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植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)半水生植物での異形葉性の制御機構

2015-02-28 09:16:58 | 読んだ論文備忘録

Regulation of the KNOX-GA Gene Module Induces Heterophyllic Alteration in North American Lake Cress
Nakayama et al.  The Plant Cell (2014) 26:4733-4748.

doi:10.1105/tpc.114.130229

植物は環境変化に応答して葉の形を変えることがあり、このような応答は異形葉性(heterophylly)と呼ばれている。Rorippa aquatica は、北米原産アブラナ科の多年生草本半水生植物で、生育環境に応じて葉の形態を大きく変化させる。この植物は湖畔に生育しており、陸上では葉縁が鋸歯状もしくは浅裂した単葉を発生するが、湖の水位が上昇して水没すると羽状全裂葉を発生して水の流れに抵抗できるようになる。京都産業大学木村らは、R. aquatica を水温30℃で育成するとそれよりも低い水温で育成した場合よりも葉が単葉に近い形態を示すことを見出した。よって、R. aquatica の異形葉性は様々な環境要因の影響を受けていることが示唆される。陸上栽培においても、30℃では全縁の単葉となるが、15℃で育成すると水没条件と同じように羽状全裂葉が形成された。したがって、羽状全裂葉は水中でも陸上でも低温条件で形成され、恐らく両方の条件下での形態形成では共通の分子機構が利用されていると考えられる。陸上栽培条件において、20℃で育成した場合は葉縁が全裂し、25℃で育成した場合は葉縁が鋸歯状となり、両温度条件では単葉と羽状全裂葉の中間の葉形となることから、R. aquatica の葉形の変化は、二形性の切換えではなく、進行性過程もしくは形態形成勾配によって制御されているものと思われる。低温や水没によって形成された羽状全裂葉の形態は背軸側の葉層で構成された単面葉に類似しているが、組織学的に向軸‐背軸極性が見られること、シロイヌナズナの葉原基周縁部で発現して向軸‐背軸極性確立後の葉身成長に関与しているPRESSED FLOWERPRS )のオーソログが低温条件や水没条件でも発現していることから、羽状全裂葉において向軸‐背軸極性は維持されていることが示唆される。すべての育成条件で葉の柵状組織や海綿柔組織の明確な分化は見られなかった。また、20℃や25℃で育成した葉は向軸面と背軸面の表皮細胞の形態に明確な差異が見られず、温度条件の違いは気孔の分布パターンや密度に変化をもたらさなかった。トライコームは葉原基にも成熟葉にも見られなかった。異形葉性における葉の形態変化の過程を見るために茎頂の葉原基を観察したところ、P4ステージまでは20℃育成と25℃育成で違いは見られなかったが、P5ステージでは葉身の形態の違いが明確になった。したがって、育成温度の違う葉の形態の差異はP4とP5の間で決定されるものと思われる。形態の差異は葉原基上の小葉形成の違いであり、この過程を経時的に追うと、全裂葉の葉原基での小葉原基形成も単葉の葉原基での鋸歯形成も求基的に細胞分化が起こることがわかった。よって、葉原基や葉の基部部領域での形態形成が最終的な葉形を決定していると考えられる。そこで、育成中に温度を20℃から25℃へ変えて葉の形態を見たところ、新たに出現した葉は単葉となり、発生途上の葉の基部は全裂から単葉、全縁へと変化した。育成温度を25℃から20℃に変えると、新たに発生した葉は全裂葉となり、発生途上の葉の基部は全縁から全裂へと変化した。5-エチニル-2' -デオキシウリジン(EdU)標識試験から、葉の発達過程において細胞分裂は葉や小葉の基部に集中しており、葉原基基部領域での形態形成は最終的な葉形決定において重要であることが示唆される。異形葉性の制御に植物ホルモンが関与していることが指摘されていることから、内生の植物ホルモン量を調査したところ、活性型ジベレリン(GA)のGA4量が20℃育成条件よりも25℃育成条件で高いことがわかった。この条件下ではGA生合成に関与するRaGA20ox1RaGA3ox1 の発現量が高くなっていた。また、両条件下とも、GA処理をすることによって対照よりも単葉化し、ウニコナゾール処理をすることによって葉の複雑度が増した。葉の単葉化は水没条件下でGA処理をすることによっても起こった。一方、活性型サイトカイニンであるt-ゼアチン量、サイトカイニン生合成に関与するRaIPT7 の発現量が20℃育成条件よりも25℃育成条件で低くなっていた。そこでt-ゼアチン処理を行ったが、葉の形態に変化は見られなかった。これらの結果から、25℃条件では、GA生合成が促進され葉原基のGA4含量が増加し、サイトカイニン生合成が抑制されてt-ゼアチン量が減少することが示唆され、内生GA量およびサイトカイニン量は温度変化に応答して変化するものと思われる。KNOX1 遺伝子群はGAやサイトカイニンの生合成、複葉形成に関与することが知られていることから、RaSTMRaBPRaCUC3 の発現を見たところ、25℃育成条件よりも20℃育成条件で高いことがわかった。25℃育成条件で、RaSTM は主に茎頂分裂組織で発現していたが、20℃育成条件ではさらに発達中の葉原基の基部においても発現しており、同様の発現パターンは水没条件でも見られた。一方、RaBP は育成環境による発現パターンの変化を示さなかった。20℃育成条件および水没条件でRaCUC3 は小葉原基の境界領域で発現していた。よって、RaSTMRaCUC3 の発現パターンと発現量は環境に応じて変化する。RNA-seq分析から、全裂葉では630遺伝子、単葉では471遺伝子の発現量が増加していることがわかった。全裂葉では、タンパク質代謝、細胞の組織化や生合成に関与する遺伝子の発現が高く、全裂葉原基は複雑な葉形を形成するために活発に形態形成を行なっていることが推測される。単葉では、非生物/生物刺激応答やストレス応答に関連した遺伝子の発現量が増加していた。また、単葉ではGA-stimulated in Arabidopsis 14GASA14 )オーソログの発現量が増加しており、この遺伝子の発現量は20℃よりも25℃で高くなっていた。全裂葉で発現量の高い上位200遺伝子は、シロイヌナズナでは茎頂、茎頂分裂組織、葉原基で主に発現している遺伝子群と重複が見られ、全裂葉原基は未分化状態にあることが示唆される。しかし、単葉で発現量の高い上位200遺伝子ではこれらの遺伝子群との重複は見られなかった。また、全裂葉で発現量が増加する上位200遺伝子は、シロイヌナズナにおいて低温処理やグルコース添加で発現量が増加する遺伝子群と重複が見られ、単葉で発現量が増加する上位200遺伝子はそのような条件で発現量が減少する遺伝子群と重複が見られた。さらに、全裂葉で発現量が増加する遺伝子はシロイヌナズナにおいて光強度に応答して発現量が変化する遺伝子群と重複が見られた。そこで20℃条件下で光強度を変えて育成したところ、強光条件では全裂葉が深い二重鋸歯を発達させ、弱光条件では全裂葉の葉縁が比較的滑らかになった。RaSTM の発現も強光条件では弱光条件よりも高くなっていた。よって、温度に加えて光強度も葉形制御に関与していると考えられる。

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