ということで昨夜はひかりTVで、フェニックスバトルのライブ配信。
田中恒成が橋詰将義を5回TKO。WBO3位の田中が、有力コンテンダーとしての地位を守った一戦でした。
昨日、ちょこっとプレビューぽいこと書いたんですが、序盤は想像以上に、橋詰将義のリーチが生きていて、田中恒成はなかなか接近出来ない。
初回早々に、しっかり打ったワンツーストレートの「先手」によって、橋詰はリーチの差を最大限に生かす好スタートに成功。
ワンツーのみならず、前に伸ばす右アッパーも決めていました。
2回も基本的には同じ流れ。田中は右リードから入ろうとするが届かず、外される。
右ボディから行くと右フック引っかけが来る。橋詰の右ジャブが邪魔。
途中から、田中が単発でヒットを取るようになるが、橋詰が乱れるほどかというと、そこまででもなし。
上京し、移籍して三戦目の橋詰にすれば、まさに人生賭けた大一番で、かなり気が入っているようにも見え、考え得る中で最高の立ち上がりに見えました。
対する田中にとっては、長身のサウスポーに対し、小柄な方が右リードで入ろうとして届かず...相当悪い回り、流れの典型に見えた、のですが。
3回、スタートから田中が膝を深く曲げ、低い姿勢でダックしてから打ちに行く。
橋詰が長いリーチを生かして打つパンチが、田中の頭上をスカスカと通って「あれ?」と違和感を持った瞬間、田中の右がヒット。
先ほどまで長いリーチに苦しんでいたはずの田中が打ったのは、意外なほど大振りにならず、振りの小さいショート気味の一撃でした。
傍目にはよく分からなかったですが、田中はダッキングを低めに設定しなおして、なおかつ、橋詰のパンチの軌道を外せる位置取りに成功していました。
ここから、展開は文字通り一変。田中が橋詰のジャブ、ワンツーを外しては右。橋詰左ストレートに田中、左ボディ。
橋詰また左外されて右ショート食う。田中のヒットが相次いで、圧倒的な攻勢。
4回、この流れならすぐにでも仕留めにかかるか、と見えたが、田中はまた上体を少し立て気味の姿勢。
橋詰少し息をつけた?ワンツー繰り出す。
しかし途中から、また田中が低い姿勢を取り始める。そこから、ダックして外しては打っていく。
左フック好打、右ショート、左右連打の締めに左ボディ。右ショート決めてゴング。
橋詰、悪い回りになっても、同じように自分から手を出し、外されては打たれる。
一旦手を止め、離れて見る、という選択を、結果として出来なかった。
それはこの回、立ち上がりに誘った田中の巧さでもある。
この辺、やはり経験の差というか、田中は余裕ある試合運び。きつく言えば、力量の差、でもあるか。
5回、橋詰は気合いは感じるが、ワンサイドに打たれ続ける。
田中の左アッパー、ワンツー、左ボディを断続的に打たれ、ヒットによるカットで右瞼から出血。
それでも懸命に抵抗していたが、田中が「止める」と決めて猛攻を仕掛け、レフェリーがストップ。TKOとなりました。
2回が終わった時点では、橋詰の良さばかりが出ていて、ワンサイドに見えた試合でした。
普通ならこのまま行くわけがない、田中が巻き返してきて、橋詰がそれに耐えきれるか、という先を想像するところですが、あまりにも一方的に橋詰の良さだけが出ていて、ひょっとするとこのまま行くのか...まさかなあ、いや、でも...と思っていたほどです。
しかし3回、試合の流れががらりと変わりました。
田中恒成の姿勢、位置取りが、その要因だったと思います。
上体の位置を低く設定し、位置取りとしては、軸をやや左斜め前にずらした感じ、だったでしょうか?映像を見返してみたいところですが。
何しろ、橋詰のパンチの軌道が、そこをあまり通らない、という「発見」をして以降の田中は、十全にその攻撃力を発揮して、橋詰を厳しく打ち込んで行きました。
やはり田中強し、世界三冠は違う、という「絵」でしたが、本当に凄いと唸らされるのは、その前に、その強さを、違いを生み出せる要因となった「位置取り」が出来ること、です。
打たれず、外せる。そこから攻撃をスタートできる。その優位性を得てから、勝負がつくまでは早かった。
橋詰がそれに対して、何らかの修正をしてくる前に、試合を終わらせようという意図もあってのこと、でしょうが。
終わってみれば、さすがは田中恒成、という試合でした。
単に速い、強いだけではない、それ以外の部分で良さが見えた。それは大きな収穫だったと思います。
また、115ポンド級三試合目にして、徐々に体格面でも、このクラスにフィットしてきたかなあ、とも見えました。
やはり、中谷潤人の転級という話を抜きにすれば、井岡一翔に次ぐ実力者、それが田中恒成でしょう。
とはいえ、井岡一翔への再挑戦は、すぐにとはいかなさそうです。
井岡がニエテスに勝ち、年末に他団体王者(IBF?)との対戦を目指しているとしたら、順番的には、あってもその先、ということになります。
もっとも、井岡がニエテスに敗れたりしたら、一気に情勢が変わることでしょう。
米大陸のリングでもビッグファイトが行われている階級だし、そちらへの絡みもあってほしいですが、田中恒成がその実力を示したことで、こちらはこちらで、色々と盛り上がっていけそうです。
敗れた橋詰将義、試合後は口惜しそうな表情でした。
上京して移籍して、その才能を証明するための一戦は、それこそ人生を賭けた大一番だったことでしょう。
しかし、中部のボクシング史上、最高の逸材である田中恒成の存在は、彼にとって険しい壁となりました。
私の目には、どう見ても彼の勝ちに見えた、日本タイトル初挑戦のドローを経て、攻撃面に比重をかけた、と見える移籍後の闘いぶりでしたが、今回はその辺を抜きにしても、考え得る中で最高の、突き放すアウトボクシングが出来ていたように見えたのですが。
これが、ブランクや移籍などの試練を乗り越え、彼が築き上げようとしていたボクシング、その到達点なのだろうか...とさえ思っていました。
しかし、田中恒成の手によって、それは打ち崩されてしまいました。
勝負の世界の厳しさ、酷薄無情の掟により、若手の頃から色々な試合を見てきた選手の闘いに、ひとつの区切りがついた。
その厳しい現実を見てなお、闘う者への畏敬の念を抱く自分がいます。橋詰将義に対しても、当然のこととして。