「そっか、私もあれっきり」二人とも震災時、練と何度かメールで安否を確認し合い、その後は連絡が途絶え、音が確認しにゆくと練の部屋もその後引き払われていた。木穂子が貸していた金も全て振り込まれていた。「携帯の番号ってまだ持ってる?」まだまだ押す木穂子。音は風呂掃除で水没させてデータを失っていた。「変わってないのかな?」木穂子はキープしていた。「掛けてみようかな? うーん、掛けてみようっ」通話ボタンを触って練の番号に掛ける木穂子。だが、出たのは別人だった。「間違えました。失礼しました」通話を切る木穂子。笑ってしまう二人。
「出なくてよかったぁ。今さら困っちゃうよね?」冗談っぽく話していたが「私、あの時、あなたに負けたって思ったんだ。あなたが今、練と一緒にいないんだったら、私、何で身を引いたんだろう?」本音が出る木穂子。すぐに我に返った。「別に今さら何がっていうワケじゃないんだけどね? でもたまーに、練の名前で検索しちゃったりするの」ワインをあおる木穂子を見ていた音は、目を逸らした。帰宅した音はふと思って『曽田練』で検索しそうになったが、笑って、やめにした。
後日、本社の派遣事業の社員として音の施設に来た朝陽に神部は伺いを立てるような素振りを見せていた。法改正もあり、介護事業の採算を取るのが難しくなり、他の施設は売却が決まっていた。「ウチはどうなんでしょう?」「どうだろねぇ」「何とかして下さいよぉ」すり寄る神部。「そんな権限無いし、まあダメな時はダメなもんだけどね」随分あっさりしたことを言うようになった朝陽。苦い顔の神部に音がコーヒーを持ってきた。「手、洗った?」素早く聞く神部。「洗いました」うんざり気味の音。神部がコーヒーを持って離れると、音と朝陽は黙って顔を見合わせ、朝陽は持参のペットボトル飲料を飲んでおどけて、音を笑わせていた。
4に続く
「出なくてよかったぁ。今さら困っちゃうよね?」冗談っぽく話していたが「私、あの時、あなたに負けたって思ったんだ。あなたが今、練と一緒にいないんだったら、私、何で身を引いたんだろう?」本音が出る木穂子。すぐに我に返った。「別に今さら何がっていうワケじゃないんだけどね? でもたまーに、練の名前で検索しちゃったりするの」ワインをあおる木穂子を見ていた音は、目を逸らした。帰宅した音はふと思って『曽田練』で検索しそうになったが、笑って、やめにした。
後日、本社の派遣事業の社員として音の施設に来た朝陽に神部は伺いを立てるような素振りを見せていた。法改正もあり、介護事業の採算を取るのが難しくなり、他の施設は売却が決まっていた。「ウチはどうなんでしょう?」「どうだろねぇ」「何とかして下さいよぉ」すり寄る神部。「そんな権限無いし、まあダメな時はダメなもんだけどね」随分あっさりしたことを言うようになった朝陽。苦い顔の神部に音がコーヒーを持ってきた。「手、洗った?」素早く聞く神部。「洗いました」うんざり気味の音。神部がコーヒーを持って離れると、音と朝陽は黙って顔を見合わせ、朝陽は持参のペットボトル飲料を飲んでおどけて、音を笑わせていた。
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