さうぽんの拳闘見物日記

ボクシング生観戦、テレビ観戦、ビデオ鑑賞
その他つれづれなる(そんなたいそうなもんかえ)
拳闘見聞の日々。

様々な不備、そのしわ寄せは全て選手へ 山中慎介敗戦、無念の引退

2018-03-02 03:03:44 | 関東ボクシング



昨夜は会場にて観戦しました。

試合自体については、もう、見たままです。
ルイス・ネリーの背中が、山中慎介の上体より一回り、二回り大きく見え、
試合開始早々、山中が右リードから左と繋げているさまを見ていながら、
これでは勝負にならないだろう、という、暗い予見が心中に広がりました。

時間にして一分半か二分くらいか、ネリーが手を出し始めると、
いとも簡単に山中がダメージを受け、立て続けに倒される。
想像していたよりもさらに悪い、悪夢のような時間が過ぎ、試合は終わりました。



この再戦について、ドーピング問題を容認するようなものだから組むべきでない、
という意見がありました。帝拳も組むべきでない、山中も出るべきではない、と。
それはひとつの筋論である、と私も思いました。

しかし、ボクサーが、敗れた相手に雪辱したいと思うのは当然だし、
他のスポーツではあり得ない、ドーピング陽性に至った事情を斟酌する裁定が出る、
異様な現実を飲み込んでまで、再戦出来るものなら、それを闘うしかない。
山中慎介の心情はおそらくそういうものだったろうし、その一点において、
私はこの試合を、ボクシングの試合として、見ることにしました。



しかし試合前日、その前提が大きく崩れました。
前日のローマン、松本戦も観戦するがため、東京に着いた午後のことでした。

ことの推移は、ご存知の通りですので省きますが、現実の日時と数字を記せば、
「試合当日、試合開始の約8時間前に、128ポンド以下」なら、報酬減額なしで試合出場、という
これまた、異様な取り決めのもと、ネリーがリングに上がることとなったのです。

私はこの事実を知ったとき、ここで初めて「試合自体を中止にすべき」と思いました。
2.3キロオーバー、Sバンタムでもオーバーです。
キロかいな、ポンドやなしに?と驚きましたし(そりゃ、ポンドでもダメですが)、
ヘビー級の話じゃなく、バンタムでそんなハンデがついて、試合になるわけがないと。

しかも、上記のとおりの、きわめて低いハードルでの試合挙行。
本田会長が、誰とどんな経緯で合意したのかわかりませんが、
約10年前、ロレンソ・パーラが坂田健史との第三戦で計量失格した際は、
金平圭一郎会長が「試合当日、試合開始の約4時間前に、118ポンド以下」という
厳しい条件を王者に突きつけ、実行させた例があります。

今回、もしも夕方に126ポンドまで、という縛りをかけていたなら、
昨夜の試合があのように一方的になったかどうか。
結果はどうであれ変わらなかった、という意見もありましょうが、
少なくとも、見終えて納得感が違った、とは言えるでしょう。

今回、本田明彦会長の、山中のマネージャーとしての仕事には、
ファンの目には、非常に物足りない部分があります。
試合後のコメントも納得しがたいですが、何よりも、選手のために
出来ることは全てやる、という気概が、そうした行動を取った形跡が見えません。
高額報酬を支払うことだけが、選手への貢献ではないでしょう、と思います。

さらに、この当日計量が報道陣に公開されていない、というのも、異常です。
一度、関係者諸氏に聞きたい。「公開しない理由」は何なのか。
出来ればわかりやすく、人間の言葉で教えてくれ、と。



以前、もう10年、もっと前か、このような事例で日本の選手が負けた時に、
報酬減額、出場停止などを組み合わせた、罰則規定のようなものを作り、
統括団体などに提案してみてはどうか、と考えたことがありました。

しかし、その後、日本のみならず、世界でも起こるこうした事態については、
体重超過の度合いに応じて、興行的側面を含めて考慮され、
妥当と言っていいかどうかは別にして、その都度、合意形成の元、
試合が行われる事例を、数多く見てきました。

そして、今回の事例は、その「度合い」を大幅に逸脱しています。
おそらくですが、この試合がベガスで予定されていたら、ネバダのコミッションが、
絶対に試合を許可しないでしょう。1~2ポンドの話じゃないんですから。

つまり、あまりに酷い場合、罰則規定、ルール以前の問題として、そんな試合、やれるわけがない。
だから、ルールを定める必要などない。それが、世界のボクシング界の趨勢なのかもしれません。


そして、それを敢えて挙行せねばならない、日本のボクシング界には、
そもそもの構造的欠陥がある、と言わざるを得ないでしょう。
興行者は大きな試合ともなれば、TV局の枠内に固定される前提でしか動けず、
こうした問題を管理するコミッションも、興行事情に追随するのみ。
歯止めも決まりも何もない。ご都合と、体裁を繕う作業の繰り返しです。

或いは、今回の場合、海外なら、岩佐亮佑の防衛戦をメインに昇格させたかもしれません。
しかしこれまたご覧のとおり、13位の...という以上に中身のない格下挑戦者とのカードでは、
そういう仮定さえ成り立ちはしません。
これが仮に、和氣慎吾との対戦が組まれていれば、最悪メインが中止でも...と思えたかもしれませんが
(それも無理がある仮定だ、と言われればそのとおりかもですが)。


それにしても、前日計量制が定着して以来、もう何度も、こんな事態に直面していながら、
国内のボクシング関係者は、いざとなったら右往左往するのみです。
そして、そのしわ寄せは、結局、全部選手が被っている。

昨日今日始まった話ではないにも関わらず、そのための用意が、万が一の備えが
何一つなされておらず、そのために今回、山中慎介という名王者が、
こんな納得感のない試合を最後に引退する事実は、関係者諸氏が心底恥ずべきことであり、
断じて繰り返してはならないことです。




...毎度のとおりまとまりのない文章になってしまいました。
今回はひとまず、このくらいにしておきます。
他にも言いたいこと、書いておかねばならぬことはいくらでもありそうな気がしますが、
今はそこまで手が及びません。ご容赦ください。

しかし、本当に、この試合は中止にすべきでしたね。
そりゃ、遠路はるばるやってきて、メインが飛べば残念ではありますが、
こういう場合だけは、仕方ないと思います。
実際の試合(というか、試合じゃないですが、あんなの)がああだったから言うのではなく、本心から。




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28 コメント

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Unknown (R35ファン)
2018-03-02 04:59:48
確かに山中さんの足捌きに違和感、左を打った時の右足の踏ん張りの不安定さは感じました。ただこれらがあのクズの体格差によるものとしか思えない、最も見たくない光景でした。解説の長谷川さんや村田さんは怒りを隠そうとしてなかったし、岩佐君が述べた言葉が全てです。何であれではしゃいでいるのか。計量オーバーを栄養士のせいにするとか、プロとして有り得ない言い訳して、平気でのさばるのが許せないです。
昨日でボクシングが嫌いになりそうです。日本最大のプロモーターが体重、薬、やっちゃいけないことを平気でやらせる、自分の選手を、それも歴代屈指の王者を守れないなど嫌いになる理由は十分です。ゴールデンタイムでこんなアンフェアな光景を許した事で日テレさんに切られる可能性もあるでしょう。
Unknown (れいれなーど)
2018-03-02 06:20:23
ショックで結局この時間まで起きてしまいました。
かつて体重超過剥奪され、松本好二と試合したフレディノーウッドの試合と重なりました。まるで大人と子供のようなパンチ力の違いに驚かされました。いまおもえば当時モンスターにおもえたノーウッドもネリと同じ確信犯だったんだなと。
来週月曜放送のプロフェッショナルみてこの怒りと悲しみを宥めます。
山中慎介は人としてボクサーとして最高でした。日テレボクシング中継はこれでおそらく終止符でしょうね。
Unknown (月庵)
2018-03-02 07:28:47
再戦には元々反対でした。ドーピング問題関係なしに、相手の乱打に無抵抗に等しく、ダメージを受けて右往左往している中大和心の英断で救われた。それは紛う事なき事実です。本来あの試合こそがボクサー山中慎介の終焉になるべきだったし、試合が終わった直後はそう信じて疑っていませんでした。その旨を示唆するコメントも以前書かせていただいた。

その後のタオル問題から始まるあり得ない事しかないような話の流れ。その中心に存在したのはどこの誰であったのか? 初めから王座返還は認めない、即時再戦以外は引退だと言い続けて山中を縛り、事実上再戦を強要したのはどこの誰であったのか? 俺達に諮る事なくタオルを投げるな、もしもの時は俺が責任を取ると言っておいて、今回の『惨状』で地蔵のように動かず山中を救おうとしなかったのはどこの誰であったのか?

これを不備と片付けていいのか、あるいはネリーとその陣営の人間性の問題と片付けていいのか。そんな問題ではないと思いますよ。本田明彦がマウリシオ・スライマンと談合してドーピング問題を実質的に骨抜きにし、スライマンが事実上全面的にネリーを擁護した。その二つの前提条件あればこその行為でしょう。それに加えて世界的には意図的体重超過を商品価値を毀損せず安全に勝つ為の『戦術』と考え、それがデメリットにならない潮流もある。世界的プロモーターと自称する人間が、その潮流にネリーが乗っかる可能性を考えなかった? それこそあり得ないでしょう。

結局の所、本田明彦という男にとり山中慎介というボクサーは単なるカネの取れる商品であって人間ではなかった。その『商品』が経年劣化によって商品としての役目を果たせなくなった時、彼はそれをスクラップになっても構わぬと目先の利益を得る為に使い捨てにする事にした。それが本質でしょう……その『スクラップ』が六年もの長い間会社の大黒柱として貢献した会社の大恩人であり、なおかつ幼い二人の子供を抱えた一人の家庭人である事など、本田の脳裏にはひとかけらも存在しなかったのでしょうね! ルイス・ネリーなど、その虎と比べればただの狐にすぎませんよ。にも関わらずネリーへの非難は集まっても本田明彦や浜田剛史、マウリシオ・スライマンといった真の犯罪者、人殺しどもへの非難が集まらないのは心底失望しています。山中ほどの名王者が、何故そのキャリアの最後でヤクザどもの慰み者にされねばならなかったのか。それをファンもよくよく考えるべきだ。
Unknown (海藻類)
2018-03-02 09:16:44
かつてカスダマトはボブアラムのことを「西半球で最も強欲な男」と罵ったらしいですが「残りの東半球で最も強欲な男」が誰なのかはっきりしましたね。
正当なあるべき物事を全てねじ曲げ、リマッチありきで話を進めた本田会長が全ての諸悪の根源だと思います。
WBCがネリに処分を下さなかったのは単なるメキシカン贔屓ではなく、本田会長が処分を求めなかっただけだと個人的には確信しています。
多くの外国人選手が話すように日本の冬は減量が大変であり、体調を崩してまでリミットを合わせずに、ベルトを失うことになったとしともコンディションを合わせることを優先するというネリの世界的によくある選択は少なくとも帝拳側は想定して契約に盛り込んでしかるべきだったと思います。
前回の試合はドーピングありとはいえタオルどうこうでなく完敗、二人の相性は最悪だと感じていました。
そして今回ドーピング抜き(本当かは置いといて)とはいえ前日1kgオーバーで試合が行われました。
ネリのジャブは山中選手の顔面を簡単に捉え、山中選手のパンチはネリにほぼ完璧に見抜かれており、後出しですが昨日のリングの上では万に一つも勝ち目は無かったと思います。
この状況で試合を行った帝拳は勝ち目があると思っていたのでしょうかね。まぁ端から山中選手から最後の一滴まで絞り尽くすつもりで組んだ試合だったら今更“こんなこと”で中止することなんてあり得ないでしょうけど。
かつて亀田三兄弟は日本ボクシング界の悪い部分を凝縮したようなことを行い顰蹙を買いましたが今回の一連の流れはそれに勝るとも劣らないものだったと思います。
批判&ネガティブな意見全快で申し訳ないです。
Unknown (海の猫)
2018-03-02 09:23:46
自分はずっと、タオル議論から再戦に至るまで、ネリよりもWBCよりも本田会長に怒りを感じていました。

ただ今になって思うのは、結局この試合を成立させてしまったのはファンではないかと。
会場でにしろテレビにしろ多くの人間がこの試合を見てしまった。本田会長はプロモーターとして、客が見たいものを見せただけ。仮にチケットが全く売れなければ、この試合は組まれなかったでしょう。
この再戦が決まった時、何の疑問も感じずに「ネリを倒せ」という人の多さに驚きました。そして、一部のファンはもやもやを抱えながらも、決まったからには頑張れと。自分もそう思っていましたが、甘かったと言わざるを得ない。

再戦ではなく「無効試合とベルト返還」を、体重超過の報道後は「試合中止」を、最後までファンは訴えなければいけなかった。そしてそう訴える選手をファンは支持しなければいけない。覚悟を決めて試合に向かう山中を応援してはいけない。
山中にこの試合をさせてしまったのは、選手に正論よりも、強さや潔さを求めるファンではないかと。

大橋会長は、「井上に仇討ちを」などふざけたことを言っているようです。最初から狙っていたのでしょう。今度こそファンは拒絶しなければいけないと思っています。
Unknown (R35ファン)
2018-03-02 12:15:42
一晩経ちましたが怒りが収まりません。あのクズは勿論、本田会長に対してもです。山中さんがあんな目にあって、何が納得しただろう、ですか。二回続いて選手を危険に晒し、大和さんに八つ当たりし、あのクズにファイトマネー満額支給。それ以前にも三浦さんをドーピング違反のバルガスとやらせて、尾川君に汚名着せたまま。昨日の試合なら普通、「選手を公平に試合させてあげられず、また、ファンに公平な試合を見せられず、申し訳ない。」ぐらい最低限言うべきでしょう。今回のルール違反に対しても他人事の様な話ぶり。
この人選手やファンを何だと思っているんですかね。今やこの人はただの老害。早く消えて欲しいです。
Unknown (さんちょう)
2018-03-02 13:08:03
もう良心的なファンである皆さんが今回の試合に対する「正論」を書いてくれたので、自分としては結局選手とは商品でしかないのだなとつくづく思います。
大橋会長の仇討ち発言には驚きました。もうネリみたいな奴とはかかわってはいけないと思うのが普通では?やはり大橋会長も井上を商品としか見てないのでしょう。 

ホントに昨年の薬物疑惑から今回の試合後までの経緯は外道の極みですね。
Unknown (燭台切り)
2018-03-02 13:19:39
後味の悪い試合でした。ルールを守れないのであれば中止にすべきでしたね。これを機に(遅いが)ルールの厳格化を徹底してもらいたい。

試合の内容は山中に全くキレがない。仕上がりは前回の方が良さそうでした。奴がジャブ、ワンツーを一通り貰って実力を確かめた後に、淡々と連打を打ち込み山中を追い込んでいくのを見て「やばいな」と思いました。そしてそのまま4度倒されて終わってしまった…
リング外での理不尽を内に持ち込むとこういう結果を招く、それは分かっていたはずなのになぜ止められなかったのか?こんな思いをするのはこの試合で最後にしなければなりませんね。
Unknown (CB400F)
2018-03-02 14:49:28
井上の対戦相手としてもう一度ネリさん呼んで来てもらって、1オンスでも超過していたら当日リングには井上じゃなくて村田をあげるというのはどうでしょう?

まぁ敵もさるものでカネロあたりを密かに帯同してきていて村田vsカネロが意外な形で実現したらファン大喜びでしょうか。

しかし昔と違って今日日のウェートオーバーは「確信犯」と言われていて勝つ気は満々なんですね。
旧い話で恐縮ですが花形の挑戦を受けて来日したチャチャイチオノイなどは最初から負け試合モードでやってましたよね。
いずれにしてもプロ失格どころではない話ですが。
そういう人達も時代と共に面の皮が厚くなって来たのですかね?
転んでも只では起きないというか・・・。

これも旧い話ですがスパイダー根本が石松とともに世界タイトル挑戦のためにパナマへ行きでそれぞれマルセルとデュランに挑戦した時にマルセルの計量時(だったと思いますが記憶違いなら失礼)にマルセルが秤に乗って目盛が定まらないうちに立ち会いの現地コミッショナー?が「OK」を出してマルセルが秤を降りた瞬間に水の入ったコップを予め用意していた奴からそれを受け取り飲み干したという話を昔効いた事があります。
日本サイドからクレームが来て再度量っても水を飲み干したことによる体重増を主張出来るように一芝居打った訳です。

日本人には出来ない(思いもつかない)感覚ですが海外でしたたかに活躍していくにはこういう不正を不正まるごとリングの上でKO出来るような人間じゃないと無理なんでしょうね。

ps:ダマトはアラムを「北」半球で〜と言ったんじゃなかったですっけ?
Unknown (まくまく)
2018-03-02 15:27:14
某掲示板にこんな書き込みがありました。

第1戦のドーピング?もちろん知っていた。試合中止など考えなかった。山中が勝つと信じていた。タオル?山中はやる気だったし、まだやれるはずだった。本人もそう言っていたじゃないか。試合後山中はリベンジしたいと言った。王座は要らない、ただあいつにリベンジしたい。山中の言う通りにさせてやりたかった。WBCと交渉し、再戦を決めた。体重超過?山中がそれでもやりたいと言った。あいつの好きなようにさせるしかない。俺がそれをやめさせることなどできない。そして、山中は引退を決めた。会長である俺ができることは、あいつがやりたいようにさせてやることだけだ。どんなに非難を受けようが、俺にできることはそれだけだ。

まさか本人が書き込んだわけではないでしょうが、本音はこんなところなのかも、と思わせる妙な説得力がありますね。試合を中止することが日本のボクシングの尊厳と選手を守ることに他ならないのは自明ですが、当事者には、様々な計り知れない葛藤や、思惑が渦巻いたのっぴきならない事情があり、結果目に見える形としてこのような結末となった、ということなのでしょう。
願わくばここから学ぶべきことを学んで、二度と同じようなことが繰り返されない事を期待したいです。

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