瀬崎祐の本棚

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山陰詩人  207号  (2017/03)  松江

2017-03-26 21:55:38 | 「さ行」で始まる詩誌
中村梨々が「見える」「聞こえる」という対になるような2編を発表してる。
 「見える」では、大根の葉の虫食いの穴から見えた世界を描いている。そして「聞こえる」では、その大根を洗っている。洗うと、それにつれて大根は何かを失っていくようなのだ。何気ない日常の隅に広がっている違和感、それは異世界へ通じているのだろうが、それを研ぎ澄まされた感覚が捉えている。

   私は慌ててごしごしと務め
   その間にも
   指先や爪に移る弔いの土の匂いが
   異国の喉のように震える
   落ちてしまいそうになる声を冷たい両手で抱え
   足早に勝手口をあがる

「深夜ラジオ」川辺真。
 午前零時前にラジオは「明日の日の出の時刻」を放送する。そのときにあなたは何をしていたのか(6つの行為が記される)。そして零時過ぎには「今日の天気」が読み上げられる。そのとき私は何をしていたのか。

   わたしは「紅とんぼ」という歌を小さく唄っていた
   三十年近く通った赤提灯の閉店を信じたくなかった
   しばらく参っていない両親の墓のことを考えていた
   墓碑に刻まれた名をもう指でなぞりたくはなかった
   半年後の退職の先にある生活をぼんやり描いていた
   日曜に理髪店に行く習慣は変えるつもりはなかった

 たたみかけるように羅列された行為が、深夜の世界を形づくっている。視覚的にも工夫されている作品。

 井上裕介が拙誌集「片耳の、芒」の詩集評を書いてくれている。ありがとうございます。結びは、

   いくつもの隘路をくぐりぬけ、脂ぎったものが抜け落ちて、
   乾いてはいますが、成熟した感性で新たな物語の創造へと
   向かいつつあるのではないかと思います。

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