今回ご紹介するのは「漁港の肉子ちゃん」(著:西加奈子)です。
-----内容-----
男にだまされた母・肉子ちゃんと一緒に、流れ着いた北の町。
肉子ちゃんは漁港の焼肉屋で働いている。
太っていて不細工で、明るい―
キクりんは、そんなお母さんが最近少し恥ずかしい。
ちゃんとした大人なんて一人もいない。
それでもみんな生きている。
港町に生きる肉子ちゃん母娘と人々の息づかいを活き活きと描き、そっと勇気をくれる傑作。
-----感想-----
「肉子ちゃんは、私の母親だ。
本当の名前は菊子だけど、太っているから、皆が肉子ちゃんと呼ぶ。」
肉子ちゃんの娘、喜久子によるこの語り出しで物語は始まります。
小説のタイトルは「漁港の肉子ちゃん」ですが物語は娘の喜久子の視点で進んでいきます。
肉子ちゃんは太っていて話し方もパワフルで、いつも語尾に「!」や「っ!」が付き静かに話すということがないです。
冒頭、肉子ちゃんと喜久子が今住んでいる北陸の小さな漁港に流れ着くまでのいきさつが語られるのですが、喜久子の語り方がなかなか面白かったです。
16歳で大阪に出て繁華街のスナックで働き、27歳で大阪を離れる時。
27歳。ボロボロだった。
次に住んだ名古屋を離れる時。
30歳。ボロボロだった。
その次に住んだ横浜を離れる時。
33歳。ボロボロだった。
その次に住んだ東京を離れる時。
35歳。ボロボロだった。
肉子ちゃんは行く先々で毎回男に騙されてボロボロになってしまいます。
この「○○歳。ボロボロだった」の語りが読んでいるとシュールでツボにはまります。
ボロボロではなかった時期がほとんどないのではというくらい、肉子ちゃんの人生はボロボロの連続です。
こうして肉子ちゃんが35歳の時ついに北陸の小さな漁港に流れ着き、肉子ちゃんと喜久子はそこで暮らすことになりました。
語り手の喜久子は小学5年生の11歳。
11歳とは思えないほど、喜久子から見た肉子ちゃんのことが大人びた文章で淡々と書かれています。
小さい頃から肉子ちゃんのボロボロの姿を見てきた結果、大人びた子になったのかなと思いました。
喜久子はとても可愛いらしく、本人もそれを分かっています。
マリアちゃんというクラスの友達と帰っている時、隣のクラスの男の子三人が後ろをついてきて、マリアちゃんは自分のことが好きでついてきていると思っていたようですが、実際には喜久子のことが好きでついてきているのが読み取れました。
ちなみに肉子ちゃんと喜久子の苗字は見須子(みすじ)です。
苗字にも名前にも子が付き、さらに母娘で同じ名前で、喜久子はクラスの子達にからかわれる前に自分で笑い話にしていました。
肉子ちゃんは「うをがし」という焼肉屋に住み込みのような形で働いています。
「うをがし」のすぐ近くに小さな家があり、そこを「うをがし」の主人、サスケ(サッサン)から借りています。
ある日喜久子は、マリアちゃんと帰っている時に後ろをつけてきた三人の男の子の一人、二宮にバスに乗っている時に遭遇します。
喜久子の中で段々二宮が気になる存在になっていきました。
マリアちゃんはなかなか厄介な子で、この子の画策でクラスの女子が分裂してしまうことがありました。
クラスには金本さんと森さんという、運動神経抜群で中心的な女子が二人います。
お昼休みになるとこの二人が別々に分かれ、それぞれクラスの女子の中からメンバーを四人選んでバスケットボールの試合をします。
マリアちゃんは森さんのチームに大抵四人目くらいで選んでもらえます。
ただし金本さんはマリアちゃんのことは決して選ばないです。
マリアちゃんもそれを知っているから森さんにばかり愛想を振り撒きます。
金本さんは、常に一番に喜久子を選びます。
喜久子も運動神経は相当良く、バスケも上手いです。
そんなある日、マリアちゃんから家に遊びに来ないかと誘われます。
他のメンバーは森さん、ヨッシー、さやかちゃん、明智さんという、森さんがいつも選ぶバスケのメンバーで、喜久子は嫌な予感がしました。
マリアちゃんの家に行きたくない喜久子は肉子ちゃんの「行かんかったらええやんっ!」に後押しされて行かないことにするのですが、結局次の日学校でマリアちゃん達5人に捕まります。
そしてマリアちゃんから「今度から昼休みに金本さんにバスケ誘われても私達は断る。キクりんもこっちのグループに入りなよ」と迫られます。
それを断ったために、これ以降マリアちゃんから陰湿な嫌がらせを受けることに。
友達関係には致命的な亀裂が入りました。
マリアちゃん達5人が昼休みのバスケをしなくなったため、金本さん達のグループとマリアちゃん達(森さん達)のグループも険悪になりました。
これは、1組の女子の、大きな転機なのだ。
こんな風にクラスに亀裂が入って分裂することは、現実にあるのだろうと思います。
大人になると実に小さい上にくだらないことに見えても、子供にとっては大事件です。
北陸が舞台だけに、方言が印象的でした。
「来たんらよ」「そうなんらて」などの言葉が登場しました。
「してたっけさ」という言葉を見て、福井弁が思い浮かびました。
漫画「ちはやふる」に福井県に住む人がいて同じ方言を使っていたので、もしかしたら福井県が舞台かもと思いました。
北陸が舞台だけに北朝鮮による拉致問題のことが出てきました。
漁港で三つ子の老人が拉致された人の帰りを待っている描写は切なかったです。
夏休みが終わり、2学期が始まると、クラスにはまたしても変化がありました。
激動の時代を過ごしているなと思います。
食欲の秋ということで肉子ちゃんが益々太っていくのと対象的に、喜久子はクラスの不穏な空気のせいか食欲が落ちていきます。
この秋は色々なことがあり、喜久子は綺麗なモデルの写真撮影をしていた写真家が好きになったりしていました。
そして肉子ちゃんは夜中に誰かと電話をしていることがよくあります。
喜久子は寝たふりをしているのでその電話のことを知っています。
また新たな男に騙されているのではと喜久子は懸念していて、電話の相手が誰なのかは気になるところでした。
やがて物語の後半、「みう」と「ダリア」という二人の女性の物語が始まります。
この物語によって、なぜ菊子と喜久子、娘の名前が母と同じになったのかが分かりました。
そして物語終盤、いつも大人びてどこか周りと距離を取っている喜久子に「うをがし」の主人、サッサンが諭す場面は印象的でした。
肉子ちゃんも喜久子も、自分の人生を精一杯生きています。
久しぶりに読んだ西加奈子さんの作品、印象に残る一冊でした。
※図書レビュー館(レビュー記事の作家ごとの一覧)を見る方はこちらをどうぞ。
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-----内容-----
男にだまされた母・肉子ちゃんと一緒に、流れ着いた北の町。
肉子ちゃんは漁港の焼肉屋で働いている。
太っていて不細工で、明るい―
キクりんは、そんなお母さんが最近少し恥ずかしい。
ちゃんとした大人なんて一人もいない。
それでもみんな生きている。
港町に生きる肉子ちゃん母娘と人々の息づかいを活き活きと描き、そっと勇気をくれる傑作。
-----感想-----
「肉子ちゃんは、私の母親だ。
本当の名前は菊子だけど、太っているから、皆が肉子ちゃんと呼ぶ。」
肉子ちゃんの娘、喜久子によるこの語り出しで物語は始まります。
小説のタイトルは「漁港の肉子ちゃん」ですが物語は娘の喜久子の視点で進んでいきます。
肉子ちゃんは太っていて話し方もパワフルで、いつも語尾に「!」や「っ!」が付き静かに話すということがないです。
冒頭、肉子ちゃんと喜久子が今住んでいる北陸の小さな漁港に流れ着くまでのいきさつが語られるのですが、喜久子の語り方がなかなか面白かったです。
16歳で大阪に出て繁華街のスナックで働き、27歳で大阪を離れる時。
27歳。ボロボロだった。
次に住んだ名古屋を離れる時。
30歳。ボロボロだった。
その次に住んだ横浜を離れる時。
33歳。ボロボロだった。
その次に住んだ東京を離れる時。
35歳。ボロボロだった。
肉子ちゃんは行く先々で毎回男に騙されてボロボロになってしまいます。
この「○○歳。ボロボロだった」の語りが読んでいるとシュールでツボにはまります。
ボロボロではなかった時期がほとんどないのではというくらい、肉子ちゃんの人生はボロボロの連続です。
こうして肉子ちゃんが35歳の時ついに北陸の小さな漁港に流れ着き、肉子ちゃんと喜久子はそこで暮らすことになりました。
語り手の喜久子は小学5年生の11歳。
11歳とは思えないほど、喜久子から見た肉子ちゃんのことが大人びた文章で淡々と書かれています。
小さい頃から肉子ちゃんのボロボロの姿を見てきた結果、大人びた子になったのかなと思いました。
喜久子はとても可愛いらしく、本人もそれを分かっています。
マリアちゃんというクラスの友達と帰っている時、隣のクラスの男の子三人が後ろをついてきて、マリアちゃんは自分のことが好きでついてきていると思っていたようですが、実際には喜久子のことが好きでついてきているのが読み取れました。
ちなみに肉子ちゃんと喜久子の苗字は見須子(みすじ)です。
苗字にも名前にも子が付き、さらに母娘で同じ名前で、喜久子はクラスの子達にからかわれる前に自分で笑い話にしていました。
肉子ちゃんは「うをがし」という焼肉屋に住み込みのような形で働いています。
「うをがし」のすぐ近くに小さな家があり、そこを「うをがし」の主人、サスケ(サッサン)から借りています。
ある日喜久子は、マリアちゃんと帰っている時に後ろをつけてきた三人の男の子の一人、二宮にバスに乗っている時に遭遇します。
喜久子の中で段々二宮が気になる存在になっていきました。
マリアちゃんはなかなか厄介な子で、この子の画策でクラスの女子が分裂してしまうことがありました。
クラスには金本さんと森さんという、運動神経抜群で中心的な女子が二人います。
お昼休みになるとこの二人が別々に分かれ、それぞれクラスの女子の中からメンバーを四人選んでバスケットボールの試合をします。
マリアちゃんは森さんのチームに大抵四人目くらいで選んでもらえます。
ただし金本さんはマリアちゃんのことは決して選ばないです。
マリアちゃんもそれを知っているから森さんにばかり愛想を振り撒きます。
金本さんは、常に一番に喜久子を選びます。
喜久子も運動神経は相当良く、バスケも上手いです。
そんなある日、マリアちゃんから家に遊びに来ないかと誘われます。
他のメンバーは森さん、ヨッシー、さやかちゃん、明智さんという、森さんがいつも選ぶバスケのメンバーで、喜久子は嫌な予感がしました。
マリアちゃんの家に行きたくない喜久子は肉子ちゃんの「行かんかったらええやんっ!」に後押しされて行かないことにするのですが、結局次の日学校でマリアちゃん達5人に捕まります。
そしてマリアちゃんから「今度から昼休みに金本さんにバスケ誘われても私達は断る。キクりんもこっちのグループに入りなよ」と迫られます。
それを断ったために、これ以降マリアちゃんから陰湿な嫌がらせを受けることに。
友達関係には致命的な亀裂が入りました。
マリアちゃん達5人が昼休みのバスケをしなくなったため、金本さん達のグループとマリアちゃん達(森さん達)のグループも険悪になりました。
これは、1組の女子の、大きな転機なのだ。
こんな風にクラスに亀裂が入って分裂することは、現実にあるのだろうと思います。
大人になると実に小さい上にくだらないことに見えても、子供にとっては大事件です。
北陸が舞台だけに、方言が印象的でした。
「来たんらよ」「そうなんらて」などの言葉が登場しました。
「してたっけさ」という言葉を見て、福井弁が思い浮かびました。
漫画「ちはやふる」に福井県に住む人がいて同じ方言を使っていたので、もしかしたら福井県が舞台かもと思いました。
北陸が舞台だけに北朝鮮による拉致問題のことが出てきました。
漁港で三つ子の老人が拉致された人の帰りを待っている描写は切なかったです。
夏休みが終わり、2学期が始まると、クラスにはまたしても変化がありました。
激動の時代を過ごしているなと思います。
食欲の秋ということで肉子ちゃんが益々太っていくのと対象的に、喜久子はクラスの不穏な空気のせいか食欲が落ちていきます。
この秋は色々なことがあり、喜久子は綺麗なモデルの写真撮影をしていた写真家が好きになったりしていました。
そして肉子ちゃんは夜中に誰かと電話をしていることがよくあります。
喜久子は寝たふりをしているのでその電話のことを知っています。
また新たな男に騙されているのではと喜久子は懸念していて、電話の相手が誰なのかは気になるところでした。
やがて物語の後半、「みう」と「ダリア」という二人の女性の物語が始まります。
この物語によって、なぜ菊子と喜久子、娘の名前が母と同じになったのかが分かりました。
そして物語終盤、いつも大人びてどこか周りと距離を取っている喜久子に「うをがし」の主人、サッサンが諭す場面は印象的でした。
肉子ちゃんも喜久子も、自分の人生を精一杯生きています。
久しぶりに読んだ西加奈子さんの作品、印象に残る一冊でした。
※図書レビュー館(レビュー記事の作家ごとの一覧)を見る方はこちらをどうぞ。
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この作品は読んだことがないですけど、
はまぜさんのレビューを読んでいると、
ああ、そう言えば女子って結構面倒くさかったと思いだしました。
多かれ少なかれ、色々あって強くなるんでしょうけど。
人間ドラマですよね・・・
viviandpianoさんが帰還されると嬉しいです
女子って面倒くさいのですか^^;
たしかにこの作品を読むと人間ドラマだなと思います。
お忙しいかと思いますが、マイペースにブログやっていってください。
楽しみにしております