読書日和

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「お待ちしてます 下町和菓子 栗丸堂4」似鳥航一

2015-12-13 22:18:18 | 小説
今回ご紹介するのは「お待ちしてます 下町和菓子 栗丸堂4」(著:似鳥航一)です。

-----内容-----
三社祭の夜。
葵の笑顔に秘められた過去を、栗田は垣間見る。
それは多くの人生を狂わせた、重苦しいものだった。
栗田は思い悩む。
葵との出会いはひょんなことから。
それは和菓子がとりもつ乙な縁。
だが、いまやかけがえのないものになっている。
願わくはともに歩んでいきたい。
ならば、過去から彼女を救わなければいけない。
決意を固める栗田だが、周りは放っておいてくれないようで。
和菓子にまつわる奇妙な依頼は変わらず舞い込んでくる。
はてさて今日の騒動は?

-----感想-----
※「お待ちしてます 下町和菓子 栗丸堂」のレビューはこちらをどうぞ。
※「お待ちしてます 下町和菓子 栗丸堂2」のレビューはこちらをどうぞ。
※「お待ちしてます 下町和菓子 栗丸堂3」のレビューはこちらをどうぞ。

いよいよ葵さんの今まで明かされなかった過去のことが明らかになるシリーズ4作目。
今作は次の三編で構成されています。

水羊羹
きんつば
水饅頭

「水羊羹」
前作のラストである三社祭から一夜明けた月曜日から物語は始まります。

赤坂鳳凰堂の社長令嬢である鳳城葵はもとは和菓子職人でした。
葵の手首の怪我は富樫瞬という元同僚のせいだということが明らかになります。
その富樫が再び葵の前に姿を現したことから栗田は警察に連絡すると言いますが、葵は頑なにやめてくれと言います。
一体どんな事情があるのか気になるところでした。
また、葵が「今まで話せなかったことを全て話すから、木曜日に埼玉県のある場所に一緒に行ってくれないか」と言ってきて、栗田も同意しました。
いよいよこのシリーズが佳境を迎えていることが分かりました。

栗田が行きつけの喫茶店に行くと、マスターと富樫瞬のことの話になりました。
もともと栗丸堂に葵を紹介してくれたのはマスターで、マスターは葵の事情についても知っていました。
栗田と話している中、マスターの口から真澄伸一という名前が出ます。
この人物も葵と富樫瞬とのことに大きく関わっていて、一体何があったのかますます気になりました。
冒頭でこういった展開がありながら「水羊羹」の話は進んでいきます。

この話ではマスターの紹介で白鷺(しらさぎ)敦という茶道の跡取り息子が栗丸堂に水羊羹を食べにきます。
葵が水羊羹について蘊蓄を語るのですが、羊羮と水羊羮の違いは含まれる水分量の違いだけというのは意外でした。
水羊羹の場合はふんだんに含まれる水の分だけ他の材料の割合が減り、結果的に羊羹より餡や砂糖の甘味が抑えられるとのことです。
水羊羮は本来は夏ではなく冬の和菓子でしかもおせち料理だったというのも意外でした。
水羊羹は水分を多く含むので傷みやすく、冷蔵技術が未発達だった時代の人は寒い冬にしか食べられなかったとのことです。

水羊羹を食べている時は美味しそうに食べおかわりまでしていた白鷺ですが、なぜか食べ終わった後に態度が一変します。
急に態度が悪くなり栗丸堂の水羊羹は口に合わないと言います。
「何がどう口に合わなかったんですか?」
と聞く栗田に、
「いや、特に何が、というわけじゃなくて。あえて言うなら……全部?」
と全否定する白鷺。
これには栗田も葵も唖然としました。

ただ葵は和菓子に関する並外れた洞察力で白鷺の正体を見破ります。
そして葵と栗田の二人は白鷺から真意を聞くべく、高田馬場にある白鷺流宗家の御屋敷に乗り込みます。
赤坂鳳凰堂の水羊羹のほうが圧倒的に美味いと豪語する白鷺敦に対し、それを上回る水羊羹を食べさせるための戦いが始まります。


「きんつば」
白鷺との戦いの次の日から物語が始まります。
冒頭、和菓子の戦いの末なんと栗田と仲良くなった白鷺が栗田にメールを送ってきました。
白鷺はかなり頻繁にメールを送ってきていて構ってちゃんぶりを発揮していました。
この話では風船羊羮の由来が興味深かったです。
表面のゴムに爪楊枝を刺すと皮が剥けて食べられるようになり、なかなか面白い和菓子らしいです。
その風船羊羹の原形は、福島県二本松市の老舗和菓子店が昭和初期、軍の依頼で新鮮な羊羹を戦場の兵士に食べてもらうため、ゴムに入れて密封する方法を考案したとのことです。

栗田は白鷺敦に呼ばれ、白鷺邸に足を運びます。
そこでは白鷺敦の母、英恵(はなえ)が登場。
英恵は白鷺宗家の悩み事について打ち明けます。
英恵の義父、白鷺宏一郎は現在75歳。
先代の白鷺流家元であり、今の家元である白鷺宗命(そうめい)の実父にして敦の祖父です。
家元時代の宏一郎は茶名を宗角(そうかく)、斎号を天々斎といい、白鷺流十六代家元・天々斎白鷺宗角と名乗り大活躍していました。
その人物が家元の座を息子の宗命に譲ってからはどこか気が抜けたようになりました。
さらに外を歩いている時に中学生の自転車と衝突して足首を複雑骨折してからは精神的な何かが崩壊してしまったらしく、怪我が完治してからも寝たきりの状態になっています。
ほとんど言葉も発しなくなってしまった宏一郎が「何か食べたいものは?」と聞かれるとうわごとのように答えるのが「あのきんつば」。
英恵は様々な和菓子店に足を運び、最高級のきんつばを多々買い求めたのですが、どれを口にしても宏一郎は違うと言います。
途方に暮れていた時、息子の敦が最近知り合った栗田という和菓子職人のことを熱烈に推したので、藁にもすがる気持ちで栗田に相談してきたとのことでした。
ほとんど手がかりがない中、栗田は宏一郎の食べたがっているきんつばを探していくことになります。

栗田が幼馴染みでありグルメ雑誌のライターでもある八神由加とともに、きんつばを求めて浅草を歩いた時に出てきたお店が興味深かったです。

「創業明治36年、浅草のきんつば好きの間では有名な店だ。」

とあり、風格のある老舗のお店が登場しました。
実在するお店をモデルにしていると思われ、どんな和菓子店なのか後で調べてみようと思います。

宏一郎が求めるきんつばには一向に行き当たらず、途中からは葵の力も借りて試行錯誤していきます。
宏一郎が求める『あのきんつば』とは何なのか?
大きな謎が立ちはだかります。

きんつばはもともとは関西が発祥で、「ぎんつば」と呼ばれていたらしいです。
これは知りませんでした。
そしてこのネーミングが宏一郎の求めるきんつばの謎を解く鍵になっていました。


「水饅頭」
宏一郎のきんつばの謎を解いての白鷺邸からの帰りから物語が始まります。
栗田が店に帰ってくると、栗丸堂の前には不良高校生達がたむろしていました。
富樫瞬のことで栗田の身を心配した八神由加が援軍として読んだのでした。
みんな栗田の力になりたいと言っていました。
栗田にとっては弟分達であり、彼らの申し出を受けて、富樫瞬の大捜索が始まります。
その中の一人、みんなに招集をかけた観月というムードメーカー的な高校生はなぜか一人だけ帰ろうとしていました。
栗田が事情を聞くと、観月はロードバイクを盗まれてしまい、捜索に加わろうにも足がないとのことでした。
そして観月はロードバイクを盗まれた時の目撃証言から、盗んだ犯人が富樫瞬なのではと睨んでいます。
観月、栗田、八神由香、さらに浅羽怜も加わって、ロードバイクが盗まれた時の目撃者に話を聞きに行きました。
ちなみに浅羽は栗田に「この件が終わったら話がある」と言っていて、何なのか気になりました。

富樫瞬を追う大捜査網が展開される中、剣持照久というIT企業の元社長が登場しました。
金こそが我が人生、移動の際もポルシェしか使わないと豪語していたネット時代の寵児です。
しかし脱税、会社倒産、残された莫大な借金と寵児から一転して転落人生になり、今は行方をくらまして雲隠れしています。
私は剣持照久のモデルはホリエモンこと堀江貴文氏のような気がしました。

この話の終盤、ついに葵と富樫瞬、そして亡くなった真澄伸一の間に何があったのかが明らかになります。
葵が喧嘩のような暴力的なことが行われると顔面蒼白になる理由も分かりました。
次の5巻でシリーズは一区切りになるようなので、どんなクライマックスになるのか楽しみにしています。


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