたんだ。今は何でも簡単に揃えて、出前してくれるらしいよ」
 翔太郎が言ったとき、二人目の訪問者がやって来た。水嶋先男ではなかった。ふたり出席予定の、もう一人の女性だった。

おわり



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