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「お待ちしてます 下町和菓子 栗丸堂5」似鳥航一

2016-04-16 20:53:51 | 小説


今回ご紹介するのは「お待ちしてます 下町和菓子 栗丸堂5」(著:似鳥航一)です。

-----内容-----
浅草に夏がやってきた。
和菓子は涼を求められる季節である。
清流の美「若鮎」を作ることになった栗田。
これが富樫との思いがけぬ邂逅をもたらす。
彼の真意とは一体?
一方、若者の季節の到来に、それぞれの想いが交錯する。
栗田は彼女らの想いを受けとめ、応えていく。
葵に影のようにまとわりつく過去の亡霊、富樫と決着をつけるべく。
かけがえのない時をともに歩んできた由加が、新たな一歩を笑顔で踏み出せるように。
物語はいよいよ佳境へ。

-----感想-----
※「お待ちしてます 下町和菓子 栗丸堂」のレビューはこちらをどうぞ。
※「お待ちしてます 下町和菓子 栗丸堂2」のレビューはこちらをどうぞ。
※「お待ちしてます 下町和菓子 栗丸堂3」のレビューはこちらをどうぞ。
※「お待ちしてます 下町和菓子 栗丸堂4」のレビューはこちらをどうぞ。


「下町和菓子栗丸堂」シリーズの一区切りとなる第5巻。
今作は次の三編で構成されています。

若鮎
かき氷
大福

「若鮎」
物語は富樫瞬の語りで幕を開けます。
富樫は葵に会って何かを為し遂げようとしています。
それが何なのか気になりました。
さらに冒頭から浅羽怜が富樫瞬の潜伏場所を突き止め、浅羽と富樫の対決になりました。

葵と栗田の二人は真澄伸一の墓参りに行っていました。
その帰り、浅羽の負傷を聞いて二人は驚きます。
浅羽が運ばれた病院に行き、今作は冒頭から波乱の展開になっていました。

この話では葵と白鷺敦という珍しい組み合わせで栗丸堂を訪れます。
白鷺は千利休の高弟の一人が始めた伝統ある流派、白鷺流茶道の宗家長男であり次期家元です。
白鷺は前作で白鷺家御用達となった栗丸堂に6月の茶会で出す茶菓子を作るように頼んできます。
栗田の頭に浮かんだのは「水無月(みなづき)」という旧暦の六月を意味する、外郎(ういろう)の表面に小豆の粒餡を並べ三角形に切った和菓子でした。
ただこれは他の店が作ることになっていて、白鷺は「若鮎」を作るように頼んできました。
あまり意識したことがないですが鮎は夏の季語であり鮎漁の解禁も六月ということで、若鮎は夏を代表する和菓子の一つとありました。

茶会用の若鮎作りをしている時、栗田は葵に出会ってから葵のおかげで自身が和菓子職人として成長したことを実感します。
ただこの話では栗田にも富樫瞬の影が迫り、その自信が揺らぐことになります。

また、この話では広紀という子供が二日連続で栗丸堂を訪れ、同じく二日連続で手帳を忘れていこうとする不可解な行動をします。
どう見てもわざとその手帳を置いていこうとしていて、なぜ置いていこうとするのか気になるところでした。


「かき氷」
この話ではずっと栗田に想いを寄せていた八神由加が行動に出て、栗丸堂にやってきて栗田をデートに誘います。
かなり強引な誘いでしたが、その場に居た葵にも「行ってみたらどうか」と言われ、由加と葵の様子に不自然さを感じながらも幼馴染である由加の誘いを承諾。
二人で「浅草花やしき」に行くことになりました。

小さい頃からの幼馴染なので栗田は由加の特徴をよく知っています。
「浅草花やしき」でも由加の不自然さにすぐに気付き、何を隠しているのだろうと考えていました。
ただ、栗田は恋愛感情にはてんで鈍く、由加が栗田に想いを伝えようとして不自然な態度になっていることには全く気付いていませんでした。

やがて「浅草花やしき」で中村広明という栗田、由加と同じ中学校の同級生にばったり再会します。
中村広明は現在大学生で、「浅草花やしき」のフードコートでアルバイトをしています。
栗田は中学一年生の時、この三人で花屋敷に行った時のことを思い出します。
その時の回想を読むと由加は明らかに栗田の気を引こうとしているのですが、栗田は由加の意図に全く気付いていないことが読んでいてよく分かりました。
ただしこれは由加のやり方にも問題があるような気がしました。
そのやり方は「その時点で、栗田も由加のことを好きだった場合」にしか通用しないのではと思いました。

この話は由加による恋愛要素が強い話でした。
栗田も終盤では由加の想いを知り向き合うことになります。
そしてこの話では栗田が「家族」について良いことを言っていました。

「何があっても、ずっと変わらないのが家族ってやつだ」

私も家族の絆はかけがえのないものだと思います。
最も気楽に話せる存在であり、さらには楽しい時でも辛い時でも、どんな時でも支えになってくれるのが家族です。


「大福」
この話は再び富樫の語りで幕を開け、冒頭から富樫は何とかして葵に接触しようとしていました。
さらに「自身に残された時間は長くない」とも述懐していました。
たしかに「若鮎」の話の時から富樫には何らかの病気の兆候があって、どんな病に侵されているのか気になるところでした。

この話では前作に登場したIT企業の元社長、剣持照久が再登場します。
剣持は現在は昼間の仕事のほかに夜は工事現場でアルバイトという生活を送っています。
そしてその剣持が働く工事現場に富樫の姿があったことが剣持から語られ、葵と栗田は再び富樫に迫っていきます。
また葵は普段はとても穏やかで優しいのですが、富樫のことになると生気を漲らせて瞳が爛々とし、栗田はその普段とは違う姿に不安を感じていました。

葵の案により葵と栗田はかつて富樫が働いていた静岡県御殿場市にある鳳凰堂の静岡支店に行き、働いていた時代の富樫を知る支店長の檜垣という人から話を聞きます。
富樫の父親、富樫廉太郎は和菓子屋をやっていて、廉太郎は一人息子である瞬に和菓子の技術と知識の全てを教え込んでいて、富樫瞬は幼少期から製菓漬けの日々だったことが分かりました。
次第に富樫瞬の謎に迫っていきます。
また、富樫廉太郎は最高傑作の和菓子、「秘伝の大福」を開発していました。
その秘伝の大福の中には何がが入っていて、その正体は意外なものでした。
豆大福やいちご大福は有名ですが、この大福は聞いたことがないなと思います。

葵と栗田は因縁の相手、富樫とどのように決着をつけるのか興味深く読んでいきました。
特に葵にとっては自身の和菓子職人生命を絶たれることになった原因の相手で、葵自身「心の中にはまだ凍りついたままの部分があり、富樫との因縁に決着をつけないと私は前には進めない」という旨の発言をしていました。

栗田は「富樫の件が片付いたら葵に告白しよう」とずっと思っていましたが、ついに富樫と決着をつける時が来ます。
栗田らしい、良い決着のつけ方だと思いました。
葵もようやく気持ちに整理をつけることができ、止まっていた時間が動き出していったようで良かったと思います。

「下町和菓子 栗丸堂」のシリーズはこれで一区切りとなりますが、もしかすると何年か後を舞台に、葵と栗田のその後の物語が描かれるかも知れません。
面白いシリーズだったのでもしその後の物語が出たらそちらもぜひ読んでみたいと思います


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