伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

県立コガネムシ高校野球部

2011-02-27 21:51:03 | 小説
 プロ野球球団の買収を拒否された恨みから野球界のドンの鼻を明かすために、長野県の名門進学校の弱小野球部を買収し資金力と冷徹なマネジメントで甲子園に出場させると宣言する実業家小金澤結子にかき回されながら、練習に明け暮れ勝利の味を知り結束していく高校生たちの姿を描いた青春小説。
 私は「もしドラ」を読んでいないので(あれだけ流行ると読む気になれない天の邪鬼)断言しませんけど、野球をひたすら経営の論理で押し進める姿や、表紙イラストにミニスカ女を大きく描くのは、もしドラのパクリかパロディのつもりなんでしょうね。
 対戦相手を徹底的に分析し、資金力にものをいわせて選手全員にキューバナショナルチームの選手を個人コーチに付け、マネージャーの美貌も資源とし、相手チームの選手を陥れと、野球小説の常道を踏み外した意外性が、読み味です。
 野球センスゼロの下手の横好きでいつもベンチのキャプテン昇平の語りで進められ、マネージャーあずみへの思いが度々語られますが、それでも昇平がしごかれて名選手になったりしないあたりが、野球青春小説じゃなくて経営的な視点なんでしょうね。


永田俊也 文藝春秋 2010年7月10日発行
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逃げる

2011-02-27 20:28:31 | 小説
 母が父に階段から突き飛ばされて死亡し祖母の手で育てられた過去を持つ主婦柴田澪が、肺がんで余命幾ばくもなくなった父に発見され、父の存在を夫に知られまいとして父を連れて失踪・放浪するうちに、自らの過去の真実を知り折り合いを付けていく家族関係ドラマ小説。
 澪が幼い娘雪那に対して愛情を持ちつつも虐待しそうな自分の怖さを、幼児期の自分に対する虐待の埋もれた記憶と結びつけ、昨今ありがちな虐待の連鎖のテーマに過去をめぐる謎解きを絡めて軽いミステリー仕立てになっています。
 しかし、単行本タイトルにもなっている「逃げる」というテーマ、母を手にかけた父の存在を夫に隠したいとしても、その夫と幼い娘を置き去りに長期間失踪し、しかも夫が痕跡を追ってたどり着きかけると早々に新たな町へと逃走を続ける澪の行動は、どうにも理解できません。夫の立場からすれば、妻の身を案じて必死で探してたどり着いたらDV男と疑われ、しかもその妻はもっぱら自分から逃げているというシチュエーションはあんまりでしょう。
 澪と幼い娘との絆の復活が感動的なだけに、この設定の納得できなさが、心残りに思えます。


永井するみ 文藝春秋 2010年3月25日発行
「小説宝石」2008年11月号~2009年8月号「愛し子」
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