さて、遂に井上尚弥登場、バンタム級ですが...。
マガジンによるエントリー、一回戦は以下の通り。
エデル・ジョフレvsオルランド・カニサレス
ルーベン・オリバレスvs井上尚弥
ファイティング原田vsノニト・ドネア
長谷川穂積vsカルロス・サラテ
...日本人3人入れちゃいますか、というツッコミもありましょうが、それはさておいて。
エデル・ジョフレ。ブラジル初の世界王者にして、同国史上最高のボクサー。人呼んで「黄金のバンタム」。
世界王座が一つしかなく、ジュニア、スーパー階級もない時代に、軽量級で世界王座を8連続KO防衛。
それはまさしく、当時の常識から大きくかけ離れた、破天荒としか言いようのない業績だったことでしょう。
それを考えるだけでも、バンタム級史上最強の評価は納得です。
アルゼンチンとイタリアにルーツがあるブラジル人で、なるほど見た目はそんな感じ。
堅牢なガードによる防御と、コンビネーションの中でいつ強打するか、という狙いの鋭さが見える攻撃。
そして、狙って決め打ちするパンチの威力が桁外れ。打ち出しが小さく、打ち抜きが深い強打。
今見ても、本当に「強い」という印象です。少なくとも、まともに行ったんでは無理や、という。
カラー映像が見られる晩年、フェザー級に転じた、30代後半の映像を見ても、まだけっこう強かったりします。
動画はけっこう数があります。バンタム級時代のものはどれも断片的で、画質が良くないですが。
実は去年、一度思い立って、検索して出る動画全部見たる!という感じで、ジョフレを見まくったことがありました。
どうも、フェザー級時代の映像の方が多くて、バンタムの頃のは、見づらいものがほとんどです。
とりあえず、誰とやったのかわかるものの中から、選んでみました。
59年、世界王者になる前のノンタイトル、比国のダニー・キッド戦。ダウンを奪って判定勝ちですが、今ならストップかも。
60年、エロイ・サンチェス戦。世界王座獲得の試合。
62年、3度目の防衛戦、EBU王者ジョニー・コードウェル戦、10回TKO勝ち。
今風に言えば王座統一戦みたいなものでしょうか。
伸びる左アッパー、右クロスで脅かし、右から左の返しで倒し、詰めて相手コーナーが棄権。
63年、初来日。6度目の防衛戦、青木勝利戦。伝説的に語られる、左ボディによるKO。
同年、比国で7度目の防衛戦。青木戦を終え、日本から比国へ直行したのでしょう。おそらく、二試合パックの契約だったのでは。
ジョニー・ハミト(フィリピン)に12回TKO勝ち。青木戦に続いて、左ボディの威力が凄い。
ただ、ハミトの手数とスピードに少し苦戦した、という内容だったそうで、原田戦の敗北に繋がる何かが、この試合にはあったのかもしれません。
そして、9度目の防衛戦で陥落した、ファイティング原田戦の4、5回。
二試合、全部で30ラウンズありますが、この2回ぶんだけ見れば、両者の力、試合内容が凝縮して見られる、そんな6分間。
もちろん二試合とも、フルに見る価値大いにありですが。CSフジでの放送は、最近はあるのかなぁ。
それにしても原田さん、よう倒れんもんですね。どっちも超人です、もう。
カラバージョ戦や矢尾板貞雄戦、ビセンテ・サルディバル戦など、見てみたいと思うんですが見つかりません。残念。
いきなり長くなりましたが、対するはIBF王座16度防衛のオルランド・カニサレス。
IBFが徐々に認知されていく過程の頃の王座獲得だったもので、ケルビン・シーブルックス戦も、専門誌がグラビアページを割いて報じていなかったような記憶あり。
しかしWOWOWエキサイトマッチが始まり、試合が見られるようになると、WBAやWBCの王者より上なのでは、と思うようになりました。
当時は、AやCの王者も、エリセール・フリオやジュニア・ジョーンズ、辰吉丈一郎ら魅力あるボクサーがいましたから、彼らとの対戦を見てみたかったですね。
代表的な試合、KOシーンを紹介と、普通なら考えますが、この人の場合、ある意味決定版的な動画があります。
なんでもマネージャーだったジェシー・リードの息子が編集した?映像とのことで、もうカニサレスへの愛情に満ちたハイライト集です。
カニサレスの防御から攻撃、その合間に挟む「ひと仕事」、サイドステップの見事さ、上下の打ち分け、「開いたトコ」への狙い打ち。
カニサレス大盛り、という動画です。これ見たら十分、お腹いっぱい、という感じですね。
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続いて王国メキシコの「ミスター・ノックアウト」ルーベン・オリバレス。
こちらはジョフレ以上のKO怪物で売り出しましたが、当のメキシコ国内では、ハードパンチャー、というのではなく、メキシカン・ボクシングのサイエンスを確立した攻撃的テクニシャンという側面を評価されている、といいます。
上下のコンビネーション、ことにダブル、トリプルパンチによるボディ攻撃の効果を利して、いかに相手の防御を崩し、KOパンチを打ち込むか。
そのパターンを開発し、確立したのが、オリバレスであると。
世界奪取のライオネル・ローズ戦、その時点での戦績は52戦、51勝1分無敗。そのうちKO勝ちが49。
思わず言葉を失いますが、実際に映像を見ると、画質のせいもあるかもですが、戦績の数字から想起するような底抜けの強打者ではなく、組み立て、崩しの巧さと、集中攻撃の鋭さで倒しているなあ、という印象でもありました。
まずはハイライト動画。短くまとめてあります。ローズ戦の様子が長めに入ってますね。
67年、無冠時代。31戦目、ファイティング原田の弟、牛若丸原田戦。
この弟さんも日本チャンピオンになる人で、相当強いはずなんですが。
こうして見ると、当てる巧さがかなりのもの。
トランクスのデザインや背格好なんかのせいで、遠目に見ると、ファイティング原田が倒されているように見えてしまいます。むー。
69年、東京五輪金メダリスト、桜井孝雄戦。
サウスポー相手でも、上下の打ち分けが冴えます。
どちらに力点を置いて打つか、その選択も適切です。こういうところか、と。
こちらは2度目の王座獲得後、71年に初来日。
二度目の対戦となる金澤和良戦。伝説の死闘。
この辺になると、王者として色々と誘惑もあったようで、その辺の乱れが試合ぶりにも出ています。
最後、何ごとか吠えるように叫びながら打っていく挑戦者、金沢の姿は、壮絶です。
よく知られるとおり、ストイックな節制などとは無縁な御仁で、王座奪取後、転落と奪回を繰り返すキャリアでしたが、本人曰く「きちんと練習していれば最強だったが、相手ではなく、遊びの楽しさに負けた。でも、人生ってそんなもんだろ」。
なんかこう、カラッと朗らかなのが良いですね(笑)。
さて、対するは井上尚弥。
ファイティング原田以来、こういう場にてらい無く推せる日本人ボクサーが出た、というだけでも凄いのに、それ以上の評も多いのですから...。
トータルバランスに優れ、それでいて突出した強さもある。
今回のブランクや、前回の試合で2回に打たれるまでの過程で、自ら少し止まった、あの辺の選択がどういう意味を持っているものか、など、気にかかることもありはしますが、現状のみならず、歴代最高クラスの王者と目されるのに相応しい実力を証しています。
動画なんて今更ですので、これ。
次の試合、早く実現してほしいです。
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さて、少し前まで、日本最高のボクサーといえばこの人、一択だったファイティング原田。
日本人二人目の世界王者であり、当時の最年少世界王者でもあり、さらに黄金のバンタム攻略という快挙でもって、世界のボクシング史に特筆される存在でもある。
その果敢な闘いぶりは、当時の日本人の心情にマッチしていて、まさに国民的スポーツヒーローとして、その名を知らぬ者はない、というレベルだったそうです。
ていうか、私も現役をリアルタイムで見てはいませんが、名前を知ったのはいつだったか、覚えていません。何故か知ってましたね。
しかし、よく言われる果敢さ、勇気、同じ人間だから負けるわけがない...というような精神的な部分ばかり語られる原田像には、違和感があります。
キングピッチ戦、ジョフレ戦、メデル戦を通して見れば、攻撃的でありながら、足で外す防御に秀でていて、単なる突進ファイターでないのは一目瞭然。
しかも当時の常識に反して、試合全般を通じて攻防のリズムを落とさず突っ走る闘い方で、それを実現するスピードとスタミナを兼ね備えていた。
キングピッチやジョフレが、初対戦のときに、戸惑っているように感じるのは、本当にこの調子でやるつもりなのか?という疑念からではなかったか、と思います。
当時「リング」誌主筆のナット・フライシャーが「私が求めていた、攻撃型のチャンピオン」と称えたそうですが、ファイティング原田の闘いぶりは、単なる日本のナショナルヒーローの枠内だけでは収まらず、当時のボクシング界において、革新的なものだったのでしょう。
動画ですが、またしてもこちらのハイライトにお世話になります。
技術面でもうひとつ注目してほしいのは、ジョー・メデルとの二試合ですね。
初戦、攻勢に出たところを捉えられた原田が、再戦でいかに距離の取り方、位置取りを徹底的に研究して対抗したか。
そして、にもかかわらず、その原田を最終回、あわや捉えかけるメデルの鋭さも。
世界の頂点を争奪する闘いとは、これほど凄いものか、と感心するしかありません。
エロルデ、パッキャオに次ぐフィリピンのグレート。ノニト・ドネアはバンタム級でエントリー。
ウラディミール・シドレンコ、フェルナンド・モンティエル戦は、確かにいずれも強烈な勝ちっぷりでした。
とりあえず二試合、動画。
井上尚弥戦など含め、バンタム「復帰」後のドネアも、違う怖さを持つベテラン強打者ですが、この頃はもう、近寄っちゃいかん、というレベル。
シドレンコ、モンティエル共に、日本来たとき直に見て、その強さを実感していただけに、この負け方は信じがたいものがありました。
ここをベストとして他と比較すると...かのジョーさんに「ジョフレより、サラテより上じゃないかと思った」と言わしめたのも納得ですね。
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さて、神戸のジムから初の世界チャンピオン、技巧で倒すサウスポー、長谷川穂積。
その巧さ、強さのみならず、キャリアを重ねるに連れ、辰吉丈一郎に次ぐカリスマとしても、人々の記憶に残るボクサーとなりました。
まー、拙ブログは、言ってみれば長谷川穂積応援ブログみたいなものでもありまして(笑)今更何をどうとか書きようもないです。
今回のマガジン、バンタム級歴代ベスト8選出については、依怙贔屓感情でいけば「当然!」となりますが(笑)
えー、ピントールとかチャンドラーとか、それこそマヌエル・オルチスとかはいいんですか?そしたら山中は?とか、色々思う気持ちも、心の片隅にはあります。
でもまあ、そういうのはええか、せっかく選んでくれてはるんやし、ということで(笑)。
対戦想定でも、連戦連勝で優勝にしたろかな、とか思ったりもしますが(笑)
まあ冗談はおいといて、真面目な話、ピントールやチャンドラーなら互角か、若干上に置いてもいいかな、と思います。
5連続KO防衛の「ベスト」の頃なら、完全に上かなと。
オルチスは今回、外す方針が誌面に語られてましたし、あとは山中...こちらは、辛抱しておくなはれ、というところで(笑)
とりあえず動画。
この人の試合は、西岡利晃同様、それこそデビュー戦から手撮りの動画で、それがないものでも会場で、ほぼ全部見てますが、YouTubeではまたしてもこちらのハイライト動画。
世界戦全部入り、従ってバンタム級での勝ちっぷりもしっかり見られます。
大トリ?はオリバレスの後、王国メキシコの看板として最強を謳われた長身のパワーヒッター、カルロス・サラテ。
バンタム級歴代の中でも、ジョフレの後に現れた王者の中で、最強にして難攻不落と目される存在でした。
また、マイケル・カルバハルが登場するまでは、リングマガジンのファイター・オブ・ザ・イヤーの中で、歴代最軽量級のボクサーでもありました。
細身の体つきですが、見た目のイメージと違い、けっこう強引、力づく、確信的な「破壊者」だなあ、というのが、初めて映像見たときの印象でした。
外連味の無い、真っ向勝負で打ち崩すボクシングだと。
何しろ長身、リーチがあり、遠くから打てて、そのパンチは右ストレート、左フックとも、恐ろしく正確で強烈。
そして、相手のガードをよく見て、左のボディブロー。これで再三倒してます。
相手にしたら、向かい合っている時点で八方ふさがり、こんなんズルいやん、というレベル。まさしく無敵に見えました。
ゴメス戦の敗北(リング外で色々大変だったとか)、ピントール戦の論議を呼んだ判定負けなど、不運の影も見えるキャリア晩年でしたが、ベストの時期は、確かにジョフレと双璧の強さだった、と思います。
動画はフルのものはたくさんありますが、まずはハイライト。横幅が以下同文ですが。
内容的には良いんですが、そこだけが残念。
WBC王座奪取の、ロドルフォ・マルティネス戦。豪快。
アルフォンソ・サモラ戦。WBA、WBCのバンタム級王者同士が、ノンタイトルながら対戦するというビッグマッチ。
元々同じクーヨ・エルナンデス門下の両者、因縁の対決。
この試合の時点で、サモラ28戦28勝(28KO)無敗、サラテ45戦45勝(44KO)無敗。
全世界注目の大一番は、サラテが完勝。キャリア最大の勝利でしょう。
サモラも、この試合までは怪物的に強かったんですが...。
珍しく、日本語実況のもの。8度目の防衛戦、エミリオ・エルナンデス戦。
画質は悪いですが、杉浦アナの実況が懐かしいです。
9度目の防衛戦、メンサ・クパロンゴ。左ボディで効かせ、仕留めるシーンから。
どうでもいいですが Carlos という名前の表記は「カルロス」じゃなくて「カーロス」にしたらいいのになあ、と、ずっと思っています。
カーロス・リベラみたいで、そっちの方がカッコイイやん、と。駄目ですかね?
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ということで、またしても長くなってしまいました。
対戦については、非常に難しいというか、それぞれ思うところがありすぎますね。誰も彼も素晴らしいので。
でもまあ、簡単に。独断ですので、異論反論は覚悟の上で。あくまで「ベスト」を切り取って比較します。
ジョフレvsカニサレスは、巧みに外し、回り込むカニサレスにジョフレが苦戦。
しかし一度でも強打すれば仕留めきる力のあるジョフレが、追撃でカニサレスを止める。ジョフレ。
井上vsオリバレス、多彩な左上下で攻めてくるオリバレスに、井上がカウンターの左フックを滑り込ませる。
激戦の末、一発ずつのパワーの差が出て、井上。
原田vsドネア、ドネアのカウンターを警戒しつつ波状攻撃の原田、ドネアはカウンターも、原田が強打狙いではないので、長引く。
しかし要所でドネアの強打が原田を食い止める。ドネア。
長谷川vsサラテ、正面から分厚い攻めを仕掛けるサラテ、長谷川は速い連打とカウンターで対抗。
ロープ際に追われ、回り込むより打ち返す長谷川をサラテが打ち込む分、サラテ。
準決勝、ジョフレの堅牢なガードを井上が叩き、動かして当てて行く。ジョフレの強打を怖れず井上が切り込み、スピードでもまさる。井上。
ドネアvsサラテ、一発で倒せる者同士だが、カウンターを取れるドネアが競り勝つ。
決勝、全盛のドネアと、好調時の井上。互いに切れのあるパンチを応酬、井上苦しむが、徐々に強打をヒットして逆転。井上。
...まあ、無理して勝敗つけなくてもいいかなあ、と今頃になって思い直しております。
あくまで紹介のつもりでやっているのだから...今頃、我に返っても遅いですね。嗚呼。