瀬崎祐の本棚

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詩誌「ガーネット」  102号  (2024/03)  兵庫

2024-03-08 22:16:17 | 「か行」で始まる詩誌
神尾和寿が、担当している「詩誌時評」の中で細田傳造の詩に関連して「真面目さに耐えられないほど深刻なので、ふざけてみせるしかない」ような詩が好きだといった意のことを書いている。なるほど、と思う。
そしてその神尾和寿の詩「毒のリンゴ」である。白雪姫に材をとりながら苦笑を抑えられない不気味な情景が差し出されてくる。リンゴを食べて「お姫様が倒れ込むのを/ぼくたちは待っている」のだ。額に脂汗を浮かべながらでも、お姫様の「本当の秘密は/まだ明かされていない」のだ。最終連は、

    待っている
    お姫様が淫らになるのを
    世界中が待っている

悪だくみの隠微さが愉快な作品なのだが、先に引いた神尾の言葉がこの作品に重なってくる。

「若桜町まで」漆谷正雄。ゆるやかに曲がりくねった田舎道には風にあおられた綿毛が舞っている。たどり着いた味噌造りの作業場では繊細な菌が好い仕事をしているのだ。「ちいさないのちだからこそどこへでもいける」ということを感覚として受け取っている。

   ここにくるまでのあいだに
   生まれ変わってしまったような気がした

最近出版された詩集「風を訪うまで」もそうだったのだが、以前に比して作品の感触が好い意味で生々しさを増してきている。

「変な顔」嘉陽安之。鉄棒の練習をしている娘を父親の話者は見ている。すると娘は「なんでパパ/私が回る時/変な顔してるの」と笑う。でも、きみが人生の冷たい鉄棒をまわらなくてはいけなくなったときにもパパはこんな顔で君の傍にいるのだよ。

   パパの変な顔
   それこそ
   きみに勇気を与え
   すべり落ちてしまっても
   きみを全力で受け止める
   父親の顔だよ

なんの説明も要らない無償の父親の愛情がここにある。こんな風に素直でまっすぐな作品を書けるのも、父親の自覚としての強さがあるからだろう。

同人のエッセイが並ぶ「ガーネット・タイム」に、大橋政人が「テレビの観方、詩の書き方」を書いていた。後半の「詩の書き方」についてでは、「早稲田文学」「詩学」からの原稿依頼事件(?)から学んだ教訓としての”詩のストック用ノート”についてが書かれていて、大変に面白かった。
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