呼び出された夜、音はビルの屋上で朝陽に望遠鏡を見せてもらっていた。「東京でも風が強い冬の夜は星が見える」朝陽は星の光について話し出したが「ずっと見ていられる」と呟く音に「うん」話を止めて頷いていた。「片想いなんて、扁桃腺とおんなじだよぉ? なんの役にも立たないのに、病気の元になる」朝陽にそう言われ、苦笑する音。「僕だったら、君に両想いをあげられるよ?」「私、一度好きになったら、中々好きじゃなくならないんです。たとえ片想いでも、同じだけ好きなまんまです」「はい。僕も同じ意見です」少し、おどけて返した朝陽は音に代わって望遠鏡で星を見始めた。「ちょっと未練的なのもあります」「うん?」「猪苗代湖って行ったことあります?」「ううん」「私の好きな人の生まれた所です。1回くらい一緒に行ってみたかったなぁ」「それ、僕とじゃダメかな?」井吹を見る音。「井吹さん、どこで生まれたんですか?」「戸越銀座」「それはちょっと、通り道なんで」二人は夜の屋上で、控え目に笑い合っていた。
同じ夜、練は音に渡さなかった電気ストーブを押し入れにしまい。家に帰った音はノートに何か描き始めていた。それから、練はまた引っ越しの仕事に励んでいた。会津では健二が雪の下の筵の中に貯蔵してある大根を背負った籠に入れ、雪道をやや覚束ない足取りで長々と届けて回っていた。空を翔ぶ鳥を見上げる健二。
「おいおいおいっ、お前だよ」作業中の練がエレベーターから降りて通り過ぎようもすると苛ついたら様子のエレベーターを待っていたらしい男が絡んできた。練達が作業でエレベーターを止めて待たされたのが気に入らないという。練は軽く頭を下げて謝ったが「土下座しろよ」男は尊大に言った。戸惑う練。そこへ佐引が通り掛かると手袋を脱ぎ「申し訳ありませんでした」とあっさり土下座した。男は無言で去った。練が謝ると、
2に続く
同じ夜、練は音に渡さなかった電気ストーブを押し入れにしまい。家に帰った音はノートに何か描き始めていた。それから、練はまた引っ越しの仕事に励んでいた。会津では健二が雪の下の筵の中に貯蔵してある大根を背負った籠に入れ、雪道をやや覚束ない足取りで長々と届けて回っていた。空を翔ぶ鳥を見上げる健二。
「おいおいおいっ、お前だよ」作業中の練がエレベーターから降りて通り過ぎようもすると苛ついたら様子のエレベーターを待っていたらしい男が絡んできた。練達が作業でエレベーターを止めて待たされたのが気に入らないという。練は軽く頭を下げて謝ったが「土下座しろよ」男は尊大に言った。戸惑う練。そこへ佐引が通り掛かると手袋を脱ぎ「申し訳ありませんでした」とあっさり土下座した。男は無言で去った。練が謝ると、
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