読書日和

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「予言村の転校生」堀川アサコ

2014-07-24 23:05:29 | 小説
今回ご紹介するのは「予言村の転校生」(著:堀川アサコ)です。

-----内容-----
父・育雄が故郷の村長に当選し、中学二年生の奈央はこよみ村に移り住む。
村には秘密の書「予言暦」があるという。
元アイドルの溝江アンナとその息子・麒麟、<村八分>松浦、父の政敵・十文字など個性的な村民と共に奈央は様々な不思議な体験をする。
村の四季を背景に、ほんのり怖いけれど癒される青春ファンタジー。

-----感想-----
「幻想郵便局」「幻想映画館」「幻想日記店」の幻想シリーズでお馴染みの堀川アサコさん。
先日書店で本を眺めていたらこの作品が平積みされているのが目に留まり、内容紹介を見たら面白そうだったので読んでみることにしました。

主人公は中学二年生の湯木奈央。
冒頭、父の育雄が突如としてこよみ村の村長選挙に立候補すると言い出し、湯木家は騒ぎになっていました。
奈央たちはこよみ村の隣にある竜胆(りんどう)市という市に住んでいて、父の育雄は竜胆市の市役所市民課に務めています。
しかし選挙に立候補するとなると市役所も辞めなければならず、家庭生活が崩壊しかねないため母の多喜子は猛反対しています。

湯木家のルーツはこよみ村にあり、育雄の父(奈央の祖父)の湯木勘助はこよみ村の前村長、さらにはその父も、またその父も、村長あるいは有力者としてこよみ村に君臨してきたとのことです。
前村長の湯木勘助が急死してしまったのですが、自身の死期を悟っていた勘助は遺言状を書いていて、自分が死んだら育雄が後を継ぐようにと書かれていました。
育雄の主張には妙なところがあって、自身が村長になるのは”もう決まっていること”と言っています。
選挙なので対立候補に勝たなくてはならないのですが、もう決まっているとは一体…

そこに出てくるのが、こよみ村の伝説である「予言暦」。
昔からこよみ村では日照りも干ばつも、事件が起こることも事故が起こることも、全部が予言されていて、みんなその予言のとおりに生きているという伝説があります。
村の行政までがその予言によって運営されていて、それは昔から「予言暦」と云い習わされています。
どうやらその予言暦に育雄が次期村長になることが記されているらしく、それで育雄は”もう決まっていること”と言っているようなのです。
実際に育雄は、十文字丈太郎というバリバリの政治手腕を持つ強敵に勝ち、見事村長に当選してしまいました。
ちなみに「予言暦」については、大多数の者はそれがどんなものなのか、またどこにあるのかさえ知らず、それを見ることが出来るのは村の中でもほんのわずかな限られた人しかいないようです。

育雄が村長に当選したため、育雄と奈央はこよみ村に移り住みました。
母の多喜子は怒りが収まらなかったため最初は意地を張って竜胆市にある家に一人で残っていました。
奈央も当初はこよみ村に住む気はなかったのですが、育雄の政敵の十文字丈太郎とある賭けをしていて、その結果育雄についてこよみ村に行くことになりました。

こよみ村には古い因習があって、その一つに<村八分>なる制度があります。
この村での村八分は村中からのけ者にされる村八分とは違って、「頼れる人」「生きたお地蔵さん」のような意味を持っていて、村の困りごとを助ける人間として頼りにされています。
その村八分を務めるのが松浦という青年で、育雄の選挙戦の選挙参謀も務めました。
松浦も「湯木さんは当選します。これは、決まっていることですから」と言っていて、この人も予言暦に育雄が次期村長と記されていることを知っていました。

古い因習と聞くと、私は三浦しをんさんの「白いへび眠る島」が思い浮かびます。
こよみ村はすごく閉鎖的なところがあって、よそ者が「予言暦」に代表されるような、村の核心に触れるものを嗅ぎ回るようなことは許しません。
改革派と呼ばれる十文字丈太郎は
「こよみ村には、むかしから、無知蒙昧(もうまい)なやからを煽動する、良からぬ因習がある。わたしは、それを取り払うつもりでいるのだ」
と言っていました。
十文字丈太郎は予言暦で何もかも決めてしまう現状は嫌なようです。

この作品は堀川アサコさんの作品らしく、ミステリー、ホラー、ファンタジーが融合しています。
今作ではそこに政治的な要素も融合していました。
ファンタジーはあからさまな空想世界ではなく、背筋がひやりとするような、ホラーが入り混じったちょっと怖い雰囲気です。
森見登美彦さんの「宵山万華鏡」の中の「宵山姉妹」という話のように、気が付いたらあの世に連れて行かれそうになっていたのと似ています。
奈央はこよみ村に来てかなり怖い体験をするのですが、めげずにこよみ村に住む溝江麒麟(きりん)、竜胆市での友達・静花とともにこよみ村の謎に挑んでいきます。
予言暦についても、最後はついにその在り処が分かるのですが、そこに記されていた恐るべき予言を目の当たりにし、物語は一気に怒涛のクライマックスへと向かいます。

解説に「堀川さんの文章は読みやすい」とあったのですが、これは私もそう思いました。
サクサク読める文章で、読んでいて途中からかなりのハイスピードで読んでいくことが出来ました。
しかもそれでいて内容は薄くなく、ミステリー、ホラー、ファンタジーが融合した面白い作品世界を見せてくれます。
すごく良い作家さんだと思うので、この先にも期待しています

※「予言村の同窓会」の感想記事をご覧になる方はこちらをどうぞ。
※「三人の大叔母と幽霊屋敷」の感想記事をご覧になる方はこちらをどうぞ。


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