米オマハはバフェット氏が生活拠点とする都市でバークシャーも本社を構える。同氏は長年の運用実績から「オマハの賢人」と呼ばれ、世界中の投資家から尊敬を集める。バークシャーは投資会社のイメージが強いが、M&A(合併・買収)を通じて保険や鉄道、エネルギー関連など事業会社を傘下に収め、巨大な複合企業(コングロマリット)に姿を変えている。時価総額は約5000億ドル(約55兆円)と世界で5本の指に入る。
午前8時半から始まった株主総会には中国などアジアからの参加者も目立った。88歳のバフェット氏と、盟友で95歳のチャーリー・マンガー副会長は午後3時すぎまで続く長時間総会を苦にせず、株主からの質問にユーモアを交えて回答。会場を沸かせた。質問内容はバークシャーの経営方針から後継者問題、バフェット氏の投資哲学、米中関係やボーイング機事故まで多岐にわたる。
■アマゾン株初購入でも「投資哲学変わらず」
総会前から市場の関心を集めていたのは、バークシャーによるアマゾン株初購入だ。総会直前の米メディアのインタビューでバフェット氏が明かした。「バリュー(割安株)投資の父」といわれるベンジャミン・グレアム氏から薫陶を受けたバフェット氏は自身も割安株への投資で巨額の資産を築いた。アマゾンの予想PER(株価収益率)は71倍で決して割安とは言えない。ハイテク株のけん引する株高が続き「バリュー投資の死」がささやかれるなか、「バフェット氏もとうとう宗旨変えか」などと話題になった。
バフェット氏は株主からの質問に答え、「バークシャーの投資哲学は変わらない」と強調した。アマゾン株の購入は、バフェット氏から一部運用を任されている社内のファンドマネジャーが決めたが「バリュー株投資の原則に完全に沿っている」と説明した。足元の価格だけをみて割安かどうかの判断はしないと指摘。詳しくは語らなかったが、将来の成長性や財務諸表に表れない価値などを考慮すれば割高ではない、と言いたげだった。
バフェット氏はアマゾンについて小売業者として「強力なブランド力を築いている」と評価した。バークシャーの投資先である米食品大手クラフト・ハインツは、米小売大手コストコやウォルマート、アマゾン傘下のホールフーズ・マーケットが自社店舗で提供する「プライベート商品」に押され、商品競争力が低下、業績も悪化している。バフェット氏は出資先の苦戦を通じて流通とメーカーの力関係の変化を目の当たりにしており、アマゾンへの高い評価につながっているようだ。
■バフェット氏の「資本主義者」宣言に拍手
米国では資本主義のあり方を巡って議論がわき起こっている。所得格差の拡大に対する国民の不満は根強く、富裕層への課税強化など、急進的な改革を訴える一部の民主党議員に支持が集まるようになった。2020年の次期大統領選の争点にもなりそうだ。これに対し、米国を代表する経営者や投資家からは資本主義の行く末を懸念する声が相次ぐ。会場の株主からは「反資本主義」的な風潮がバークシャーの経営に与える影響について質問が出た。
民主党支持で知られるバフェット氏が「私は正真正銘の資本主義者だ」と答えると、総会会場からは拍手がわき起こった。バークシャーとして、どの大統領候補にも献金はしないという。一方、バフェット氏は「富裕層への税率が低すぎる」とかねて主張しており、格差是正に向けた行動が必要との立場だ。総会でも「資本主義は規制が必要であり、取り残された人々に手を差し伸べる仕組みがなければならない」と述べていた。
■手元資金11兆円の使い道に質問集中
投資家からの質問で目立ったのは、約1000億ドル(約11兆円)を超える手元資金の使い道だ。バークシャーは有効活用ができず、株主から厳しい目が向けられている。バフェット氏は長年、自社株買いに否定的だったが、昨年方針を転換すると、18年7~9月期に9億ドル、10~12月期に4億ドル分の自社株を購入した。それでも市場では「自社株買い実施の基準があいまい」などといった批判がくすぶる。
バフェット氏は「株価が我々の考えるバークシャーの本質的価値を下回ったら、喜んで資金を自社株買いにまわすだろう」などと語り、従来通りの説明に終始した。一方、手元資金の規模で自社株買いの方針を変えることはないと説明し、過度な株主還元期待をけん制した。バフェット氏は大型M&Aをあきらめていないからだ。4月下旬には石油大手オキシデンタルの発行する優先株を引き受け、100億ドルを出資する計画を明らかにした。