ホライゾンズ・ベンチャーズ(香港の李嘉誠氏傘下のベンチャーキャピタル=VC) 人工牛肉やチーズを開発する米、インポッシブル・フーズに7500万$を出資、同社は米スタンフォード大学出身の生物化学研究者らが創業したベンチャーで、植物のヘモグロビンに含ま ... 李嘉誠氏は食糧問題への関心からバイオテクノロジー分野への投資を増やしている。
アメリカVB、ハンプトンクリークフーズ に投資 人工卵のマヨネーズ
米スタンフォード大学教授で初めて起業家に転じたパトリック・ブラウン氏(60)は、赤肉の味を再現する秘密を見つけたと言う。それは植物性の「血」だ。 ブラウン氏はある日の午後、自社の研究室で、プラスチックのカップに深紅色の液体を注いだ。この混合液は血のように見え、金属のような味がする。これは血液を赤くし、ステーキをステーキらしい味にするヘモグロビンの中にある分子からつくられたものだ。
しかし、この生物工学的な血液は植物由来であり、3年前に同氏が設立したインポッシブル・フーズにとって重要な財産だ。同社はこれまでに、見た目も感触も味も焼け方も本物そっくりのハンバーガーをつくりだしている。
インポッシブル・フーズは、肉や卵、チーズ、その他の動物性の食品を植物を使って再現しようとしている、資金豊かな一連の新興企業の一つだ。これら企業の目的は、1兆ドル規模の畜産業界を崩壊させるだけでなく、環境面での圧力が強まる中で、より持続可能な食資源を創出することにある。
こうした企業の幾つかは、マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツ氏、香港の資産家、李嘉誠氏の投資会社、一連のベンチャーキャピタルなどの資金を引き付けている。カリフォルニア州のビヨンド・ミート社は大豆製の骨なしチキンとエンドウ豆たんぱく質を使ったビーフ・クランブルを販売しており、新たにバーガーも売り出す計画だ。5000万ドル(54億円)を調達しようとしていると言われるサンフランシスコのハンプトン・クリークは、似たような材料を用いたマヨネーズ、卵、クッキーの生産を専門としている。ニューヨークのモダン・メドウは今年夏に1000万ドルを集め、幹細胞から肉と皮革をつくろうとしている。
インポッシブル・フーズは、コスラ・ベンチャーズ、グーグル・ベンチャーズ、李嘉誠氏のホライズンズ・ベンチャーズ、それにゲイツ氏から約7500万ドルを調達しており、資金量は最大級だ。これらの資金の多くはカリフォルニア州レッドウッドシティーにあるブラウン氏の製造施設に注ぎ込まれている。これは映画「チャーリーとチョコレート工場」に出てくる、偽食肉をつくるためのウィリー・ウォンカの研究室に似ている。この研究室では白い上着を着た技術者たちが新鮮なホウレンソウの葉を他の植物の成分と一緒に巨大なブレンダーでかき混ぜ、植物たんぱくに分解している。別の場所では機械が生の挽き肉を調理し、科学者がそれぞれの匂いの特性と強さを記録している。香り、感触、匂いの改善をしている部署もあれば、加工の費用効率の改善を目指している部署もある。
インポッシブル・フーズは肉だけでなく、卵、チーズなども植物から作ろうとしている Susana Bates白髪頭のブラウン氏は、シリコンバレーの起業家というより変人科学者のようだ。同氏は医学の学位を持ち20年間スタンフォードで教えてきた。同氏は3年前、長期休暇の間に、二酸化炭素(CO2)の大量排出で批判されている畜産業界に、自分の科学者としての知見が役立つのではないかと気づき、インポッシブル・フーズ創業の構想を得たと話した。 同氏は「現在われわれが食肉やチーズを生産するために使っているシステムは、全く持続可能ではない」とし、「これは環境に恐ろしく破壊的な結果をもたらす」と強調した。
食肉・酪農製品業界の団体は、資源の利用と環境への悪影響を減らすため努力しているとしている。これらの措置には排せつ物やバイオガスの再利用技術の開発などが含まれるという。ブラウン氏は一つの業界を変えるには今売られている肉代替物の改良版をつくるだけでは駄目で、なぜ、肉は肉らしい味がするのかを分子構造的に突き止め、肉と同じかそれ以上の製品をつくりたいと考えた。
同社はまず、数百に上る調理済み挽き肉の基本的香りと匂いを分析した。同社が発見した最も重要なことの一つは、肉の香りではヘムが重要な役割を果たしていることだった。ヘモグロビンなどに含まれるヘムは糖分やアミノ酸にさらされると香りを放ち、料理済みの肉にそれらしい味わいをもたらす。
その結果が、生の挽き肉の外見と感触を持つ深紅のパテだ。WSJの記者を前にしたデモンストレーションで、このパテは加熱されるとともに徐々に茶色くなった。油がにじみ出て、料理された肉の匂いがした。口に入れると、バーガーの挽き肉と同じようにばらばらになった。ただ、味は完璧ではない―明らかにグルメバーガーより数段下で、より七面鳥のパテに似ている。
同社のバーガーが、畜産業界を崩壊させるまでには多くのハードルが残されている。今はまだ小規模にしか製造できないこの小さなパテをつくるのに約20ドルを要する。このバーガーは牛を飼う必要はないが、5種類の植物を大量に必要としている。
ブラウン氏は、より安価な生産プロセスを目指しており、原材料費は規模が拡大するに従って減少すると話した。