さうぽんの拳闘見物日記

ボクシング生観戦、テレビ観戦、ビデオ鑑賞
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拳闘見聞の日々。

ジャブでもっと「ええ格好」をしてほしかった 石田匠、ダウン奪うも井上拓真に敗れる

2024-05-10 06:02:01 | 関東ボクシング


そういうことで東京ドーム決戦、もうひとつの日本人対決は、井上拓真が石田匠に判定勝ちでした。


ジャブでも効かせる、倒せるというのは、そのボクサーが持つ、ある種の才能の証です。
東京ドームの大観衆は、その眼前で、確かに石田匠が特別なボクサーであることを、まざまざと見ました。
スナップで打つジャブ、その拳の芯が、相手の身体の軸を瞬間的に捉えたからこそ、本来のパンチ力以上の効果が生まれ、ダウンシーンが起こる。
しかもそれが、あの井上拓真に起こったのですから。


正直、試合内容にも、もっと言えば関西依怙贔屓心情による石田匠の勝利にも、過度な期待はせずに見ていたので、初回早々に、余りにも予想外の場面を見て、驚くとともに、一瞬心が沸き立ちました。

しかし、そこに至る過程も、その後の展開もそうでしたが、石田はジャブを打つ前後に動いて外すことをせず、むしろ自ら身体をかがめて近寄り、さらに打っていく構えで闘っていました。
当然井上拓真は右アッパー、左フックなどを繰り出し反撃。3回が終わるとポイントはイーブンに戻っている。
この回終わりのスロー映像をバックスクリーンで見ると、もう石田は鼻血を出していました。

中盤も井上が有効打で上回っていく。石田も右ストレートが当たる場面はありましたが、距離は中間から接近する繰り返しで、ガードの締めも甘く、距離で防御するタイプの石田にとり、どうしても打たれる頻度が高い展開。
さりとてジャブから右ストレート、さらなる追撃が、井上拓真を突き放し、打ち込むだけの質量を持つかというと、そうではない。

桑原拓にも通じる部分ですが、見ていて、いったい彼はどういう勝算をもって、この試合を闘っているのだろうか、と不思議に思いました。
自信の特性を半ば無視している。長いジャブを駆使し、初回にダウンを奪ってもいるのだから、その嫌な感覚を、井上拓真に上塗りしていくような闘い方をするべきなのに、むしろ簡単に挽回の機会を与えている。

ジャブを鋭く繰り出し、当たらずとも見せて、遠目に立って反撃の回数に制限をかける。
来たらクリンチして、右クロスを強振するのは時々でいい。
初回ダウンで2点を「先制」したのだから、なおさらそれを元手に、序盤の内はペースを掴むことに専念するべきだった、と見ました。

さすれば井上拓真といえども多少は焦り、また綻びも見えてくるかも知れず。
もちろん色んな面で優秀なボクサーではありますが、兄ほどの爆発力を持つ攻撃マシーンではないのも、また事実ですので。


しかし実際の試合はというと、ジャブの応酬のあと、自分から寄っていくのは長身の石田の方。
短躯の拓真の方が右アッパーで迎え撃つ。「逆や」と何度思ったか知れません。
そしてパンチの交換になれば、小回りが効き多彩な拓真の方が、長身で構えを締め切れない石田より当然有利。
中盤、終盤と拓真が打ち勝つラウンドが続き、石田も意地を見せて打ち合いましたが、判定は拓真の勝利となりました。


井上拓真は、昨今の常識で言えば短い間隔の、調整も難しかったかもしれない試合で、初回に、それもジャブでダウンを喫するという、思えばなかなかの試練を、終わって見れば無かったことのようにして勝ちました。
この辺はやはり、大したものだと思います。どんな状況でも、自分の力をしっかり出し切れるというか。
もっとも、相手の出方に助けられた面もあったでしょうが。


石田匠は、終わって見れば大敗に近い負け方でした。
初回に見せた、一級品のジャバー、その面目躍如と言えるダウンシーンは見事でしたが、それ以外は自分の特性を生かせないボクサータイプ、という意味で、晩年の井岡弘樹にも似た、見ていて辛い闘いぶりでもありました。

しかし、せっかくの初回だったのだから、もっと自分の最大の武器であるジャブで「ええ格好」をしたらええのに、と思わずにはいられませんでした。
あのジャブをもっと前面に、試合全般に押し立てて闘うことを、本人が由としていない?ように見えたりもしました。
むしろ前に出て攻めよう、打ち勝とう、という風な試合ぶり。しかしそれは、彼本来のスタイルとまったく合致していない。
まるで、世界戦だから、ドームという大舞台だから、打ち合って勝つ試合をしないといけない、という感じにさえ見えました。

挑戦者の立場で、そんなことまで考える必要は全然無いはずなのに。
むしろそんな「余計」を押しつけられて苦しむのは、井上拓真の方だったはずなのに。


石田匠は、年齢的なものも含め、背筋を伸ばして遠目からジャブを伸ばし、フットワークでリングを舞い、距離で防御をして捌く試合運びが出来るコンディションではなくなっている。
言ってしまえば、ただそれだけのことなのかもしれません。
かつて戸部洋平を破ったときのような、石田匠のグッドジャバーぶりと、それを生かして勝利に繋げる闘いが出来ていた頃を見知る目には、残念な試合でした。


まあ、初回を取り除けば、こういう感じになるのだろうな、と想像していたのと、ほぼ違わない試合でもあったのですが。
そういう面では、この日の井上兄弟はよく似た試合をしたのだ、とも言えましょうか、ね。



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この日の第一試合に出た、リザーバーのTJドヘニーは、フィリピンのブリル・バヨゴスという選手を4回TKOしました。

この日の興行は、16時第一試合開始とのことでした。
Amazonの配信スタートはいつも、冒頭からVTR流してトークして、時間があるから、すぐ始まるわけでもなし、と思っていたんですが、これが勘違い。
Amazonの配信は17時からだということを、うっかり忘れていました。

ということで、16時過ぎ。初めて中に入る東京ドーム、さすがに広く、席までけっこう歩く。
で、その広い通路でモニターを見上げると、もうドヘニーさんが闘っていました。あらま、と。
どうやらパワフルなボディ攻撃などで優勢の模様。
席について程なく、ドヘニーがダウンを奪う。
しかし次の回、バヨゴスに反撃されて、ちょっともらった?しかしまた倒して、TKOとなりました。


全試合が終わって、水道橋駅への途中、ファン数名と笑顔で写真を撮っているドヘニーさんを目撃しました。
改めて、今日のメインで、挑戦者がややこしいことをすることがなかったのは、この人の貢献あらばこそ、でした。心中密かに感謝した次第です。



そういうことで東京ドーム、当然ながら外から眺めたことは数知れずありましたが、今回初めて中に入りました。
当然ボクシングも初めて。少し触れましたが、覚悟していたよりも見やすく、近く感じ、席の位置も良くて、視界が広かったですね。
ときに双眼鏡を駆使して、思っていたよりもずっと、子細に試合の様子を見ることが出来ました。
後に当然、Amazonの配信映像も見ましたが、割と見たとおりのことが起こっていたなあ、というところです。

ただ、まあお前に関係ないやろうと言われればそうですが、野球場としてはやっぱり狭いんでしょうね。
甲子園球場などと比べて、左中間と右中間の膨らみがほぼ皆無、ポールからセンターまでほぼ直線というのは、野球場としては歪としか。
また、こけら落としのタイソン戦が88年でしたから、もう老朽化がどうと言われる時期でもあり、実際読売ジャイアンツの移転(一時的?)という話も持ち上がっているんだとか。

しかし、ここでタイソンが二度闘い、二度目は負けたのかとか、辰吉丈一郎がデビュー二戦目を闘ったのか、高橋ナオトは要らざる試合を闘って負けたのだなあ、吉野弘幸はここで初めて日本チャンピオンになったのだった、天才坂本孝雄を倒して...そうだ、浜田剛史の再起戦は、結局幻に終わったんだった...等々、色々と感慨深くもあり。

遅かりしとはいえ、この会場でボクシングを見られて、良い思い出ができました。
果たして、次の機会があるものかどうかは...ちょっと難しいでしょうが、かなうことならば、という気持ちでもあります。






※写真提供はいつもどおり「ミラーレス機とタブレットと」管理人さんです。
いつもありがとうございます。



コメント (3)
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