読書な日々

読書をはじめとする日々の雑感

『東京坊っちゃん』

2023年05月15日 | 作家ハ行
林望『東京坊っちゃん』(小学館、2004年)

1949年、東京生まれの著者の少年時代の回想記である。

父方は、父親はのちに東京工業大学の先生、伯父は東京大学総長にもなったような人の家系であり母方は軍人の世界にいたような家系であってみれば、いわゆる底辺層の庶民ではないが、終戦直後のみんな貧しかった時代は、みんなこんな少年時代を過ごしたんだろうというような世界である。

小学校低学年までの子どもにとって「世界」は狭い。とくに鉄道線路を見ると、なぜかしらこの線路の向こうには何か知らない世界があるという気持ちになるくらい。リンボウ先生も道の角の柳の木までが「世界」だった時期があると書いているが、よくわかる。

田舎育ちの私には小学校と家とのあいだだけが「世界」で、とくに小学校とは反対側に向かう道路の先は異界のようなものだ。だからなんかの機会に、上級生たちに連れられてほんの数百メートル先の村まで行ったときには、なにやら怖くて、逃げ帰った思い出があるくらい。

そしてだんだんと「世界」が広がってくると、級友と学校の帰り道で今まで通ったことがない道をあるてみたり、田舎暮らしなので、山の麓のほうへ入ってみたりしながら、だんだんと冒険を企てるようになる。田舎暮らしの私なんかにとっては、せいぜいアケビの実を手にれたりすることくらいしかないが、リンボウ先生の場合には都会ぐらしなので、東京の(とくに父親が通っていたという東京工業大学のキャンパスで)冒険をしたりしたようだ。

別にリンボウ先生の思い出話にケチをつけるわけではないが、こういう幼少期の思い出話って、本人にしか意味がないと思う。こんなものを書いて金にしようとしたりする著者や編集者の気が知れない。



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