瀬崎祐の本棚

http://blog.goo.ne.jp/tak4088

詩集「火口の鳥」  高岡修  (2014/11)  ジャプラン 

2015-01-05 17:13:02 | 詩集
 101頁に44編を収める。
 あとがきに「一篇を原稿用紙一枚以内で書く」、「あるいは、単純に、一編で一つのことしか書かない」としている。そのために各作品のイメージはすっきりとしており、油彩画というよりも水彩画のようである。童謡詩人の矢崎節夫さんと知り合ったことが契機となっているとのこと。
 「海」という作品「あなたもまた/遠い時間から来た/海の/ひとつです」とはじまる。自然な形でわたしが作品に引き寄せられる巧みさがある。

   春になると
   あなたの心の沖あいには
   蜃気楼がゆらぎ
   胸の潮だまりには
   三葉虫やオウムガイが
   遊びます

 わたしのなかに世界を包む光景がひろがり、それは時間をも越えているかのようだ。海の持つ永遠性が一人の人の中に甦っており、穏やかに満ちてくるものを感じる作品になっている。
 死んだ子どものイメージも繰り返しあらわれるが、作者も若かった息子を亡くしているとのこと。
 「落とし穴」は、天上の草原に子どもたちがつくった「切ない罠」を詩っている。夢のなかで会いに来ようとした父や母、親しかった友だちが帰ってしまわないようにするためのもの。夜が明け、子どもたちは落とし穴を見に行くのだが、

   しかし
   そこにはいつも
   誰も落ちていません
   ただ
   少し踏み破られたとおぼしき草のおおいに
   地上の夢の切れはしのようなものが
   わずかに引っかかっているだけです

 こうして、どの作品も柔らかな色調なのだが、どこか哀しみに裏打ちされている。それは限られた命を優しさで見つめている作者の姿勢から来ているのだろう。
コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 詩集「兆し」  なんば・み... | トップ | 詩集「グラフティ」  岡本... »

コメントを投稿

詩集」カテゴリの最新記事