非国民通信

ノーモア・コイズミ

切り込む先が違う

2011-12-13 23:07:15 | 社会

生活保護費にも切り込みを…前原氏が講演(読売新聞)

 民主党の前原政調会長は10日、鹿児島県鹿屋市で講演し、社会保障・税一体改革について、「社会保障にも無駄が多い。生活保護費の半分が医療(費)だ。過剰診療、過剰な薬の投与を想起させる面もある」と述べ、生活保護費にも切り込むべきだとの考えを示した。

 「働く人が減り、65歳以上の比率が増え、莫大な借金を抱える中で、今の医療、介護、年金(制度)を維持するなら、ある程度の財源が必要だ」とも語った。

 ある意味、日本の社会保障に関する誤解を共有しているという点で、野田と前原は良いコンビなのかも知れません。各閣僚が好き勝手に行動する内閣よりも意思統一のできている内閣の方がマシではあるはずですが、こういう面で意思統一ができているってのもどうなんだろうと思います。野田の認識については先日のエントリで触れたところですけれど、要するに社会保障の不備に対して全く無自覚であるわけです。その穴だらけの社会保障から漏れた人が少なくないために生活保護受給者の増大にもつながっているのですが、この辺の因果関係が理解できていないのが野田であり前原であると言えます。

 だいたい生活保護費の半分が医療費に消えてしまうのは、要するに病人でもないと生活保護を受けるのが著しく困難だからです。民間企業から「働けない」と烙印を押された人でも、役所の窓口では「働ける」と認定されてしまう、はっきりとした病気でも持っていない限り窓口を突破できない運用になっているが故に、生活保護受給者の大半が病人となり、生活保護費の使途も医療費が半分みたいな結果にもなってしまうわけです。健康でも民間企業から「働けない」と認定された人に生活保護費を支給しておけば、とりあえず半分が医療費にはならないでしょう。前原はまず、どういう人々が生活保護を受給しているか、現実を見た方が良いと思います。

 「過剰診療、過剰な薬の投与を想起させる面もある」と前原は印象論を披露しています。妄想をたくましくするのは勝手ですが、責任ある立場の人間が自信満々に断言することで実態からかけ離れたイメージが形成されることもあるわけです(生活保護費の不正受給などはその典型と言えます)。そして誤ったイメージばかりが流布すると、政策への国民の理解も得られなくなります。必要な政策であろうとも、国民が誤ったイメージを持っている限り、その誤ったイメージに沿った政策の方が支持を集めてしまうことになるのです。結果として誤解されるばかりの生活保護は単に収入を得る手段が途絶えた(≒働けなくなった)だけでは受給できない代物になったり等々。

参考1、生活保護vsワーキングプア
参考2、不正受給の実態
参考3、リアリズムの欠如

 それ以前に金は天下の回りものです。支給された生活保護費がタンスの中に貯め込まれたり河原で燃やされたりすれば大損失ですが、医療費に使われるとなれば、いずれは国庫に戻ってきます。医療費が増えれば病院や製薬会社の収入もまた増えるのです。医療業界だって国内産業の一翼を担っていることも念頭に置くべきでしょう。「過剰診療、過剰な薬の投与」というのが実際にあるのなら是正されるべきですけれど、ともあれ支給された生活保護費が使途の如何に関わらず消費に回されているのであれば、それは景気刺激策としての財政支出という意味合いも帯びてきます。定額給付金も子ども手当も貯蓄に回されては乗数効果を生むこともなく財政を悪化させるばかりと批判されてきましたが、仮に生活保護費の方が消費に回される傾向が強いというのであれば、もっとジャンジャン金をばらまくことも考えた方が良いでしょう。

 「今の医療、介護、年金(制度)を維持するなら、ある程度の財源が必要」というのは間違っていないにせよ、医療や年金などの社会保障を維持するために生活保護という別の社会保障制度を削るというのであれば、それこそ10mの穴を掘ってそれを埋めるようなナンセンスでしかありません。元より年金制度の穴から漏れた人の存在が社会保障受給者の増大にもつながっているわけです。加えて昨今では非正規雇用、不安定雇用の増大が社会保障受給者の増加をも招いています。今後も企業側に「いつでも首を切れる都合の良い雇用」を許すのであれば、その必然的な結果として産まれる失業者のための社会保障制度も必要になるもので、実際に職を失った「元・非正規雇用」がNGOなどの力添えで生活保護を受給するようになるケースも増えてきました。このような状況で生活保護に切り込もうというのは、より日本社会をアンバランスなものにする企てでしかありません。企業側に「都合の良い雇用」を禁じるか、それとも「都合の良い雇用」によって生じる社会保障費の増大分を負担させるか、釣り合いをとるために切り込むべきは別のところにあるはずです。

 

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31 コメント

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生活保護受給者 (Bill McCreary)
2011-12-13 23:46:43
が高齢者が多いこと、管理人さんがおっしゃるようにそもそも病弱でもないと生活保護をもらうこと自体難しいと考えれば、

>生活保護費の半分が医療(費)だ。

なんてとくにおどろくにも値しないと思いますけどねえ。前原はまさか、生活保護者は医者に行くのを控えろとまでは言わないでしょうね。でもこの発言の趣旨は、それにかなり近いように思えます。
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Unknown (非国民通信管理人)
2011-12-13 23:53:51
>Bill McCrearyさん

 でも、実際にどういう人が生活保護を受給しているのか誤解したままでいる人が多くて、それに前原は乗じているんでしょうね。生活保護受給者に対するネガティヴなイメージを良いことに、医療費を食いつぶす害虫みたいに扱っては、それで社会保障の削減を正当化するみたいな思惑があるような気がします。
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生活保護…。 (アゼン)
2011-12-14 00:58:26
私が生まれ育った某県某市は、生活保護受給者といえば「この国では禁止されているはずの飛び道具を何故かお持ちの自由業の方」と「歴史的に不幸な立場ではあったのは事実だが現在は逆手にとっていらっしゃる方、あるいはその『なりすまし』の方」が大半を占めている典型の地方です(苦笑)。
そのような環境でしたので、生活保護の四文字熟語は「=恐い」に値し、前原氏の発言について「現実感が無い人が何を言ってるんだろう?」としか思えませんでした。

建前と理想論ばかりで実際は何一つしない、出来ないの党が政権だと、庶民生活が困窮してくるのは社会主義政権の国と変わらないと思う昨今。
実際、「真綿でジワジワ首を絞められている」のを日常生活で感じます。

そもそも、生活保護は困窮している家庭の為の一時的な救済と自立の為に作られた、と、昔々習った記憶があります。
が、習った時点で「嘘つき」、と、子供心に思ったくらいですから(身近が、余りにも極端なせいだったから…?(笑))、既に制度の実態が成立とはとんでもなく掛け離れているものなのでは?と思いますが、いかがでしょう?
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Unknown (くり金時)
2011-12-14 05:10:57
まぁ、この手の「改革者」は、下手しても路頭に迷う事はありますまい。そして、生活保護の申請に自ら窓口に立つことも、窓口の職員に暴言を吐かれることも。おそらく、頭の中では、「ビンボー人など、我が国にはいない。(キリッ)」位の事は、考えているんじゃないでしょうか。(それ以上のことは、「お察しください」。)
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Unknown (山階宮透)
2011-12-14 10:46:44
そもそも、生活保護の話をすると、生活保護もらって外車乗り回しているとかいう話がすぐでるんですが、本当にそれが事実なのかわからないだけではなく、伝聞なのに生活保護もらっているやつケシカランとなるのがよくわからない。
まあ、そういう悪徳なやつもいるんだろうけど、実態としてそうなの?と。イメージでしかないでしょう。不正受給は全体の0.3%だから、そこに目を向ける以上に考えないといけない。
日本では
2000万人くらいが貧困層があるとみられていて10%程度しか申請できない。生活保護捕捉率からいってもイギリスやドイツあるいはIMFが入った韓国と比べても低すぎる。
もっと生活保護を受けるべき人がいるのがこの国の現状なんだ。
となると、そもそも生活保護なんてなくていいと思っているのだろうか。それって近代国家の歩んできた道をまったく理解できていないバカのたわごとでしかないよね。
バカがたわごとをはくのは自由だが、それはまったく施策に影響をあたえるものではないはずです。
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Unknown (ルーピー)
2011-12-14 10:55:00
もらってる人間自体悪者だ、という人がいるとのことです。
 生活保護をもらいに役所に行って、受理されて出てきた人に対し、「この泥棒めが」と罵倒していたようです。
 「生活保護でパチンコや競馬やってる」なんて批判がありましたが、もうそんなレベルではありませんね。生活必需品に使ってもいけないんだ、というのが前原発言からも伝わってきます。
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Unknown (IBA)
2011-12-14 13:18:42
 生活保護費削減計画(?)のニュースを見ましたが、企業に対する言及一切なしなのが腹立たしい。
 企業に対して、生活保護受給者の雇用を義務付けてしまえばよい。雇わない企業が悪い。
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Unknown (ノエルザブレイヴ)
2011-12-14 20:17:26
確かに自分がもらっていない物をもらっている人を見るのは妬ましく腹立たしいものでしょうが…。ただ、「隣の芝は青い」という言葉は昔からあります。他人にとっては自分こそ「隣の芝」であること、そして自分が明日働けなくなるかもしれないことも少しは考えるべきでしょう。
それにしても、生活保護受給者が「リア充」に見えるというのも何か間違っている気がします。
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Unknown (amanojaku20)
2011-12-14 20:55:22
生活保護受給者を既得権益者と批判し、退治すべきとまで言う前原の迷言には、心底ゲンナリしましたね。

生活保護は最後のセーフティネットで、そこまで追い込まれてしまっている人がそこまで多い現状は政治家なら心を痛めるべきところだと思うのですが、前原にとっては違うようですね。

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Unknown (非国民通信管理人)
2011-12-14 22:19:44
>アゼンさん

 そのような風雪は幅広く流布され、そこで生み出された偏見が今回の前原発言を産む土壌ともなっているわけですね。原発/放射線問題がそうであったように「周りがそう思い込んでいる」ものと実際のところは大きく食い違うことをアゼンさんなら理解しているものと思っていただけに残念です。実際の生活保護受給者は本文でも書きましたように、何らかの病気を抱えている人が多く、それが「医療費が半分を占める」という現実につながっていることを直視してください。

>くり金時さん

 何せ、この手の人の「改革」でどれだけ路頭に迷う人が出ようとも、改革を唱えた人は生き残るというのが近年の政治の常ですからね……

>山階宮透さん

 一部の極端な例ばかりが大々的に伝えられますからね。「凶悪犯罪が増加している」みたいな印象を持っている人が多くて、確かに報道がエスカレートしている一方で統計上は着実に凶悪犯罪は減少していたりもするわけです。印象と実態が大きくかけ離れてしまう、それと同じことが生活保護受給に関しても当てはまる気がします。

>ルーピーさん

 そうなんですよね。生活保護受給者に対する諸々の偏見ばかりを募らせ、それを敵視してはばからない人がいるわけです。人間が生きる権利とか、そういうものに対する感覚が根本的におかしいと思われてなりません。

>IBAさん

 とにかく企業には甘いんですよね。日本は事業者の社会保障負担を低く抑えているのですから、その分だけ別の形で責任を果たすことが求められるのですが、生活保護受給者などを悪玉に仕立て上げることで矛先を逸らそうとしている人もいるのでしょう。

>ノエルザブレイヴさん

 むしろ格差是正措置や再分配政策にこそ「不公平」を感じるタイプの人が多いのでしょうね。弱者だから社会保障などの対象になるのに、それが特権に見えてしまう人もいるわけです。見方によっては累進課税も人頭税も、どちらも「公平」と言いうるわけですが、後者に公平性を感じるタイプが多いのだと思います。

>amanojaku20さん

 本文でも繰り返したように、雇用制度や年金制度などに穴が大きいからこそ、生活保護を必要とする人も増えてしまうんですよね。そこを政治家は反省すべきなのですが、逆に生活保護受給者を不当な受益者として描き出す、それは世間の偏見もあって行政からすれば楽な道なのかも知れませんが、日本社会を破壊する道でもあります。
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