《驥北の野》(平成29年7月17日撮影)
さて前回の私の結論は、件のドタキャンの直接的な切っ掛けはどうやら残った⑴、つまり⑴ 詩人の白鳥省吾と犬田卯の二人が訪ねて來る云ふ手紙を貰つているのだが、私は一應承諾した。
に拠るものであったということになりそうだ、というものであった。巷間、この訪問応諾ドタキャンは白鳥省吾に対してであったと言われているようだが、この⑴から明らかなように賢治宅訪問予定者としては白鳥のみならず犬田卯もいたということであり、実はさらにもう一人佐伯郁郎もいたのである。それは例えば、大正15年7月31日付『岩手日報』において佐伯郁郎が「感謝の言葉」と題して次のようなことを述べているからも知ることができる。
わたしたちは、実は花巻でも、講演し、釜石でもするはずであった。前者は、わざわざ花巻到着時間を電知し、せっかくの好摩の盆踊りも見ないで、やって行ったのに対して主催者側の不手際から、どこでどうやればいいかもわからぬ破目になって、阿部、米内、村井、加藤の四氏に御迷惑をかけて花巻遊園地むなしく(実は非常に愉快であったが)一日をくらしてしまうこととなり、釜石へは白鳥氏の急用のために果たさないでしまった。折角の機会、殊にも、犬田氏は多忙中を、わざわざやって来てくれたのに対して、只一ヶ所の講演は実に残念ではあった。
もちろん、この「講演」とは千葉恭がドタキャンを伝えに行った大正15年7月25日に行われた“啄木会主催『農民文芸会盛岡講演会』”のことであり、この『農民文芸会』を当時実質的に取り仕切っていたのが犬田卯であり、白鳥も佐伯も共にこの会のメンバーであった。そして同月26日には、この三人は共に下根子桜の賢治宅を当初は訪問する予定だったということもこの記事から読み取れる。さらには、少し遡った7月22日付『岩手日報』には、
岩手の地と農民の藝術
二十五日佛教会館で講演する佐伯氏談
來る二十五日夜石川啄木會主催の文藝講演會でフランスの農民藝術について講演すべき東京女子高等学院の教授佐伯郁郎氏は二十日夜行にて來盛したが同氏は次の如く語つた
私は白鳥犬田の兩氏と農民藝術協會の會員で主としてフランス農民藝術についてお話をしやうと考へて居ります我々同志の手で近く春陽堂から農民文藝十二講と云ふ本を出版する事になつてゐるので私はその原稿執筆のため友人の好意に誘はれて外山牧場でこの一夏を送る事になつてゐるのです白鳥氏は農民的な詩人としての聲價は今改めて御話する迄もなく詩壇の第一位を占むるものであると信じます、犬田氏はほうんとうに農民自身として三十年の生ガイを土に即して謙ソンにしかも勇敢に生きて來た人で土の藝術家として故長塚節先生に師事し農民大衆の合理的な解放のために戰つて來た人です、氏の多分自己の体驗から大地の藝術について素ボクにして迫力ある話をさるゝ事と思ひます啄木を生んだ岩手と云ふ土地が如何にこの土の藝術家たちを吸引したことか……
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