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植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)シュート分化を制御するERF転写因子

2011-07-01 23:35:09 | 読んだ論文備忘録

Arabidopsis ENHANCER OF SHOOT REGENERATION (ESR)1 and ESR2 regulate in vitro shoot regeneration and their expressions are differentially regulated
Matsuo et al.  Plant Science (2011) 181:39-46.
doi:10.1016/j.plantsci.2011.03.007

シロイヌナズナENHANCER OF SHOOT REGENERATIONESR1 遺伝子はエチレン応答因子(ERF)ファミリーに属する転写因子をコードしており、この遺伝子を過剰発現させた根組織はシュートの再分化効率が高くなる。シロイヌナズナゲノムには、ESR1とAP2/ERFドメインのアミノ酸配列が類似し、C末端側にあるERSモチーフ配列を有したタンパク質をコードするESR2 が存在し、esr1 esr2 二重変異体は胚細胞のパターン形成に異常が見られる。中部大学坂野らは、ESR1ESR2 に機能の違いがあるかを調査するために、それぞれの機能喪失変異体を用いた解析を行なった。それぞれの変異体芽生え胚軸切片からのサイトカイニン(2iP)添加培地でのシュート形成は、野生型と比べてesr1 変異体で21%減少、esr2 変異体で53%減少しており、esr1 esr2 二重変異体では85%減少していた。したがって、ESR1ESR2 は両者とも胚軸切片からのシュート形成に関与しているが、ESR2 のほうがESR1 よりも重要であると思われる。根切片からのシュート形成を見たところ、esr1 変異体では野生型と同等にシュートが形成されたが、esr2 変異体とesr1 esr2 二重変異体ではシュート形成数が低下し、低下の程度はどちらも同程度であった。よって、ESR1 は根切片からのシュート再生には殆ど関与していないと考えられる。esr2 変異体においてESR2 プロモーター制御下でESR1 を発現させるとesr2 変異が打ち消されることから、ESR1とESR2は機能としては同等であると考えられる。芽生え胚軸切片からシュートが再生する過程でのESR1ESR2 の発現パターンを見ると、ESR1 は茎頂分裂組織(SAM)様の構造が形成される前の維管束に形成された突起において発現が見られ、分裂組織様の構造が形成させれるまで発現が継続した。また、シュート形成後の葉原基においても発現が見られた。よって、ESR1 はシュートの発達過程において機能しているものと思われる。ESR2 の発現はESR1 の発現の後に起こり、SAM様構造の中の限られた領域や葉原基の先端部で発現していた。よって、ESR2 はシュート形成過程に関与しているが、SAM様構造の形成初期過程には関与していないものと思われる。ESR1ESR2 の発現時期が異なることから、両者が相互の発現を制御しているかを調査したところ、ESR1 は間接的にESR2 の発現を促進しており、ESR2 の発現部位はESR1 の発現部位に限定されることがわかった。以上の結果から、ESR1ESR2 はどちらもERF転写因子をコードしており同等の機能を有しているが、冗長してシュート分化を制御しているのではなく、シュート分化誘導条件において最初にESR1 が発現し、その後、ESR1 の発現する領域においてESR2 の発現が起こると考えられる。

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