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植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)大気中二酸化炭素濃度の増加による気孔数の減少

2015-11-27 14:03:55 | 読んだ論文備忘録

Elevated CO2-Induced Responses in Stomata Require ABA and ABA Signaling
Chater et al.  Current Biology (2015) 25:2709-2716.

DOI: 10.1016/j.cub.2015.09.013

大気中CO2濃度([CO2])が上昇すると、葉の気孔が閉じ、気孔数も減少し、蒸発散が低下する。英国 シェフィールド大学Gray らは、[CO2]による気孔の発達や機能の制御機構について、シロイヌナズナを用いて解析を行なった。その結果、[CO2]の上昇は孔辺細胞の活性酸素種(ROS)の増加を引き起こし、ROSのスカベンジャーを与えると[CO2]上昇による気孔閉鎖が弱まることがわかった。また、ROSを生成するNADPHオキシダーゼ(RBOH)が機能喪失したrbohD rrbohF 二重変異体は、[CO2]上昇による気孔閉鎖が弱まった。また、rbohD rrbohF 二重変異体は気孔密度が増加した。よって、NADPHオキシダーゼ活性および[CO2]上昇によって誘導されるROSは気孔の密度と開度の減少を誘導することが示唆される。次に、[CO2]上昇に対する孔辺細胞の応答におけるアブシジン酸(ABA)の役割について解析を行なった。ABA受容体が機能喪失したpyr1 pyl1 pyl4 三重変異体やpyr1 pyl1 pyl2 pyl4 四重変異体は[CO2]上昇による気孔閉鎖を示さず、ROS生産の増加も見られなかった。よって、[CO2]を介した気孔の閉鎖の際に見られるROSの増加にはABA受容体が関与していることが示唆される。孔辺細胞で発現するABA生合成酵素が機能喪失したnced3 nced5 二重変異体は、[CO2]上昇による気孔閉鎖が低下し、ROSの増加も見られなかった。また、ABA受容体変異体もABA生合成変異体も[CO2]上昇による気孔密度の増加が見られなかった。ABA欠損変異体aba3-1nced3 nced5 二重変異体は通常の[CO2]で野生型よりも気孔密度が高くなるが、aba3-1 変異体において孔辺細胞特異的にABA3 を発現させた個体、もしくはnced3 nced5 二重変異体において気孔前駆細胞特異的にNCED3 を発現させた個体の気孔密度は野生型と同等になった。またこれらの個体は[CO2]上昇によって気孔密度が減少した。したがって、[CO2]上昇による気孔密度の低下は気孔前駆細胞や孔辺細胞特異的にABA生合成を回復させることで引き起こされる。通常の[CO2]および高[CO2]で育成した野生型植物の地上部のABA含量に差異は見られなかった。よって、[CO2]の変化による気孔密度の変化は、葉全体のABA濃度の変化ではなく、ABA感受性もしくはABA局在の変化によるものであると考えられる。以上の結果から、[CO2]上昇による気孔密度と気孔開度の制御には活性酸素種の増加が関与しており、この増加にはアブシジン酸シグナルが関与していることが示唆される。

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