波乱の海をぶじ目的地へ

現世は激しく変動しています。何があるか判りませんが、どうあろうと、そんな日々を貧しい言葉でなりと綴っていけたらと思います

鹿の角

2019-03-27 16:21:34 | 散文



野原で、
落とし角を拾った子供が、喜色に包まれて
帰宅した。
子供の家では、鹿を飼っていた。
その鹿には、角がなかった。
子供は拾った角を、自分の頭にかざして、
鹿に迫る。
鹿はおどおどして、後退し、そのうろたえようは
見る影もなかった。

子供はその日から、一家の王様になった。
家畜がきかない態度を見せると
角を持ち出して頭にかぶった。すると
家畜はおとなしくなった。牛など短くて太い
頑丈な角があるのに、背を向けてしまった。
人間の弟や妹も陰口は叩いても、彼が角を磨
いたりすると、神妙にしていた。
けれども子供が、いつまでも王様ではいられなかった。
夏になって、鹿に新しい角が生えてくると、鹿が王様になった。
鹿は王様になっても、角を振りかざしたりはせず、
子供の手からせんべいのクズを貰って、うまそうに食べた。
お礼に、子供の頬を舐めたりした。

end





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