伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

あざむかれる知性 本や論文はどこまで正しいか

2016-05-14 23:13:52 | 人文・社会科学系
 世の中に研究論文は星の数ほどあるが、その研究結果がどれほど信頼できるかの評価をするには、実験計画で各種の要因を統制し統計的に多くの(別の)要因の影響をキャンセルして統制する必要があり、そういった配慮をしたランダム化比較試験をまとめたメタ分析をした研究論文(システマティック・レビュー)を読むのが科学の最先端の結論を手に入れる早道である(そうしない限りつまみ食い的評論に左右されて結論を見誤る)という立場から、ダイエット、健康、仕事、幸福の4つのテーマについて、著者がシステマティック・レビューを読んで得た結論を元に巷間流布されている俗説を叩き切るという趣向の読み物。
 精神病の判定について、ローゼンハンが行った実験の紹介(54~55ページ)が、私には大変興味深く思えました。8名の参加者が12の精神病院を受診し「空っぽ」「うつろ」「ドスン」という声が聞こえると訴え、それ以外はふつうに振る舞ったところ、1人を除いて精神分裂病(統合失調症)と診断され、全員が入院を許可された、入院後は完全に普通に振る舞ったが誰一人医者、看護師、スタッフからは仮病と見抜かれなかった、他方(医師ではない)入院患者118名中35名はニセ患者と見抜いたというものです。しかも、自分の病院ではそのようなことは起こりえないと苦情を言ってきた病院に対してローゼンハンがこれから3か月以内にニセ患者を1人以上送り込むから判定して見ろと言って実際にはニセ患者を送らなかったところ、その病院のその後3か月の入院患者193名中1人以上のスタッフが自信を持ってニセ患者と判定した者が41名、精神科医と1名以上のスタッフが一致してニセ患者と判定した者が19名出たそうです。精神科医による精神病の判定がいかに誤診率が高いか、いい加減なものかということが、衝撃的なまでによくわかります。
 他にも、抗酸化サプリメント(ビタミン)の摂取は全体として死亡率に何ら影響を与えていないか、むしろ死亡率を押し上げている(110~111ページ)、著者は長らくビタミンCをサプリメントとして摂っていたがこの研究結果を知り衝撃を受け摂取をやめた(111~112ページ)とか、採用面接はまったく時間の無駄であり面接者は無能であるにもかかわらず無能であることを認めたがらないからむしろ面接を行わず人を見ないで知能検査・学力検査と性格検査で選抜した方がいい(144~160ページ)など、興味深いエピソードが多数あります。
 それぞれの項目毎の記述が独立して、話の流れがあまりよくないところがあり、おそらくはトリビアとして書きためたものを並べて1冊にしたのだろうと思います。本の全体としてどうかということよりは、気に入ったエピソードを見つければいいという本だろうと思います。


村上宣寛 ちくま新書 2015年12月10日発行
コメント
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