【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

公約

2018-09-13 06:47:18 | Weblog

 最近の政治家は「これが私の公約です」と大声で主張していましたっけ? 主張しなければ「公約を破った」と非難されずにすむから、実はできるだけしたくない、とか?

【ただいま読書中】『頭脳 ──才能をひきだす処方箋』林髞 著、 光文社、1958年、130円

 「脳の教育」のためには「身体の鍛錬」とは別の発想が必要だ、と著者は主張し、大切なのは「読書と思考」「栄養」「睡眠」を三本柱とします。当時「頭のよい人は脳が重い」と俗に言われていましたが,著者はそれを「機能と重量は無関係」と明確に否定します。さらに「脳のシワ」の数や深さも脳の機能(頭の良さ)とは無関係、と否定。著者は根拠を欠いた俗説が大嫌いのようです。
 大脳生理学の立場から、「大脳は、部位によって機能の分担をしている」「大脳自身には痛覚がない」などが解説されます。今は「脳科学」の時代で、こういったことは“常識"となっていますが、昭和30年代前半にはおそらく一般の人には「新鮮な知識」だったことでしょう。
 また、脳に比較的多く含まれているグルタミン酸がガンマ・アミノ酪酸に変化して脳内で重要な働きをしていることが実験でわかったことが紹介されます。そしてそれが「ばかにつける薬」になる可能性が示されます(いやあ、古い本だから、現代の“常識"からは差別用語とされる言葉がつぎつぎ登場するので、そういったものが嫌いな人は本書を読まない方が良いです)。さらにグルタミン酸の代謝過程に、ビタミンB6とB1が重要な働きをしているのではないか、と強い推測が示されます。
 著者の学問上の師匠はパブロフ博士で、二人の会話が紹介されていますが、とても味があるものです。これを読むだけで、私は本書の“もと"が取れた気がしました。
 本書出版時、「強国」と「日本」の違いとして著者は「主食」に注目します。強国はパンを食べ、日本は米食。さらに白米食は「ビタミンB欠乏食」です。この二つの事実を論拠とし、著者は「頭脳の働きを良くするためには、パンを食べろ」と主張します。ただ、大人はもう手遅れだからあきらめて、せめて子供にパンを食べさせろ、と。さらに「老人のボケや頑固さ」もまた、白米によってもたらされたものだ、と著者は主張します。
 「○○を食べれば、頭がよくなる」とか「頭が悪くなるから、××を食べてはならない」という主張の昭和33年バージョンです。(江戸時代の「鰻を食べれば精がつく」とか、明治時代の「ホルモンを食べれば元気になる」とかもありますから、日本人はこの手の話が大好きなのでしょう。現代でもサプリや健康食が大流行です) 面白いのは「科学的な根拠を示しつつ、いかにもありそうな話を仕上げていること」です。非常に真面目に、しかも面白く、ちょいと刺激的に「米食」について啓蒙していますが、「白米ばかり食って脚気になったりせずに、バランス良く食事を考えろ」という主張は、現代にも通じる真っ当なものです。しかし、パンを食うだけで世界が征服できたら、楽なんですけどねえ。


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