非国民通信

ノーモア・コイズミ

ヘイトスピーチの自由

2011-12-11 22:59:43 | 社会

 さて、先週はまず明治のフォローアップミルク「明治ステップ」から最大で1kg当たり30・8ベクレルの放射性セシウムが検出されたことが話題になりました。毎日1缶食べたとしても放射線量に関しては問題はなさそうな値ですので(別の要因で体を悪くしそうですけど)、交換対応に出た明治は気にしすぎではないかと思ったものですが、なぜか明治の粉ミルクが危ない、明治は危険な製品を流通させたと、てんで的外れな非難が飛び交っているのですから頭が痛くなります。普通、粉ミルクは水に溶かして与えますので実質的な1kgあたりの線量は3ベクレル程度でしょうか。この辺を心配しなければならないとしたら、それこそ子供の国会議事堂見学ですら心配しなければならないことになりかねません(外装に使われる花崗岩が放射能を持っているため国会議事堂はちょっとしたホットスポットなのです)。

参考、乳児用粉ミルクの放射性セシウム汚染について心配しておられる妊娠・授乳中女性へのご案内 - 日本産科婦人科学会

 ちなみに以前にも触れましたが、ベラルーシにおける乾燥キノコの安全基準値は2500ベクレル/kgです。ちょっと高めの基準値に見えますが、水で戻すことを考慮した値となっているわけです。一方で日本は乾物と生もので基準値に差を設けていません。だから、乾燥茶葉や乾燥キノコの基準値超えで大騒ぎしたり、「干したらkg辺りの放射線量が高くなるから」という理由で名産のあんぽ柿が作れなくなったりと、色々と馬鹿げた事態にも発展しています。そして今回の粉ミルクです。一滴でも混じったら「汚れた」と感じる、ワンドロップルールを奉じている人からすれば重大な問題なのかも知れませんが、率直に言ってこのレベルを気にするのは、宇宙人が責めてくるとか空が落ちてくるとか、そういうものを気にするのと大差ないように思えます。3ベクレルのセシウムくらい、原発事故以前から核実験由来の放射性物質として日常的に摂取してきた時期もあったのですから。

 

群大教授暴言「福島の農家はオウム信者と同じ」(読売新聞)

 福島第一原発事故による放射能汚染地図をいち早く作製したことで知られる早川由紀夫・群馬大教授(55)(火山学)が、簡易投稿サイト「ツイッター」に、福島県の農家をオウム真理教信者にたとえる書き込みをしたなどとして、同大は7日付で訓告処分にした。

 同大によると、問題になったのは「セシウムまみれの水田で毒米つくる行為も、サリンつくったオウム信者と同じことをしてる」「福島の農家が私を殺そうとしている」などの書き込み。早川教授は8日、記者会見を開き、「放射能の危険性を多くの人に迅速に伝えるために、あえて過激にした。処分は学問の自由を奪う行為で、大学の自殺」と批判した。同大の堀川光久総務部長は「研究成果とは言えず、言論統制ではない。大学にも多数の苦情が来ている」とし、改善されない場合は懲戒処分も検討するとしている。

 実際のところ「放射能汚染地図」に関しては別に作者がいて早川氏は色を塗っただけとも聞きますが、それはさておき今さらながらに訓告処分となったそうです。氏の福島に対する諸々のヘイトスピーチはネット上ではよく知られるところで、何を今さらと言った気がしないでもありません。「セシウムまみれの水田で毒米つくる行為」などと武田邦彦なんかと似たようなことを宣っていますけれど、とりあえずこの辺の人は農薬でも飲んで寝てればいいと思います。あるいは、排泄物を加工したものでも頬張っていれば良いのではないでしょうかね。私は農薬も排泄物加工品も口にするのは御免ですが、これが散布された畑で採れたものを食べるのは問題ないと考えていますし、それは福島で検出されるような超微量のセシウムであっても同様です。

 放射線測定は専門外で機器の使い方すら理解できていない、ただ営業活動に熱心なだけの民間業者が測定した不正確なデータを垂れ流しにしては真偽不明の危機を煽る(後に測定の誤りであったことが判明しても訂正記事を出さないと、よく言われていますね)など報道倫理が完全に欠如していることで知られる東京新聞は、12月10日付の紙面にて「発言は被災農家に対する中傷ととられかねない内容だったが、その是非はおいておく」と力強く断言し早川擁護の論陣を張っています。このようなヘイトスピーチ容認の立場を鮮明にする新聞社に対しては不買運動の一つも起こされてしかるべきではないかと思われてなりませんが(毒米とは全くの事実無根ですし、福島の農家をオウム信者と同じと呼ぶのが中傷でなくてなんなのでしょうか)、東京新聞改め憎悪扇動新聞ならずとも早川氏を擁護する向きが少なからずあることには、何とも暗澹たる気分にさせられます。

 そもそも「危険性を伝える」ことと「(自分の)被害妄想を広める」ことは全く違うわけです。何らエビデンスのないまま、単に自分が危険だと持っているものの排除を訴えることを無制限に認めるとなれば、それこそ外国人排斥を訴える声もまた「善意の行動」として尊重しなければならないでしょう。確かに日本はヘイトスピーチの自由を認めるという点においては実に寛容な国でした。ただ、その発言が誰かを傷つけ、誰かを社会的に排除する結果を招くとあらば、それは被害を被る人の権利との間で折り合いをつける必要が出てくるはずです。早川氏は「学問の自由」、その擁護者は「言論の自由」とか色々と言いますけれど、しかし虚妄の言論によって侵害される人の権利を無視してまで認められるべき自由なのかどうか、その点は無視して良いものではありません。

 だいたい山下俊一教授に対する脅迫的な刑事告訴とか解任署名とかを指して言論統制とか学問の自由の侵害というのなら理解できるところですが、治安機関によって拘束され法的に処罰されるというのならいざ知らず大学から訓告を受けるくらいで言論統制というのは、これまた言論統制というものの意味を解していないように思います。第一これが言論統制であるなら、問題発言をした閣僚を罷免することだって言論統制ですし、顧客に暴言を吐いた部下を指導するのだって言論統制になってしまいます。あるいは九州電力で問題になった「やらせ」だって言論の自由ですし、これに対して政府筋が行政の権力を用いて九州電力にあれこれと強要するのもまた完全な言論統制になるでしょう。そして無尽蔵に言論の自由を認めるのならば大学側にも意思表示の権利を認めねばなりません。果たして何を言っても許されるのが言論/学問の自由なのでしょうか。

 それ以前に現実と妄想の区別がつけられない人は教員としての適性を欠くわけで、これが再三の注意、指導にもかかわらず改善されない、配置転換などによる対応も難しいとあらば、これは解雇理由として適正と裁判所でも認められるレベルと思われます。自由な研究活動は尊重されるべきですが、研究活動を放り出して自身の妄想的世界観を広めることに熱心になるとあらば、訓告ぐらいは当然でしょう。だいたい、この手の人々が過剰に放射線の影響を煽り立ててきた結果として実態からかけ離れた不安が原発周辺地域の住民を苛み、福島や福島周辺の産品の排除にもつながってきたわけです。果たして実際に福島に被害を与えてきたのは誰なのか、むしろ東京電力なんかよりも、偏見を植え付け不安を煽り、排除の論理を振りかざしてきた人の悪影響の方が大きかったのではないか、本当に賠償を負うべきは「危険性を伝える」と称して現実に妄想を混ぜ込んできた人々ではないかと思えてなりません。

 

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10 コメント

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また出た…と思いました。 (アゼン)
2011-12-12 01:25:16
つい数年前まで、該当粉ミルクには大変お世話になりました。
一家でアレルギーも無いので、我が家の牛乳は明治さんに今もお世話になっています。

セシウムが出た、と、素直に公表して、具体的対策を打ちます、と言ったのだから、皆さん、何故「はい、わかりました」と素直に聞かないのでしょうか?
新聞=(連動)テレビ局報道・週刊誌等々のマスコミや、一部の偏見学者殿の方に素直になっている現実は、ツッコミどころ満載ですね(笑)。

そもそも9ヶ月前の原発事故の、政府のフヤケた対処が庶民の大不信を生じた(怒)、と思っています。
だって、ずっと中継されていた現場が明らかに爆発したところを観たら、5歳だって「危ない!」と叫んでいましたよ(苦笑)。
直後に会見をした姿勢は認めますが、何を根拠に「安心ですから。大丈夫ですから」と言っていたのか?サッパリわかりませんでした。
そんな対応しか出来なかったから、これまで「放射性=放射線=原爆」と、何となく、実はしっかり刷り込まれていた世代が、マスコミ等の「広く世の中に伝える」立場にいて、政府よりも一部の偏見学者殿の妙な「お説」に納得感を持ってしまったのが、騒動の始まりか…?と考えました。

ど素人の主婦ですが「何が事実で、どういう現実・現状であるのか、根拠は何か」をいろいろなものを見たり聞いたり自分で調べて、自分で考えたいと思っています。
記事は大変勉強になります。
ありがとうございます。
客観的・科学的である「本当のところ」が知りたい、と思っています。←(しかし、本当は、誰もがそう思っているのでしょうね)。
Unknown (ヘタレ一代)
2011-12-12 07:56:58
>本当に賠償を負うべきは「危険性を伝える」と称して現実に妄想を混ぜ込んできた人々ではないかと思えてなりません

そうなんですよね。強制避難させられた人だけでなく、自主避難をさせられた人達(沖縄に逃げるなど、一部おかしな部分はありますが)を生み出し、東北の農家全体に実害を与えているのはあの時騒いだこういう輩だと思います。

そしてこういう輩に限ってほとぼりが冷めて今度本格的に賠償が始まったら、「自主避難した奴がもらうのはおかしい。避難する必要がない安全な場所に住んでいたんだから」とか言って攻撃するんでしょうね。


>虚妄の言論によって侵害される人の権利を無視してまで認められるべき自由なのかどうか、その点は無視して良いものではありません

この通りだと思います。
ただ本当にこういうヘイストスピーチへの規制を始めとした対策は困難(この面があるから調子にのって害毒を平気で吐くのでしょうが)な気がします。

今の空気の中では、却って空気を読まない発言は全て被災者へのヘイストスピーチということで処罰され、逆に橋下のように世間の風を読む暴言や妄言が人権を守る発言として保護されるという笑えない冗談になりかねませんものね(というより半ばそうなっていますが)。

規制は難しくともせめて役所のの復興支援を妨害するような発言には毅然と対応すること位は認めても良いような気がしますが、それすらも難しいのでは、頭が痛くなります。
Unknown (これお・ぷてら)
2011-12-12 12:40:21
お久しぶりです。TBありがとうございました。
再々開して20日余りが過ぎました。更新しなくなって1年以上が経ちますが、この間のブログ界は様変わりの感が否めませんね。
環境が若干変わり、続けていけそうな気配です(笑)。今後ともよろしくお願いします。
Unknown (ノエルザブレイヴ)
2011-12-12 21:10:38
この前ヤフーで原発関係のデマに警鐘を鳴らす記事(by産経新聞)が載っていたのですが、そこに着いたコメントは「じゃあ安全だとデマを流した国や東京電力の責任は?」といった自らを省みないものばかりだった記憶があります。
まあこの件に関しましては東京電力は大変しくじったと言わざるを得ず、それが自らを省みることを難しくしていると思うのですが、事故を起こしたのが自分ではないからといって差別的な言動を取っていいわけではないですよね…。
Unknown (非国民通信管理人)
2011-12-12 23:08:48
>アゼンさん

 ただ結果を見れば我々が(私を含めて)思い描いたほどの危険はなかったと思うのですよね。私自身も事故前までは原発や放射線に関しては曖昧な恐怖があって、そこから飛び交う情報を検証していった結果として今の見解に至るのですが、どうも人によっては反対方向に飛んでいってしまったようです。政府発表に不信を持つのは良いとして、代わりに怪しげな煽りに飛びついてしまった人が多い、その辺の問題もまたリスク管理の一貫として今後は考えなければいけません。

>ヘタレ一代さん

 犯罪事件でも「加害者」への「罰」に熱心な一方で被害者への保証には冷淡な社会ですからね。もっとも私自身、賠償の対象は非難「しなかった」人に対しても公平であるべきと考えており、これが自主避難社優先になると聞けば異論もあるのですが。ともあれヘイトスピーチを止めるのは難しい、被災地のガレキ受け入れを反対する声に毅然と対応できた人として挙がるのが傲岸不遜の石原くらいなのですから、何とも難しい状況です。

>これお・ぷてらさん

 ご無沙汰しております。いつの間にか更新が途絶えてしまうブログも多いだけに、復帰されたようで何よりです。ブログ界も原発事故を契機に箍が外れたのか陰謀論に走る人も増えたり、今回のエントリで挙げたようなあからさまなヘイトスピーチへの感度も鈍らせている人が多いように思えるのが残念でならないところではありますが……

>ノエルザブレイヴさん

 少なくともデマと言われるほど国や東京電力の発表が誤っているようには思えないのですが、その筋の人の頭の中では、脳内韓国人みたいに色々と悪さをしていることになっているのでしょうね。東京電力が過失によって火事を起こした加害者であるとしても、そこで火事場泥棒に励む人を許して良いはずがないのですが、何でもかんでも東電のせいにしておけば済むのですから非道もまかり通るというものです。
Unknown (hate_sayo)
2011-12-13 01:03:38
こんばんは。
ROMしておりました。毎度うなづきながら読んでいます。
とくに震災・原発事故このかたの、リベラル系人士の体たらくに怒りを通り越して脱力し続けています。blog右側のリンクをかなり入れ替えられた非国民通信さんにおかれてはおそらくいろいろな思いがあると考えています。

今回の早川教授の一連のツィートも、人に対しての発言として到底容認できるようなものではありえぬのに、ことさらに矮小化したり(「オウム」発言だけ行ったかのように偽装したり(このほかにも福島県民と子供を結婚させないだの福島県内ナンバーの車がやってきたら逃げるだの、差別発言はいくらでもあります)、ひどいものでは「農家を『批判』」というように歪曲・捏造といっていいようなものも見受けられました…あれが「批判」なものか!)今までの「功績」をタテにしたり、「危機を訴えるために仕方なく過激な発言をしたのだ」、などとごまかす発言がリベラルサイドから相次ぎ、呆れる通り越して寒気すらします。


ひどいものではこれなども。
ttp://twitter.com/syukan_kinyobi/status/144785228630724611
ttp://twitter.com/syukan_kinyobi/status/144789431260422145

結局容認としかとれない態度をとって批判した福島県民をバカにしています。

おっしゃるように、この早川発言を容認するなら、在特会のスピーチも容認しなければならぬ理屈になります。「不安であり」、「危機を訴えるために過激な発言をしている」のですから。

もうこの怒りをどうしたらいいのでしょう。
Unknown (amanojaku20)
2011-12-13 01:22:04
あえて過激にした。という事は適切な言い方があったと自分で認めてる訳ですよね。大学教授と言う身分であるなら、当然どちらの言い方を心がけるべきか明白だと思うのですがね。

自分たちの考える正義を守るためには過激な行動は止むを得ないと言うのがオウムみたいな過激派テロリストの論理ですが、
自分の考える正義の為に過激な手段をとった早川氏は自分こそオウム信者と思考が似ているとは思わないのでしょうか?

ヘイトスピーチやセクハラが違法ではないと考えられているようですが、日本ではともかく海外では刑事罰を受ける国もある訳で、

こんな倫理観の持ち主が教授の地位まで登りつめられたのはヘイトスピーチに寛容な国ならでは、なのでしょうね。
Unknown (非国民通信管理人)
2011-12-13 22:31:07
>hate_sayoさん

 東京新聞も大概ですが、週刊金曜日は本当にひどいですね。もはや(ネットで)真実に目覚めた人と同レベルです。自分と立場が同じであろうとも、差別を煽るような発言やデマの拡散には批判的な態度を取れるようでないと、端的に言って「やり方」の面ではネット右翼と変わらなくなってしまいます。反原発運動は盛り上がったけれど、かつて左派と目されていた人々がネット右翼と同質の行動原理に沿うようになってしまったことは、まさしく左派の敗北であると感じるばかりです。

>amanojaku20さん

 本文では排外主義になぞらえましたけれど、オウムだってそうなんですよね。教祖の説くハルマゲドンという危機を信じ、自身の奉じる正義のために反社会的な行為をも厭わなかったのがオウムであったのですから、危険視する対象以外は早川氏と何ら変わるものではありません。にもかかわらず早川氏に擁護が付いてしまうのですから、まぁ失望することしきりです。
Unknown (リンデ)
2011-12-14 17:07:50
個人的感情で忌避したい本音を、全て政府・東電などの責任という建前で自己正当化している方々に比べれば、その辺を包み隠さない早川氏はまだ正直な方なのかもしれません(どちらも最悪であることに変わりはないですけど)。
その年の一年間の世相を表す漢字に今年は「絆」の字が選ばれたそうですが、ヘイトが難無く容認されてしまうような情勢では何とも皮肉な話です。ただ、震災被災地の困っている人達を何としてでも隔離したい人々の絆、という意味では合っているのでしょうね。
Unknown (非国民通信管理人)
2011-12-14 22:18:42
>リンデさん

 まぁ害意を隠し立てしていないという点では、下には下がいるという感じで早川の方がマシと言える部分もあるでしょうか。「絆」も結構ですけれど、排他的な「絆」になっているところもあると思うんですよね。早川氏のような類いの説法を信じて、まっとうな科学者の説明には耳を傾けない、いわば刈ると的な教団内部での「絆」ばかりが深まっているとも感じられますから。

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