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オカヤドカリの飼い方【繁殖】

2014-04-06 09:33:06 | オカヤドカリの飼い方

〈オカヤドカリの一生〉
 夏になると、生息地の浜辺は、放幼にやってきた多くのオカヤドカリたちで賑わいます。
 成熟した卵を抱えたメスは、波打ち際から海に入り幼生(ゾエア)を放ちます。
オカヤドカリの誕生です。
 海中でプランクトンとして育ったゾエアは、5回目の脱皮でグラウコトエに変態して岸をめざします。
 岸近くに戻って来たグラウコトエは、小さな貝殻を背負って上陸し、波打ち際近くのゴミの下などで脱皮して稚ヤドカリになります。
 陸上での暮らしをはじめた仔ヤドカリは2年で成体になり、天敵に捕まったり車に轢かれたりしない限り、10年以上生き続けて毎年夏には海へと幼生を放ちます。
これが、オカヤドカリの一生です。 
 
〈飼育下での繁殖〉
 基本的な飼育条件を整えて、できるだけストレスを与えないようにして飼い込んでやれば、飼育下においても繁殖行動が見られることがあります。
また、オカヤドカリの捕獲時期は繁殖期に重なるため、販売されているオカヤドカリの中には、すでに抱卵しているメス個体が少なからず含まれています。
このような持ち腹の個体を放幼させることも充分可能です。
 海中でプランクトンとして成長する幼生を育てるのはそれなりに手間が掛かりますが、ゾエアからグラウコトエに変態し貝殻を背負って上陸する過程を観察するのは、とても楽しいことです。
ぜひ挑戦してみてください。  
 
〈交接〉
 自然下では5月頃からナキオカヤドカリ(Coenobita rugosus)やムラサキオカヤドカリ(Coenobita purpureus)の抱卵個体が確認されています。
 交接は産卵の直前に行われるので、この時期飼育個体を注意深く観察していれば、交接の様子が見られるかもしれません。
 交接は向かい合って、オスがメスに覆い被さるような体勢で行われます。
この時、オスは第5脚の付け根にある生殖突起を伸ばし、メスの第3脚の付け根の生殖孔の周辺に、白い糊状の精包をくっつけます。
お粥を潰して擦りつけた感じをイメージすれば近いと思います。 


 


 ナキオカヤドカリの交接
カップルはオスのほうがひと回り大きい場合が多い
5月から8月にかけて同種のオスとメスが、このような体勢で絡み合っていたら交接の可能性が高い
 それ以外ならただの喧嘩


一匹のメスに2匹のオスが同時に交接を迫ることもある
放幼直後のメス個体が近付くとオスは興奮気味になる
 フェロモンのような物を出しているのだろうか?


 
〈産卵〉
 精包を受け取ったメスは物陰に隠れて産卵をはじめます。
 生殖孔から生み出された卵は、体外で受精し腹部に付いた小さな脚(腹肢)に、付着させます。
 海生のヤドカリ類の習性に照らし合わせると、受精には水(海水)が必要だと考えるのが妥当ですが、私が観察した限りでは産卵は完全に陸上で行われ、生み出した卵を水に浸している様子は見られませんでした。
オカヤドカリの受精の方法については、今後の研究が待たれます。
 野外での観察から産卵は1シーズンに何度か行われるのではないかと推察されていますが、みーばい亭でも飼育下で2匹のナキオカヤドカリが、それぞれ2回ずつ産卵しましたので、1匹の個体がひと夏に2回以上産卵するのは確かなようです。


  
 
産卵するナキオカヤドカリ
第3脚付け根の生殖孔から産み出した卵を
第4脚と第5脚を使って腹肢へ送っているように見える。
 産卵は断続的に数時間続いた  
 



〈抱卵〉
メスのオカヤドカリは腹部に腹肢と呼ばれる三つの小さな脚を持っています。
 産んだ卵はこの腹肢に付着させて孵化直前まで守ります。
 孵化までには通常1ヶ月程度かかりますが、気温によって多少変動するようです。
 我が家で8月に産卵したケースでは孵化まで約30日でしたが、9月では37日かかりました。
 当初、卵は鮮やかなオレンジ色をしていますが、次第に黒ずんで茶色になり、孵化が近くなると今度は白っぽく変色します。
 白くなった卵を良く観察すると、中に黒い目が確認できることから、孵化直前のこの状態を発眼卵と呼びます。 
 
〈放幼〉
 孵化が近くなると母ヤドカリは落ち着きがなくなり、飼育容器の中をうろうろと歩き回るようになります。
 宿貝から上体を出し入れしたり、いきむような様子が見られたりした時は、すぐに放幼ケースに移します。
しかし実際には、このような放幼の兆候は見逃してしまうことが多いので、卵の発眼を確認した時点で対処する方が確実でしょう。
 放幼ケースはプラケースなどの適当な容器に海水を入れ、石などで陸を作った簡単なセットで充分です。
ただしエアチューブなどを伝って脱走しないように、工夫して下さい。
しっかりと閉まる蓋は絶対に必要です。
 海水は天然海水、人工海水、どちらでも構いませんが、天然海水は採水場所や処理、保存にちょっとしたコツが要りますので、初心者は人工海水を使用したほうが安全です。
 比重は1.023、水温28℃に調整し、軽くエアレーションをしておきます。
 卵の成熟をどうやって知るのかは謎ですが、その時が来ると母ヤドカリはそっと海水に入り、小刻みに宿貝から上体を出し入れします。
その動きに合わせて、水中に幼生が放出されます。

 余談になりますが、管理人は1992年に慶良間諸島近海の海中でサンゴの一斉産卵を観察した事があります。
 雄大な自然の中で無数の命が生み出される様子は、10数年を経た現在でも、全身が痺れるような感覚を伴って思い出される素晴らしい光景でした。
 飼育下においても、子孫を残そうと懸命に体を震わせて放幼するオカヤドカリの姿を見た時は、あのサンゴの産卵と何ら変わらぬ感動を覚えました。
それを自宅に居ながらにして体験できたわけですから、本当に幸せなことです。
オカヤドカリを飼育していて本当に良かったと、心から思った一瞬でした。

 一般に放幼は満月の夜に行われると言われていますが、大潮であれば満月や新月の前後にも多くの放幼個体が見られますし、中潮や小潮の夜に放幼を行うこともあります。
 我が家でも小潮の日に放幼されてしまったことがありますので、飼育下で放幼させる場合、あまり月齢にはとらわれずに、卵の状態を確認して判断するほうが確実です。
また、自然下では普通日没後に放幼しますが、飼育下では日中に放幼することもあるので、この点も注意が必要です。
 自然下では、放幼を終えて戻って来たメスに浜辺で待ち構えていたオスが交接を仕掛ける様子が観察されています。
 飼育下でも放幼を終えたメスを飼育容器に戻すと、すぐにオスが走り寄って来て交接を求めることがあります。
 放幼の直後は、交接の様子を観察する絶好の機会です。 

〈ゾエア〉
無事に放幼に成功すれば、ゾエアをすぐに飼育容器に収容します。
 飼育容器は、プラケースや水槽など、水を入れられるものなら何でもかまいませんが(あたりまえですが金属はダメ)、あまり水量を多くすると管理が大変になるので、大きくても数リットル程度の容量に押さえたほうが良いでしょう。
 飼育ケースには、放幼ケースと同様、比重1.023、水温28℃に調整した海水を入れ、ごく弱くエアーを送って水を対流させます。
ゾエアは泳力が弱いので、くれぐれもエアレーションは強くしないでください。
ポコポコと泡がひと筋出る程度で充分です。
ゾエアは一度に数千匹以上生まれますが、そのままでは過密飼育になるので、水1リットルに対して100匹くらいになるように間引きます。
 間引いたゾエアは必ず飼い主の手で殺してください。
間違っても海に捨てたりしてはいけません。
 飼育している生き物を野外に捨てることは、功徳でもなんでもなく、ただの悪質な自然破壊です。
 余剰個体を自分の手で殺す覚悟のない飼い主は、はじめから繁殖などさせないことです。
 海水魚などを飼育していれば、餌として与えてやると少しは気が楽になるでしょう。
 我が家で飼っているベラやスズメダイは、水槽にゾエアを入れると半狂乱で瞬食してしまいますし、普段はおとなしいイソスジエビも、ガラスに取り付いているゾエアを器用につまみとって、次々と食べてしまいます。
そんな様子を見ていると、飼い主としては少々切ない気持ちになりますが、反面、過酷な淘汰を乗り越えてヤドカリにまで育った野生個体の命の大切さを改めて思い知らされます。
 



ゾエア
回りの細かい生き物は
 ブラインシュリンプのノープリウス 


 

 日常的な管理としては、毎日の換水と餌やりがすべてです。
 換水は一度に半量以上を、水温や水質が急激に変化しないように時間をかけて点滴注入します。
 水温を合わせておけば、ペットボトルなどから直接注いでも大丈夫です。
 底に溜まったゴミや死骸は、水を汚しますので、こまめにスポイトで吸い出してください。
 餌はブラインシュリンプエッグを孵化させたノープリウス幼生を、毎日2~3回に分けて与えます。
ナキオカヤドカリやムラサキオカヤドカリのゾエアは孵化時すでに 2.5mmほどの大きさがありますので、最初からブラインシュリンプで充分です。
ゾエア期は4回の脱皮に伴い1期から5期に分けられますが、識別はサンプル個体を固定して顕微鏡で観察しないと困難ですから、我々一般の愛好家は、少しずつ育って行く幼生を眺めて楽しめばそれで良いと思います。
ゾエアの期間は水温28℃でおおよそ20日くらいです。 

 〈グラウコトエ〉
 ゾエアは5回目の脱皮で、まったく別の生き物かと見紛うほど劇的に変態します。
ゾエア期には体を折り曲げて不器用にしか泳げなかった幼生が、グラウコトエになると第一脚を斜め前方に突き出して、直線的に素早く泳ぐようになります。
また、しっかりとした歩脚で水底を歩きまわり、時には陸にまで上がってくることもあります。
 一足先にグラウコトエに変態した幼生は、その機動性をフルに発揮して、変態前の兄弟たちを襲います。
ビクビクとしか泳げないゾエアたちを、グラウコトエが次々と狩る光景はなかなか凄絶なものです。
グラウコトエには、ゾエアと同様ブラインシュリンプを与えますが、自分と同じくらいの大きさのゾエアを襲うくらいですから、ブラインシュリンプも別容器で3mm程度まで育てたものを与えたほうが効率的に摂食させることができると思います。
また、この頃から、エビ卵、魚肉、藻類、それに配合飼料やクリルなども食べるようになりますので、水を汚さないように注意しながら、少しずつ与えてみてください。
 食べるようであれば、少しずつ生き餌を減らして、切り替えていきます。

 変態して1週間も経つと、グラウコトエはそろそろ貝殻を背負いはじめます。
 我が家で飼育したムラサキオカヤドカリのグラウコトエは、変態後4日目で貝殻に入りましたので、変態を確認した時点で、貝殻を投入しておくほうが安心です。
 水底で貝殻を見つけたグラウコトエは、成体と同じように鋏脚で開口部のサイズを測り、気に入るとすっと飛び込みます。
オカヤドカリを育てていて、ひとつの達成感を感じる瞬間です。
グラウコトエが最初に背負うのは、大体米粒ほどの大きさの貝殻です。
 小さな貝殻を集めるのは大変ですが、こればかりは他の物では代用できませんから、頑張って用意してください。
ポケットビーチを半日も這い回れば、結構な数を集めることができるはずです。
グラウコトエが貝殻に入れば、湿らせた砂の陸地を用意して、上陸に備えます。
 水槽になだらかな砂浜を再現するのがベストですが、小さな飼育容器ならサンゴや石などでスロープを作ってやってもいいでしょう。
 貝殻を背負ってしばらくすると、スロープを登って上陸をはじめます。
エアチューブなどを登ることもあるので、脱走にはくれぐれも注意してください。



クリルに群がるグラウコトエ

 
貝殻を背負いはじめたグラウコトエたち 


上陸するグラウコトエ


エアチューブを登るグラウコトエ
思わず「がんばれ!」と声援を送りたくなるが、くれぐれも脱走には注意すること 


 

〈稚ヤドカリ〉
上陸したグラウコトエは、陸上で脱皮をして稚ヤドカリになりますが、変態するまではけっこうな日数が掛かりますので、その間保温や保湿に留意しながら注意深く管理する必要があります。
 私が飼育した個体では、完全に変態したと確認できるまでに、上陸後20日以上かかりました。
グラウコトエは温度や湿度が低くなるとすぐに死んでしまいますので、高温多湿(30℃前後、80%以上)の環境を与えてやるのが、コツといえるでしょう。
 乾燥を防ぐために濡らした海綿やキッチンペーパーなどをおいてやると効果的です。
 上手く稚ヤドカリに変態させることができれば、あとは成体とほぼ同じ様に飼育することができます。

ただし稚ヤドカリもグラウコトエほどではありませんが乾燥には弱いので、砂は充分に湿らせて、引き続き湿度を高め(80%以上)に管理してください。
 自然下では、打ち上げられたゴミやサンゴ礫の下、石垣の隙間などに隠れていることが多いので、サンゴや石などを組んで、隠れ場所を作ってやると良く利用します。
 体が小さくちょっとした隙間からでも脱走しますので、くれぐれも蓋は厳重にしてください。
 餌はエビや魚肉などの動物質を中心に、ニンジンやサツマイモなどの野菜を小さく切って与えると良いでしょう。
 仔ヤドカリの成長は早く、個体にもよりますが、翌春には前甲長3~4㎜ほどの立派なオカヤドカリになりますので、宿貝は早めに用意してやってください。 




 稚ヤドカリ 


 

 〈オカヤドカリを繁殖させるということ〉
 オカヤドカリの人工繁殖については資料が少なく手探りからのスタートでしたが、結果的にはごく簡単な器材でそれなりに育てることができました。
ここに記した基本的な条件を整えてやれば、ゾエア幼生を成体まで育て上げることは充分可能なはずです。
 特にアクアリウムの知識や経験を持った飼い主にとっては、それほど難しいことではないでしょう。

 日本国内に生息するオカヤドカリ類は、北限の個体群であり、中でもムラサキオカヤドカリは固有種であると考えられています。
このような貴重な生き物であるにも関わらず、毎年何トンもの個体が捕獲され、ペット用に流通しています。
もちろん、オカヤドカリを飼育すること自体は、健全な趣味であり何ら非難される行為ではありませんが、ひと夏だけのインテリアとして保温もせずに死なせたり、悪趣味なペイント貝を着せた玩具として扱ったりする人間が、少なからず存在するのも事実です。
 天然記念物にも指定されている貴重な生き物であるオカヤドカリが、心無い人間たちの手で無駄に浪費されるのは、本当に悲しいことです。
オカヤドカリの繁殖させるということは、もちろんペット用として流通する個体を養殖個体で賄うことによって、自然に与えるダメージを軽減することにも繋がりますが、それ以前にそれぞれの飼い主が、手元で飼育している個体一匹一匹を大切にする心を育むことになるのではないかと思います。
 販売業者などのサイトでは、オカヤドカリの人工繁殖は無理だと、はなから決め付けるような記述が見られますが、それは嘘です。
 現に我が家では、100均のタッパーと数百円のエアポンプといったありあわせの器材で、毎年貝殻を背負って上陸するまで育てています。
 充分な知識を持つ飼育家が、きちんとした設備を整えて真剣に取り組めば、もっと効率的な繁殖技術はおのずと確立されていくことと思います。
 乱獲と共に、生息地の無秩序な開発によって、オカヤドカリは日々その数を減らしています。
 天然個体の捕獲が全面的に禁止されるのも、そう遠い先ではないでしょう。
オカヤドカリは飼育の難しい生き物ですが、その分飼育動物として大きな魅力を持っています。
 現状で捕獲が禁止されれば、せっかくここまで育ってきたオカヤドカリの飼育文化が消えてしまうことは必至です。
そうならないためにも、多くの飼い主が繁殖に取り組み、少しでも早くオカヤドカリの人工繁殖技術が確立されることを願ってやみません。

※最新の繁殖情報はこちら
みーばい亭のヤドカリ話 No.33 オカヤドカリの繁殖2008

みーばい亭のヤドカリ話 No.37 オカヤドカリの繁殖2009 繁殖のツボ


みーばい亭のヤドカリ話 No.41 オカヤドカリの繁殖2010 大上陸への道


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