中村梨々が「見える」「聞こえる」という対になるような2編を発表してる。
「見える」では、大根の葉の虫食いの穴から見えた世界を描いている。そして「聞こえる」では、その大根を洗っている。洗うと、それにつれて大根は何かを失っていくようなのだ。何気ない日常の隅に広がっている違和感、それは異世界へ通じているのだろうが、それを研ぎ澄まされた感覚が捉えている。
私は慌ててごしごしと務め
その間にも
指先や爪に移る弔いの土の匂いが
異国の喉のように震える
落ちてしまいそうになる声を冷たい両手で抱え
足早に勝手口をあがる
「深夜ラジオ」川辺真。
午前零時前にラジオは「明日の日の出の時刻」を放送する。そのときにあなたは何をしていたのか(6つの行為が記される)。そして零時過ぎには「今日の天気」が読み上げられる。そのとき私は何をしていたのか。
わたしは「紅とんぼ」という歌を小さく唄っていた
三十年近く通った赤提灯の閉店を信じたくなかった
しばらく参っていない両親の墓のことを考えていた
墓碑に刻まれた名をもう指でなぞりたくはなかった
半年後の退職の先にある生活をぼんやり描いていた
日曜に理髪店に行く習慣は変えるつもりはなかった
たたみかけるように羅列された行為が、深夜の世界を形づくっている。視覚的にも工夫されている作品。
井上裕介が拙誌集「片耳の、芒」の詩集評を書いてくれている。ありがとうございます。結びは、
いくつもの隘路をくぐりぬけ、脂ぎったものが抜け落ちて、
乾いてはいますが、成熟した感性で新たな物語の創造へと
向かいつつあるのではないかと思います。
「見える」では、大根の葉の虫食いの穴から見えた世界を描いている。そして「聞こえる」では、その大根を洗っている。洗うと、それにつれて大根は何かを失っていくようなのだ。何気ない日常の隅に広がっている違和感、それは異世界へ通じているのだろうが、それを研ぎ澄まされた感覚が捉えている。
私は慌ててごしごしと務め
その間にも
指先や爪に移る弔いの土の匂いが
異国の喉のように震える
落ちてしまいそうになる声を冷たい両手で抱え
足早に勝手口をあがる
「深夜ラジオ」川辺真。
午前零時前にラジオは「明日の日の出の時刻」を放送する。そのときにあなたは何をしていたのか(6つの行為が記される)。そして零時過ぎには「今日の天気」が読み上げられる。そのとき私は何をしていたのか。
わたしは「紅とんぼ」という歌を小さく唄っていた
三十年近く通った赤提灯の閉店を信じたくなかった
しばらく参っていない両親の墓のことを考えていた
墓碑に刻まれた名をもう指でなぞりたくはなかった
半年後の退職の先にある生活をぼんやり描いていた
日曜に理髪店に行く習慣は変えるつもりはなかった
たたみかけるように羅列された行為が、深夜の世界を形づくっている。視覚的にも工夫されている作品。
井上裕介が拙誌集「片耳の、芒」の詩集評を書いてくれている。ありがとうございます。結びは、
いくつもの隘路をくぐりぬけ、脂ぎったものが抜け落ちて、
乾いてはいますが、成熟した感性で新たな物語の創造へと
向かいつつあるのではないかと思います。