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植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)FLOWERING LOCUS T による塊茎形成誘導

2011-10-24 22:37:06 | 読んだ論文備忘録

Control of flowering and storage organ formation in potato by FLOWERING LOCUS T
Navarro et al.  Nature (2011) 478:119-122.
doi:10.1038/nature10431

ジャガイモの塊茎形成は短日条件や低温によって誘導される。日長は葉で感知され、移動性のシグナル因子(塊茎形成因子、チューベリゲン)が合成されて地下茎へ輸送され、塊茎形成が起こるとされている。スペイン 国立バイオテクノロジーセンター(CNB)Prat らは、イネのFLOWERING LOCUS T(FT)のオーソログであるHd3aとGFPの融合タンパク質をrolC プロモーター制御下で絶対的短日型のジャガイモAndigenaで発現させ、この形質転換体は長日条件でも塊茎が形成されることを見出した。野生型植物との接木試験を行なったところ、接ぎ穂、台木のどちらかがHd3a を発現していれば塊茎を形成し、Hd3a の接ぎ穂を接いだ野生型の台木の匍匐枝においてHd3a-GFPタンパク質が検出された。ジャガイモのFT ホモログ遺伝子のうちStSP6A の発現は塊茎形成と強い相関が見られ、短日条件に置かれた野生型植物や、恒常的に塊茎形成するフィトクロムBアンチセンス系統の葉や匍匐枝において発現していた。StSP6A 過剰発現系統は長日条件でも塊茎形成して花成が誘導され、StSP6A を発現抑制した系統では短日条件での塊茎形成に遅れが見られた。塊茎形成が早生(Jaerla)、晩生(Baraka)、中性(Kennebec)のジャガイモ栽培品種におけるStSP6A の発現量を調査したところ、それぞれの品種においてStSP6A 転写産物の蓄積と塊茎形成に相関が見られた。よって、このFT パラログは塊茎形成制御に関与していると考えられる。中性植物であるトマトの花成はFT -ホモログのSFT /SP3D 遺伝子によって制御されており、この遺伝子の発現はCONSTANS(CO) や日長による制御を受けていないことが知られている。ジャガイモのSFT /SP3D オーソログであるStSP3D をRNAiによって発現抑制した系統は花成に遅れが見られたが、短日条件での塊茎形成は野生型と同じ時期に起こった。したがって、StSP3D は花成には関与しているが塊茎形成には関与していないことが示唆される。花性および塊茎形成の制御に関与しているこの2つのFT パラログは、発現プロファイルの変化を通して進化してきたと考えられ、シロイヌナズナのco-1 変異体やft-1 変異体でStSP6A を発現させると花成遅延の表現型に回復が見られた。StSP6A は葉だけでなく塊茎形成過程にある匍匐枝においても発現しており、葉と比較して匍匐枝での発現時期には遅れが見られる。よって、輸送されたStSP6Aタンパク質による自動調節ループが存在しているものと思われる。Hd3a を発現している接ぎ穂をStSP6A を発現抑制した台木に接いだ場合、野生型の台木に接いだものより塊茎形成が遅れ、塊茎数も減少した。これはシグナルの増幅が損なわれたことによるものであると考えられ、接ぎ穂から供給されるHd3aタンパク質によりStSP6A 発現抑制台木での塊茎形成は完全には失われなかった。イネのHd1タンパク質と同様に、StCOは長日条件下でのStSP6A の発現を抑制していた。また、StSP6A を過剰発現させた接ぎ穂をStCO を過剰発現させた台木に接ぐと、匍匐枝でのStSP6A の発現が抑制された。よって、StCOは匍匐枝でのStSP6A 発現の自動調節ループを制御していると考えられる。FTが塊茎形成のスイッチとして機能するという今回の知見は、FTは花成以外の形態形成も制御しうる移動性のシグナル物質であることを示唆している。

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