今回ご紹介するのは「お待ちしてます 下町和菓子 栗丸堂3」(著:似鳥航一)です。
-----内容-----
春めく浅草は、今日も多くの人でにぎわう。
そんな陽気につられてか、甘味処栗丸堂はどこか落ち着かない。
それもそのはず、若主人の栗田に悩みの種が増えたのだ。
悪友の浅羽が調べた葵の正体は、栗田の心を揺るがすことに。
自分は葵をどう思っているのか、どうするべきか。
決断を迫られていた。
そんな栗田の気持ちも知らず、店には面倒事が舞い込んでくる。
笑いあり涙あり。
和菓子が育む緑は末広がりのようで。
やさしい味わいがもたらすそのてんまつはいかに?
-----感想-----
楽しみにしていたシリーズ第3巻、先日発売されたのでさっそく購入して読んでみました。
今作は以下の三編で構成されています。
あんみつ
みたらし団子
金平糖
「あんみつ」
冒頭は浅羽怜(りょう)と楓の兄妹の会話から始まります。
楓は先日高校を卒業して今は浪人生。
大学受験に失敗したショックからは立ち直っているとあって良かったと思いました。
ここは浅草。日が暮れると昼間とはまた違う、風雅な日本情緒を漂わせる町。
ライトアップされたスカイツリーが隅田川越しに聳える、静かな夜の隅田公園
これらの表現は良いなと思います。
自然と浅草への興味が湧いてきます。
春のある夜、栗田は浅羽に話があると言われ二人で隅田公園に行きます。
そこで浅羽が語り始めたのは葵のこと。
浅羽が調べた葵の正体は日本最大の和菓子メーカーの社長令嬢。
前作で「鳳城のお嬢様」と呼ばれていたことからこれは予想どおりでした。
予想外だったのは浅羽が葵に惚れたと言っていたことで、葵に好意を抱く栗田はだいぶ動揺していました。
「あんみつ」という話だけに、あんみつの具材やその成り立ちに関することが色々分かります。
小豆は皮が硬く、へそにある給水組織からしか水を吸わないので他の豆より膨らむのに時間がかかります。
そのため良質の餡を作るには前の日から小豆を水に浸すとあり、なるほどと思いました。
「あんみつを最初に作ったのは銀座にある明治創業の老舗」とあり、これは知りませんでした。
調べてみると、現在も銀座五丁目のコアビル一階で営業している「若松」というお店があんみつを最初に作ったようです
あんみつの誕生には「みつ豆」の存在が不可欠で、まず浅草にある羊羹店の「舟和」でみつ豆が考案されました。
そこから、当時は汁粉屋だった「若松」の二代目、森半次郎氏が自慢の餡をより活かそうと工夫を重ね、昭和5年にみつ豆に餡を乗せた「あんみつ」を考案しました。
またみつ豆のさらに前段階として「豆かん」というのもあるようです。
豆と寒天に黒蜜をかけただけのもので、「豆寒天」なので略して豆かんと呼ばれています。
みつ豆と同じくこれも浅草が発祥の地とのことで、さすが浅草は昔からの下町だけあって色々あるなと思いました
築地の語源も興味深かったです。
海を埋め立てて「地」を「築」いた場所、ゆえに築地とありなるほどと思いました。
この話では「あんみつの七村」という、さびれたお店が舞台になります。
店主は七村というおじいさんで、お店はもうすぐ閉店します。
かつて妻が試行錯誤の末に考案したあんみつは店の看板商品となり繁盛していましたが、妻が亡くなり七村にはその味を再現することはできず、あんみつの味は落ちました。
そこから次第に客足は遠のき、お店は開店休業状態になっています。
そんな七村には孫娘の茜にもう一度特製あんみつを食べてほしいという願いがあります。
妻のあんみつが大好物だった茜も、七村が作るあんみつは不味いと言い食べてくれなくなってしまっていました。
これに栗田も協力することになります。
また、栗田の後をつける不審な人物の影があります。
誰が後をつけているのか、気になるところでした。
「みたらし団子」
序盤でまたしても不審人物が栗田を見ています。
作品全体を通して不審人物の影がちらつくことになりました。
この話では鍾乳洞という大道芸人が登場。
本名は翔一といい、栗丸堂の接客を務める赤木志保と従姉弟だということが明らかになります。
鍾乳洞こと翔一は大学在学中は就職活動が上手くいかず、就職浪人となった現在は大道芸人として活動しています。
赤木志保から翔一の大道芸人になる夢を諦めさせるように頼まれた栗田と葵。
そんな浮ついた夢にうつつを抜かすのではなく、堅実にまっとうな人生を歩んでほしいというのが志保の願いです。
ちゃきちゃきの江戸っ子で豪快な性格の志保から堅実発言が出るのは意外でしたが、志保も翔一と同じ年の頃に色々な職を転々とし苦労していたようで、従姉弟の翔一には同じようになってほしくないと思っていました。
この志保の頼みには戸惑った二人。
栗田は「人が何かに打ち込んでいるのを止めるのは気が進まない」と胸中で言っていました。
現実問題、苦難の道になることが明白でも、やりたいなら挑み、失敗したら悔し涙を流し、納得した上で諦めた方がいい。成功した時は喜べばいい。
この栗田の考えはたしかにそうだなと思いました。
そしてみたらし団子の「みたらし」とは何なのか、その由来は興味深かったです。
みたらしは漢字で「御手洗」と書くが、京都・下鴨神社が行う「御手洗祭」で、竹の串に差した団子を神前に供えたからという説がまず一つ。
もう一つは境内の「御手洗池」から湧き出る水泡に着想を得て作った団子だからという説。
みたらし団子の発祥の地は京都であり、みたらしの由来に下鴨神社が出てきて、主に森見登美彦さんの作品の影響でその界隈に興味のある私には思わずワクワクする由来でした^^
「金平糖」
季節は5月も初旬を過ぎた頃。
毎年5月に行われる浅草神社の例大祭、三社祭(さんじゃまつり)が近付いてきています。
この話は冒頭の文章が良いなと思いました。
五月も初旬をすぎて陽射しは麗らか。浅草の町は目に見えて活気づいている。
胸が弾むような高揚を含んだ空気は、この時期特有のものだ。
私もこの空気は好きです。
新緑が出てきて、それが陽射しを受けて黄緑色に輝いて、青空と相まって物凄く明るい景色になります
葵が栗田にプレゼントをしてくれて、かなり嬉しくなった栗田。
葵に告白しようと決意を固めた栗田がこの話の中で果たして告白することができるのか、なかなか興味深かったです。
金平糖(こんぺいとう)は戦国時代に日本に伝来した南蛮菓子の一つで、名前はポルトガル語で砂糖菓子を意味する「コンフェイト」から来ているとのことです。
そしてポルトガルの宣教師ルイス=フロイスが金平糖を織田信長に贈ったともありました。
この作品を読むと和菓子にまつわる色々なことが分かって面白いなと思います
「金平糖」の話の舞台となるのは兼重製菓という金平糖を作っている製菓工場。
親父さんの兼重力也と息子の忍で金平糖を作っていましたが、半年前に喧嘩をし、そこから親子の関係はギクシャクしてしまいました。
忍は今では金平糖を作る銅鑼(どら)に近付きもしなくなり、連日真っ黄色の派手な車でどこかに出掛けています。
「ほんとは俺も分かってるんだ。俺や、俺が作る金平糖みたいなものは今の時代に合ってねぇ。いくらクソ真面目に作っても、誰も良さを理解してくれねぇんじゃ無意味だ。そうやって人知れずこの世からなくなっていくものなんだ」
親父さんのこの言葉は切ないなと思いました。
たしかに私も金平糖は久しく食べていないです。
ただ回想に出てきた親父さんのさらに親父さん(先代)の言葉は良かったです。
「金平糖みたいに愛らしいものまで消えちまうとしたら……この世も末だ。そこまで余裕のない世の中には絶対になってほしくねぇ」
また、葵によると古くからの伝統的な製法で人気を博している有名な金平糖の専門店が、今も京都に一軒だけ現存しているとのことです。
ネットで調べてみたら「緑寿庵清水」という1847年創業から150年以上同じ製法を守り続ける日本唯一の金平糖専門店のことのようでした。
ここにも京都が出てきて、京都や浅草など、古くからの伝統を持つ街は和菓子の伝統も続いているんだなと思いました
物語の終盤、またも栗田の後をつける不審人物の影が。。。
ただ実は葵のほうをつけているのではという予感もしてきて、何だか不穏な展開に。
右手首の傷跡や和菓子の社長令嬢としてのことなど、葵がこれまで語ってこなかった自分自身のことも明らかになっていきそうです。
物語が佳境を迎えそうな第4巻、楽しみに待ちたいと思います。
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-----内容-----
春めく浅草は、今日も多くの人でにぎわう。
そんな陽気につられてか、甘味処栗丸堂はどこか落ち着かない。
それもそのはず、若主人の栗田に悩みの種が増えたのだ。
悪友の浅羽が調べた葵の正体は、栗田の心を揺るがすことに。
自分は葵をどう思っているのか、どうするべきか。
決断を迫られていた。
そんな栗田の気持ちも知らず、店には面倒事が舞い込んでくる。
笑いあり涙あり。
和菓子が育む緑は末広がりのようで。
やさしい味わいがもたらすそのてんまつはいかに?
-----感想-----
楽しみにしていたシリーズ第3巻、先日発売されたのでさっそく購入して読んでみました。
今作は以下の三編で構成されています。
あんみつ
みたらし団子
金平糖
「あんみつ」
冒頭は浅羽怜(りょう)と楓の兄妹の会話から始まります。
楓は先日高校を卒業して今は浪人生。
大学受験に失敗したショックからは立ち直っているとあって良かったと思いました。
ここは浅草。日が暮れると昼間とはまた違う、風雅な日本情緒を漂わせる町。
ライトアップされたスカイツリーが隅田川越しに聳える、静かな夜の隅田公園
これらの表現は良いなと思います。
自然と浅草への興味が湧いてきます。
春のある夜、栗田は浅羽に話があると言われ二人で隅田公園に行きます。
そこで浅羽が語り始めたのは葵のこと。
浅羽が調べた葵の正体は日本最大の和菓子メーカーの社長令嬢。
前作で「鳳城のお嬢様」と呼ばれていたことからこれは予想どおりでした。
予想外だったのは浅羽が葵に惚れたと言っていたことで、葵に好意を抱く栗田はだいぶ動揺していました。
「あんみつ」という話だけに、あんみつの具材やその成り立ちに関することが色々分かります。
小豆は皮が硬く、へそにある給水組織からしか水を吸わないので他の豆より膨らむのに時間がかかります。
そのため良質の餡を作るには前の日から小豆を水に浸すとあり、なるほどと思いました。
「あんみつを最初に作ったのは銀座にある明治創業の老舗」とあり、これは知りませんでした。
調べてみると、現在も銀座五丁目のコアビル一階で営業している「若松」というお店があんみつを最初に作ったようです
あんみつの誕生には「みつ豆」の存在が不可欠で、まず浅草にある羊羹店の「舟和」でみつ豆が考案されました。
そこから、当時は汁粉屋だった「若松」の二代目、森半次郎氏が自慢の餡をより活かそうと工夫を重ね、昭和5年にみつ豆に餡を乗せた「あんみつ」を考案しました。
またみつ豆のさらに前段階として「豆かん」というのもあるようです。
豆と寒天に黒蜜をかけただけのもので、「豆寒天」なので略して豆かんと呼ばれています。
みつ豆と同じくこれも浅草が発祥の地とのことで、さすが浅草は昔からの下町だけあって色々あるなと思いました
築地の語源も興味深かったです。
海を埋め立てて「地」を「築」いた場所、ゆえに築地とありなるほどと思いました。
この話では「あんみつの七村」という、さびれたお店が舞台になります。
店主は七村というおじいさんで、お店はもうすぐ閉店します。
かつて妻が試行錯誤の末に考案したあんみつは店の看板商品となり繁盛していましたが、妻が亡くなり七村にはその味を再現することはできず、あんみつの味は落ちました。
そこから次第に客足は遠のき、お店は開店休業状態になっています。
そんな七村には孫娘の茜にもう一度特製あんみつを食べてほしいという願いがあります。
妻のあんみつが大好物だった茜も、七村が作るあんみつは不味いと言い食べてくれなくなってしまっていました。
これに栗田も協力することになります。
また、栗田の後をつける不審な人物の影があります。
誰が後をつけているのか、気になるところでした。
「みたらし団子」
序盤でまたしても不審人物が栗田を見ています。
作品全体を通して不審人物の影がちらつくことになりました。
この話では鍾乳洞という大道芸人が登場。
本名は翔一といい、栗丸堂の接客を務める赤木志保と従姉弟だということが明らかになります。
鍾乳洞こと翔一は大学在学中は就職活動が上手くいかず、就職浪人となった現在は大道芸人として活動しています。
赤木志保から翔一の大道芸人になる夢を諦めさせるように頼まれた栗田と葵。
そんな浮ついた夢にうつつを抜かすのではなく、堅実にまっとうな人生を歩んでほしいというのが志保の願いです。
ちゃきちゃきの江戸っ子で豪快な性格の志保から堅実発言が出るのは意外でしたが、志保も翔一と同じ年の頃に色々な職を転々とし苦労していたようで、従姉弟の翔一には同じようになってほしくないと思っていました。
この志保の頼みには戸惑った二人。
栗田は「人が何かに打ち込んでいるのを止めるのは気が進まない」と胸中で言っていました。
現実問題、苦難の道になることが明白でも、やりたいなら挑み、失敗したら悔し涙を流し、納得した上で諦めた方がいい。成功した時は喜べばいい。
この栗田の考えはたしかにそうだなと思いました。
そしてみたらし団子の「みたらし」とは何なのか、その由来は興味深かったです。
みたらしは漢字で「御手洗」と書くが、京都・下鴨神社が行う「御手洗祭」で、竹の串に差した団子を神前に供えたからという説がまず一つ。
もう一つは境内の「御手洗池」から湧き出る水泡に着想を得て作った団子だからという説。
みたらし団子の発祥の地は京都であり、みたらしの由来に下鴨神社が出てきて、主に森見登美彦さんの作品の影響でその界隈に興味のある私には思わずワクワクする由来でした^^
「金平糖」
季節は5月も初旬を過ぎた頃。
毎年5月に行われる浅草神社の例大祭、三社祭(さんじゃまつり)が近付いてきています。
この話は冒頭の文章が良いなと思いました。
五月も初旬をすぎて陽射しは麗らか。浅草の町は目に見えて活気づいている。
胸が弾むような高揚を含んだ空気は、この時期特有のものだ。
私もこの空気は好きです。
新緑が出てきて、それが陽射しを受けて黄緑色に輝いて、青空と相まって物凄く明るい景色になります
葵が栗田にプレゼントをしてくれて、かなり嬉しくなった栗田。
葵に告白しようと決意を固めた栗田がこの話の中で果たして告白することができるのか、なかなか興味深かったです。
金平糖(こんぺいとう)は戦国時代に日本に伝来した南蛮菓子の一つで、名前はポルトガル語で砂糖菓子を意味する「コンフェイト」から来ているとのことです。
そしてポルトガルの宣教師ルイス=フロイスが金平糖を織田信長に贈ったともありました。
この作品を読むと和菓子にまつわる色々なことが分かって面白いなと思います
「金平糖」の話の舞台となるのは兼重製菓という金平糖を作っている製菓工場。
親父さんの兼重力也と息子の忍で金平糖を作っていましたが、半年前に喧嘩をし、そこから親子の関係はギクシャクしてしまいました。
忍は今では金平糖を作る銅鑼(どら)に近付きもしなくなり、連日真っ黄色の派手な車でどこかに出掛けています。
「ほんとは俺も分かってるんだ。俺や、俺が作る金平糖みたいなものは今の時代に合ってねぇ。いくらクソ真面目に作っても、誰も良さを理解してくれねぇんじゃ無意味だ。そうやって人知れずこの世からなくなっていくものなんだ」
親父さんのこの言葉は切ないなと思いました。
たしかに私も金平糖は久しく食べていないです。
ただ回想に出てきた親父さんのさらに親父さん(先代)の言葉は良かったです。
「金平糖みたいに愛らしいものまで消えちまうとしたら……この世も末だ。そこまで余裕のない世の中には絶対になってほしくねぇ」
また、葵によると古くからの伝統的な製法で人気を博している有名な金平糖の専門店が、今も京都に一軒だけ現存しているとのことです。
ネットで調べてみたら「緑寿庵清水」という1847年創業から150年以上同じ製法を守り続ける日本唯一の金平糖専門店のことのようでした。
ここにも京都が出てきて、京都や浅草など、古くからの伝統を持つ街は和菓子の伝統も続いているんだなと思いました
物語の終盤、またも栗田の後をつける不審人物の影が。。。
ただ実は葵のほうをつけているのではという予感もしてきて、何だか不穏な展開に。
右手首の傷跡や和菓子の社長令嬢としてのことなど、葵がこれまで語ってこなかった自分自身のことも明らかになっていきそうです。
物語が佳境を迎えそうな第4巻、楽しみに待ちたいと思います。
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※図書ランキングはこちらをどうぞ。
和菓子がテーマなだけに、子供にも親しみやすいし、はまかぜさんの記事を読んでいて、時々光景が自然と頭に浮かんできそうになるくらいなので、万人が入りやすいのかなと思うお話・・・、大人も子供も楽しめるTVアニメにでもなったら、絶対楽しみに見てしまいそう~、そして和菓子も売れる&流行る~みたいな^^b
金平糖のところの由来が面白かったです。なるほどって思っちゃった。
それと、今の時代、金平糖をくそ真面目に作っても、誰も良さを理解してくれないって事ですが・・・。これって、色々な日本伝統のものの職人さんに言える事で、こういったものの職人と言われる人の数がどんどん減少していますよね。何とかして職人さんが絶えないように願いたいし、例えばこのお話だと、金平糖を従来の伝統的なものの他に進化したアイテムを作るとかして、アピールしてみるとか・・・しながら、これからも金平糖作りを続けてほしいです♪
たしかに、和菓子を作っているところや食べているところの場面がかなり興味を惹いたりするので、アニメになったら和菓子も流行りそうです
コンフェイトから金平糖は私もなるほどと思いました。
そして色々な分野の職人さん、どんどん減っていっていますね。
この話での金平糖は、最後今までとは違う金平糖が出来上がっていました。
読んでいたら私もその金平糖を食べてみたくなりました^^
和菓子の職人さん、ぜひこれからも頑張っていってほしいと思います