伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

地方自治講義

2017-03-18 21:18:26 | 人文・社会科学系
 元大田区役所勤務、現在福島大学教授(自治体政策)の著者が行った「自治体の考え方」と題する連続講義をもとに地方自治の歴史や考え方などを解説した本。
 日本の国土政策が「国土の均衡ある発展」などと称して一貫して(少なくとも主観的には)拡散政策だったが、地域に根ざした産業を育成するのではなく大規模製造業や情報通信産業のような大都市を中心とする産業のブランチを全国にばらまこうとしたもので、失敗したところが少なくなく、成功した場合も中央との結びつきが強化されることで一極集中構造が促進する(262~266ページ)というのは、なるほどともそうかねぇとも…その前段で示されている地域別の1人あたり雇用者報酬(労働者賃金)が、1997年頃をピークとして、減少に転じ、東京都は減少が比較的緩やかだが地方の減少が大きく東京と地方の格差が拡大しているというグラフ(251ページ)はショッキングです。経営側にこんなことをやらせていていいのかと、腹立たしく思います。
 今は地方自治体が補助金を得るために中央官庁のご機嫌伺いをしているけれども、「実は国の役所はお金を出したいのです。なぜならお金をばらまくことによって国の役所が成り立っているからです。」「そもそも国の役所は自分自身で何かをするということは少ない。自治体を含めて、結局、誰かにやってもらわないと自分たちの政策が実現できないのです。」(268ページ)「陳情に行くと国の役人はふむふむと偉そうに聞いている。」「だが、それは陳情に行くからです。地域で成功事例があると、噂を聞きつけて国は『視察』にやってきます。国が来たら教えてあげればよい。そうすると、次に国は何かお手伝いできないでしょうか、と言ってくる。そうしたら、しかたないね、と言って補助金をもらう。成功事例と呼ばれている地域ではそのような構造になっています。その前提は、国に頼らず、自分たちが市民や地域の企業と考えに考え抜いて、地域づくりに励むことです。最初から国に頭を下げるとロクなことはない。」(269ページ)というのは、銀行と同じですね。そのとおりだと思いますが、でも実行はなかなかたいへんでしょうね。
 2009年に安土町が近江八幡市と合併するという話が急浮上し、反対派住民が署名を集めて合併の可否を問う住民投票条例制定を議会に直接請求したが議会は否決、反対派住民が署名を集めて町長の解職請求、リコール成立、選挙で合併反対派町長が当選、新町長が住民投票条例を提案したが議会が否決、反対派住民が署名を集めて議会の解散請求、住民投票で議会解散、町議会選挙で反対派議員が過半数をとるという署名集め3回、住民投票2回(町長解職、町議会解散)、選挙2回の7つの手続ですべて反対派住民が勝利したにもかかわらず、その間に町議会がした合併議決の効果で、合併反対派の町長と町議会の下で合併が実行されざるを得なかった(178~179ページ)というエピソードは、読んでいて涙が出ます。一体、日本の地方自治とは何なのか、と呆れてしまいます。
 地方自治の考え方の基本として、住民に一番近い自治体(地方政府)がまず住民のための業務を行い、市町村ではできないか広域で行った方が望ましい業務は都道府県が補完的に行い、都道府県でできない業務を国が補完して行う補完性原理を説明し、誰か有能な人がいてその人を民主的に選出すれば後はその選出した人の指図どおりに動いた方が効率的ではないか、国家全体が民主化されていれば地方自治など必要がないという考え方に対して「歴史をひもとくと、これまで世界は何度も痛い目にあってきた。ドイツでもイタリアでもロシアでも、ある意味では日本でも、広い意味で民主化の動きが出て来た直後に、その流れに危機感や失望感を抱いた人たちによって導かれた独裁政権や戦時体制になだれ込むことが起きた。計り知れない犠牲を払ったのです。」と論じています(64~66ページ)。近年の情勢を思うにつけ、噛みしめておきたいところです。


今井照 ちくま新書 2017年2月10日発行
コメント
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