【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

一強のおごり

2018-09-23 21:35:29 | Weblog

 自民党総裁選挙や政治のあり方について、朝日新聞が安倍さんを批判していました。だけど、この批判って、なんのため? 「おごる人間」には批判は届きません(届かないからこそおごりが生じます)。「おごらない人間」には批判は届きますが「おごらない人間」に「おごってはならない」は真っ当な批判ではありません。さらに、マスコミは「第4の権力」なのですから「政治家がおごってしまった」は「マスコミの罪」でもあります。もしかして、マスコミもおごってしまっているのかな? マスコミを批判してそれで態度を改めさせる存在って、ありましたっけ?

【ただいま読書中】『死体は嘘をつかない ──全米トップ検死医が語る死と真実』ヴィンセント・ディ・マイオ、ロン・フランセル 著、 満園真木 訳、 東京創元社、2018年、2500円(税別)

 法医学はパズルだ、と序文で高らかな宣言が為されてから本書は始まります。短くたたみかけるような文章のキレの良さが快感です。たったったと早足で進んだかと思うと急転回、そこで瞬時も立ち止まらず著者はまた早足直進を続けます。
 日本の法医学者にも本書と同様の「パズルを解く」本がいくつもあります。ただ本書の特徴は、著者の意志の強さ、「正義」(公正な真実に基づいて行動すること)についての意識が常に見えること、それと、日本の本ではお目にかかったことがない「死体の写真(それも解剖台の上に乗せられた“きれいな死体"ではなくて、殺害現場での生々しいもの)」が掲載されていることです。
 アメリカでは地域によって「検死官制度」か「検死医制度」のどちらかが採用されています。検死官は選挙で選ばれた素人で専門訓練は受けていません。だから著者はそちらには否定的な態度です。「選挙に勝つ」ことと「死体から科学的に情報を得る」とはまったく別の話ですから。
 著者が解剖をして死因を特定したことから、全米に大きな波紋が広がった事件が次々紹介されます。非常に大きな「パズル」です。ちょっとユニークなのが「リー・ハーヴェイ・オズワルド」。彼がソ連に亡命中にそっくりさんとすり替えられていたのではないか、という疑惑を解明するために、1981年に墓を掘って遺体を再解剖することになりました。その担当に著者が指名されたのです。
 日本まで名前が届いていない人(の死体)にも、重要な意味があります。そして著者は次々と「パズル」を解いていきます。ただ「パズル」として提示されるから解くことができますが、「自然死」とか「明らかな自殺」として片付けられていて「パズル」にされない事件も多いはず。そのことに著者は苛立ちを隠しません。アメリカでは死因に疑念がある人が5人に1人なのに、それがそのまま事件ではなかったことにされている、と。著者はただ真実を告げようとします。ただその真実が「満足のいくもの」とは限らないことが、困ったものではあるのですが。
 テレビドラマの「CSI」や「NCIS」では、法医学者の仕事はけっこうすっきりしています。ちゃちゃっと解剖して、あるいは現場を見ただけで「死亡推定時刻は6時30分、死因は○○に見えるが本当は××」と断言できます。だけどそれはドラマだから。現実はなかなかすっきりしません。さらに、すっきりとスジをつけた説明ができたとしても、それを聞いた事件の関係者やマスコミや裁判官や陪審員が、すっきりと受け取るとは限りません。特に対立する側の弁護士は、あらゆる手を使って著者を攻撃してきます。とっても不愉快だろうな、と私には思えます。真実(のかけら)を見た人が、そんなものを見ようともしない人間に「お前はものを知らない」と攻撃されるのですから。
 凄惨な事件が次々登場しますが、最後の章は「フィンセント・ファン・ゴッホ」です。彼の自殺の真相を巡って、なぜ著者に電話がかかってくることになったのか、そしてその結果がどうなったか、「歴史ミステリー」もどうかお楽しみください。