(前回からの続き)
前述したように、「アベノミクス」(円安誘導)のもとで国を豊かにするためには「輸出振興」つまり円安でかさんでしまった外国への円建て支払額を取り返す以上の稼ぎを輸出で得なければ意味がありません。まあ一般的に通貨安には貿易面の価格競争力を押し上げる効果があることはたしかでしょうが・・・
しかし、残念ながら(?)日本の輸出産業の構造は、どこかの新興国とは違って、かなり前から為替レートにあまり左右されることのないものになっています。このあたりは以前こちらの記事に長々と綴ったとおりです。端的にいって、わが国としては円安になったからといって輸出額を急に増やすのは難しいし、一方で円高になっても輸出が大きく落ち込むことはないということ。そんな環境では単純に、円安は輸出にプラス、なんてことにはならないはず・・・
このあたりは最近の日本の貿易状況でも確認できます。以下のグラフは2011/11(アベノミクス実質開始の1年前の月)から今年4月までのわが国の月別輸出入額と貿易収支(純輸出額)の推移です(出典:財務省)。これをみてみると・・・
2012/11から事実上、アベノミクスの円安誘導は始まりましたが、その影響が翌年からさっそく現れています・・・って、おもに輸入のほうなのですが、2013年に入ってから各月の輸入額はすべて6兆円を上回る水準へ増えていっています。いうまでもなくこの第一の原因は原油・液化天然ガス等の円建て輸入額が円安で膨らんだため。2014年1月には8兆円あまりと月額の輸入額で過去最高を記録しました。その後も直近(今年4月)に至るまで6兆円超の高いレベルが続いています。
一方の輸出ですが、グラフでご覧いただくとおりです・・・。とても輸入で増えたマネーの海外漏出分を取り戻したとはいえません。円安にしたのに輸出額がなかなか伸びない―――これは上述の事情から容易に予想できたことであって、けっして日本企業の国際競争力が低下した、とかいうわけではありません。
で、この結果、輸出と輸入の差し引きである貿易収支(純輸出)額は2013年11.47兆円、2014年12.82兆円もの赤字と、アベノミクス開始前の2012年(6.94兆円の赤字)をはるかにしのぐ規模にまで拡大してしまいました。しかも2014年なんて過去最悪の値・・・。円安誘導で輸出振興を!と目論んだのに、実際に起こったのはまったく逆で、輸入額および貿易赤字の激増と国益の激減・・・
いかがでしょうか。もう完全にこれは日本の貿易構造に対する安倍政権・黒田日銀の無理解に起因した政策判断ミスのせいといえるのでは? いや、この間、両者はポジティブに「景気は緩やかに回復している」なんて言い続けてきたから、アベノミクスの狙いどおりということなのでしょうか?
(なお、今年に入って貿易赤字は減ってきているが、これは昨年後半から急速に進んだ原油安が最大要因。原油だけでも2015年第一Qは前年第一Qよりも2兆円以上、輸入額が減っている。)