読書日和

お気に入りの小説やマンガをご紹介。
好きな小説は青春もの。
日々のできごとやフォトギャラリーなどもお届けします。

「幻想映画館」堀川アサコ

2013-05-24 22:20:16 | 小説


今回ご紹介するのは「幻想映画館」(著:堀川アサコ)です。

-----内容-----
趣味はシリトリ。
ちょっぴり学校に行きたくない高校生・スミレは、「不思議なもの」がよく見える。
ある日、「不思議なもの」と同時に父の不倫現場を目撃。
後を追い、商店街の映画館に迷い込む。
そこで生まれて初めての恋をしたはいいが、失踪事件に巻き込まれ―
生死の狭間に繰り広げられる癒し小説。
(『幻想電氣館』を改題)

-----感想-----
この作品は「幻想郵便局」と少しリンクしています。
「幻想郵便局」の舞台となった登天郵便局やそこの名物人物などが、都市伝説や夢の中で見た話として出てきます。
作品としては独立しているのでこちらから読んでも問題ないですが、「幻想郵便局」を読んでおくとより面白さが増すと思います。

主人公は楠本スミレという16歳の高校一年生。
父は楠本家の婿養子にして、クスモト・スカイホテル社長、楠本愛郎(よしお)。
もともとは取引先の銀行から楠本観光グループに出向してきた人でしたが、地道な仕事ぶりがグループ会長であるスミレの大伯母の目に留まり、政略結婚の運びとなったらしいです。
ちなみにこの大伯母というのは「幻想郵便局」に出てきたあのお婆様です。
「幻想郵便局」では「悪名高い楠本観光グループの皇太后」などと形容されていました(笑)
勝ち気で傲慢で切れやすい性格の一方、温かみもある人だったのが印象に残っています。

今作「幻想映画館」ではある日スミレが父の浮気現場に遭遇。
怒ったスミレは父とその愛人の二人を追いかけていくのですが、そこで妙な映画館に迷い込んでしまいます。
映画館の名前は「ゲルマ電氣館」。
支配人はサルバドール・ダリのようなW形の髭が顔の輪郭からはみ出した、何だか怪しい感じの人。
そしてこの映画館には「幻想郵便局」に出てきた「元怨霊」の島岡真理子さんがいます。
「幻想郵便局」の最後のほうで「乙姫市にある映画館に行く」と言っていましたが、この映画館がそれのようです。
登場してすぐの描写で随分と明るくなったなと思いましたが、怨霊っぽい話し方がそのままだったのはウケました(笑)

それにしてもスミレの大伯母様、今作では出番も多くかなり活躍していました。
年齢は85歳とありましたが、物凄く元気がよく、楠本観光グループを束ねる会長ぶりを発揮していました。
どんな情報網があるのかスミレの不登校にも気付き、スミレの家に怒鳴り込んできたりもしました
どうやらスミレの父の浮気にも気付いているようで、驚異的な情報網だと思います。
ただスミレが不登校のまま「ゲルマ電氣館」で働きたいと言ったことに理解を示してくれたりもして、なかなか読めないところのある大伯母様です。
「ゲルマ電氣館」とも若い頃に縁があったようですし。

スミレの「ゲルマ電氣館」でのアルバイトは、基本あまりお客さんが来ないので暇なのですが、時折妙なお客さんが訪れてきます。
この辺りは「幻想郵便局」の時と同じく不思議な物語でした。
幽霊が見えるスミレにも不思議なお客さん達の姿を見ることが出来ます。
そして新月の夜にだけ行われる謎のレイトショー
普段は閉鎖されている二号館を使って、「走馬灯」というわずか20分の映画が上映されるのです。
しかもこの「走馬灯」、ゲルマ電氣館の映写技師でありスミレが恋心を抱く「有働さん」でさえレイトショーへの立ち入りを禁じられています。
恋心を抱く有働さんが「レイトショーの秘密を知りたい」と言っていたことから、支配人にも内緒で新月の夜、「走馬灯」上映の場に忍び込むスミレ。
そこで見た光景は、映画のタイトルからも想像がつくように、そういうことです。
「ゲルマ電氣館」の表には出ないもう一つの姿ですね。

そしてそこから徐々に核心へと近付いていく物語。
孤独死した老婆の怨霊、あの世からこの世に帰ってきた謎の男、夫の浮気に気付いたスミレの母・広美の激怒、色々な要素がうなるように動き出していきます。
こういった要素が終盤で見事につながるのが凄いなと思います。
この作風はどこか伊坂幸太郎さんに通じるものがあり、そこにホラー要素やファンタジー要素が加わったのが本作「幻想映画館」の特徴です。
ミステリーであり、ホラーであり、ファンタジーでもある、なかなか面白い一冊だと思います。

「幻想郵便局」から二作に渡って登場した真理子さんの最期はちょっと目頭が熱くなりました
「幻想郵便局」では「怨霊」、今作では「幽霊」として登場した真理子さんですが、最後はやはり旅立つのか…と思いました。
とはいえ、とても素敵な終わり方だったと思います。
どうやらこの後は「幻想日記店」というのが秋に文庫化されるようなので、そちらもぜひ読んでみたいと思います


※図書レビュー館を見る方はこちらをどうぞ。

※図書ランキングはこちらをどうぞ。

コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 拉致問題 | トップ | 原爆投下は神の懲罰? »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (ビオラ)
2013-05-26 18:22:28
「この映画館では
あなたが忘れた人生を
上映しています。」
・・・て、すごく興味そそられる一文ですね。

ミステリー、ホラー、ファンタジーの要素があり、最後には目頭が熱くなるんですね^^

「幻想日記店」と言うのが秋に文庫化されるということで、楽しみですね^^
でも世の中に「日記店」なんてないじゃないですか。日記の専門店?なんて。
だからこれもやはりファンタジーやら何やらと不思議世界が楽しめるストーリーなんですかね^^
返信する
ビオラさんへ (はまかぜ)
2013-05-26 20:00:10
そうです、すごく興味をそそられる一文でした
そしてたしかに世の中に「日記店」なんてないですよね。
たぶんファンタジー要素ありの展開になるのだと思います。
「幻想郵便局」とも少しつながっているらしいのでどんな展開になるのか今から楽しみです
返信する

コメントを投稿