どんまい

いろいろあるけれど、それでいい。

花のついた帽子の物語~一本の電話~

2009年04月24日 | little story
携帯電話のアラームが鳴った。
目覚まし代わりのアラームは、
何度目かも覚えていない。

布団の中から携帯電話に手を伸ばし、
アラームを切ろうと思ったら、
電話番号が表示されていた。

あぶねぇ、アラームだと思ったら、電話か・・・。
遅刻か!やっちまった。遅刻だ。
職場からの電話だぁ!

慌てて出ようとした電話番号の市外局番は新潟。
新潟?

携帯電話に登録している番号ではない。
銀行か、不動産屋か、
どっちにしても、歓迎すべき電話ではないのだろう。

そんなことを数秒間、
寝ぼけた頭で考えながら、
電話に出た。


「モチダです」


モチダさん・・・。
記憶の糸は、一気にたぐり寄せられた。


新潟のモチダさんは、あの人しかいない。


俺が新潟に住んでいた頃、出逢ったおじいちゃん。
毎日のように、帽子に花をつけ、楽しそうに散歩をしていたおじいちゃん。

初めての作品展をする時に、
写真を撮らせてくださいとお願いをし、
一緒に散歩をして、完成した作品が、


”花のついた帽子の物語”。


作品展後、アルバムに入れた写真をおじいちゃんにプレゼントした。
プレゼントしたアルバムの最後のページには、
俺の名前と電話番号を書いておいた。


ただ、電話口は、そのおじいちゃんではない。


おじいちゃんは、今年の2月に亡くなったらしいと、
新潟に住む友達から聞いた。


おじいちゃんには、同居している息子さんがいるって言ってたっけ。
電話口は、おじいちゃんの息子さんだった。


「アルバムが出てきまして、ぜひ、お手紙を書きたくて、電話をさせていただきました。住所を教えていただけないでしょうか」


すごい嬉しかった。
お礼を伝えた後、
息子さんと少し話をした。


モチダさんとの出逢い、
モチダさんを気にかけていた人が多くいたこと、
作品展で、写真を使わせてもらったこと。


ただ、モチダさんが亡くなったことについては話ができなかった。


寝ぼけた頭がさえてきた頃、
ご家族に、何か、声をかけるべきだったと、
申し訳ない気持ちになってきた。


手紙が来たら、
電話で伝えることができなかったことを書こうと思う。



*****


花のついた帽子の物語 過去の日記


花のついた帽子の物語
楽雲庵塾三周年を迎えるにあたり
花のついた帽子と地震
贈り物



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母のまなざし

2009年04月17日 | little story
君が、ここに書かれている言葉を読めるようになるのは、
もう少し先の話になるから、
隣にいる母ちゃんに読んでもらうといい。


どうだい?1週間過ごしてみた感想は?
桜は、もう観たかい?

そもそもね、君が男の子なのか、女の子なのか、
俺は、よくわかっていないのだよ。
君の母ちゃんからは、”塾生Jr.が生まれました”としか聞いていない。

Jr.ってのは、男をあらわす言葉なのか?

ブロッケンJr.も男だしな。
ブロッケンJr.ってのは、キン肉マンに出てくるキャラね。
母ちゃんに、後で、話を聞くといいよ。


1週間もたてば、名前は決まっただろうか?

俺は、名前の由来を聞くのが好きでね。
君の母ちゃんの名前の由来も聞いたことがある。
「教えたくない」って、断られたけどな。


勘違いしないでくれ。
名前の由来は、「教えたくない」って断られたけれど、
君の母ちゃんは、優しいひとだ。
これから思う存分あじわうだろう。
いや、すでに感じてるかな。


今、君の母ちゃんは、どんな顔をしてる?



桜よりも、君の笑顔に夢中になっているんだろうな。




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奇跡という言葉は

2009年04月03日 | little story
不安半分、期待半分で新生活を送る人もいれば、
3月の別れをひきずり、寂しさ一杯で過ごしている人もいるだろう。

俺も、何度となく、その別れをひきずり、
ひきずりまっくって過ごしてきた。

その別れが、
どうしようもなく辛く、
俺は、自分を慰める言葉を探した。


どれも虚しく響いた。


辛いもんは辛いし、
淋しいもんは、やっぱり淋しい。
別れなんてなきゃ良いのになと、
心が悲鳴をあげた。


その出逢いで、幸せをあじわったから、
別れで、寂しさをあじわうのも致し方ないと、
ただ、ただ、耐え、
耐えきれなくなって、時々、途方に暮れ、
泣きそうになる日々を繰り返す。
別れに慣れるという言葉はあてはまらない。
何度繰り返そうが辛いもんは辛い。


奇跡って言う言葉は、
こういう時に使うのかもしれないなと、
その出逢いを想う。





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